平成27年度産業医科大学入学式が挙行されました。


産業医科大学では、4月3日(金)10時から、入学式を執り行いました。


学長式辞については、以下のとおりです。DSC_2718.JPG

学長  式辞 
                   
東   敏昭

 ご入学おめでとうございます。教職員を代表し、皆さんの入学を心から歓迎いたします。大学は毎年新しい力を得て若返ります。皆さん方は、これから始まる大学生活に対する期待で、胸を大きく膨らませていることでしょう。

産業医科大学は、働く人の健康を保持増進するという国の政策目的を達成するために設置された大学です。皆さん方は、受験に際し、入試要項その他でこの本学の設立趣旨や特色について十分検討した上で入学を志したものと思います。働く人の健康を守り、さらにその可能性を広げることに寄与する産業医学、産業保健活動の意義は大きく、社会の基盤を支えるものです。こうした意義への理解を、これから受ける関連した講義、実習のなかで次第に深めていただければと思います。

さて、この講堂はラマツィーニホールと名付けられています。この名称は17世紀から18世紀のイタリアで活躍した医師の名にちなんだものです。ラマツィーニは、世界で初めて職業と病気の関係に注目し、40種類以上の職業について、罹患しやすい疾患の特徴を調べ、その成果を1700年に書物に著したことから、産業医学の父とも呼ばれています。本学はこの講堂の落成を記念して、その初版本を購入するとともに、このホール正面に、ラマツィーニの彫刻を設置しました。全身像は世界でここだけということで、国内外を含めこれまでに多くの訪問者が、彫刻の前で記念写真を撮って帰ります。DSC_2732.JPG

ラマツィーニは、職場で取り扱う有害物や、仕事の進め方が原因で起こる疾患があることを見極め、医師は患者を診る時、食べ物や生活環境の他に「あなたの職業は何か」ということを聞くべきとし、また医師は仕事に関わる健康を阻害する要因を知るべきとしています。この質問や姿勢は、今でも重要で、最近でも印刷機の保全に関わる作業に従事した人から、胆管がんが多発することが確認されましたが、もっと早く臨床医の間で「あなたの仕事は何ですか」の問診が一般化し、そこで取り扱う有害物への関心がもたれていたら、早期の予防対応ができたと考えます。

さて、世界の中でも最も早く少子、高齢となった日本が、手本となる成熟社会をどのように構築していくかに、世界の関心が集まっています。成長の点では厳しい状況の中で、活力を高め、多くの国民が安心して、幸福感をもって生活できる社会を創ることが必要です。こうした社会実現のための施策の中に、科学技術の振興があげられ、医学・医療など健康分野も最重点領域に含まれています。また、将来にわたる発展と活力の維持のため、大学を始めとする高等教育機関での人材育成、研究推進に加え地域社会への貢献に期待が寄せられています。現在、世界に伍する高次教育機関育成のための学校改革が必要とされている背景でもあります。

 

私は、学校改革の本質とは、大学を学びの場として再確認し、学生が自ら考え、問題を解決する力をつける支援をすること、ガバナンスに関わる学校教育法の改正は、責任と権限の所在を明確にし、構成員が建設的に議論に参加することを促すものと考えます。現在進められている医学教育の改編は、専門職として育つ人材が世界で通用することを担保することであり、本学も柔軟に対応できるものと考えます。本学は、産業医学、産業保健は社会の礎である働く人の健康を支援し、より積極的に生産的活動に参加できることに貢献する人材育成、研究ならびに社会貢献を行うことを矜持とすべきと考えます。

本学は産業医学・産業保健を専門的に教育する唯一の大学として、国内でもまた国際的にも、その名が知られてきています。卒業生が社会で活躍し始めて30年を超えるに至り、日本の産業医学・産業衛生ならびに産業保健制度は、産業医科大学の輩出した人材なくしては語れないまでになってきました。産業保健分野のリーダーとなる人材の輩出の他、震災後の復興支援での貢献や、地域社会の信頼できる医療基盤としても高い評価を受けています。また、毎年夏には日本中の医師が産業医学を勉強し、資格をとるために本学に集まってきます。海外からも、学会出席や共同研究、研修等のために多数の専門家が毎年滞在しております。最近は、私立国立を問わず、大学改革が叫ばれ、各大学ともどう個性を出すかについて大変苦労しております。しかし、産業医科大学は、設立目的がはっきりしています。

 

本学では、卒業時に医師や看護師、保健師、作業環境測定士、衛生管理者など、全員が何らかの国家資格を取得しますが、これらの資格はいずれも人々の生活の基盤、働く人の活力を支える仕事です。これから、真に社会的評価に応えられる専門家になるための基礎を大学生活で身に付けるよう勉学に励んで欲しいと思います。

基礎、臨床、社会医学の各分野それぞれの教員が、学生教育の場で責任をもって、世界に通じる知識・能力を身に付ける機会を提供してくれます。しかし、何よりも大学での勉学では自らが求める姿勢が重要です。皆さんに期待したいのは、受け身では身に付かない、答えのない事象に積極的に取り組み、考える力を身に着けていただきたいと思います。こうした姿勢を初代学長の土屋健三郎先生は「哲学する医師・医療人」と称して目標とされておられました。

皆さんが、本学に入学を果たし、今ここにいることは、皆さんにとって大変有難く感謝すべきことのはずです。ご両親だけでなく社会が皆さんにこの境遇を与えてくれたことを忘れないでください。今まで支えてくれたご両親や恩師だけでなく、社会にも感謝して、これからの学生生活に取り組んでください。パキスタンで、女子が教育を受ける権利を訴えて武装勢力に頭を撃たれたマララ・ユスフザイさんは、「すべての子どもに教育を受ける権利の実現を」というニューヨークの国連本部で演説し、1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界を変えられます。教育こそがただ一つの解決策です。エデュケーション・ファースト(教育を第一に)。」と、訴えました。勉強できるということは、世界ではこれほど貴重なありがたいことというメッセージでもあります。世界に目を向けることも忘れてはならないことです。

学生生活のみならずこれからの人生で、苦労をすることも今後の大切な糧となるでしょう。自然科学や社会科学の分野には未だ検証が必要な課題が多く残っています。また、社会は必ずしも特定の価値観で動いているものではありません。課題を見出し解決する創造的な姿勢が、皆さんの将来にとって必要なものとなります。あきらめず、努力するひたむきな姿勢が実を結ぶことを忘れないでください。仲間や教職員との繋がりが大きな助けになるはずです。

人は様々な経験を通じて成長していきます。経験に無駄なものはありませんが、ひたむきに向き合ってこそ、身になるものです。「時分の花」より「まこと(真)の花」という言葉があります。能の世界では、若さがもたらす一時的な芸の面白さを「時分の花」というそうです。対して鍛錬の末に獲得できる本当の面白さを「真の花」といいます。皆さんの目指す道はこの「真の花」への道だと思います。繰り返しになりますが、大学は学びの場であることを忘れないで勉学してください。たくさんの経験をしてください。本学の教員も職員も皆、皆さんを支援してくれます。

本学に在籍し、本学を卒業したという事実を、一生のキャリアの中で胸を張って大いに誇れるよう、本日からの学生生活を有意義に過ごしてくれることを期待します。