平成29年度 入学式が挙行されました


産業医科大学では、4月5日(水)10時から、入学式を執り行いました。


    学長式辞については、以下のとおりです。

  産業医科大学学長  東  敏昭 
                                              

  皆さんのご入学に際し、改めて産業医科大学の設立の目的と、今の社会での意義をお話ししたいと思います。本学は、働く人の健康を守り、増進するという目的を達成するために設置されました。働く人の健康を守ることは、人の可能性を広げること、これに寄与する産業医学、産業保健活動の意義は大きく、社会の基盤を支えるものです。多くの人々が様々な職業で生き生きと働き、社会に貢献し、また自己実現できることによって、健全な社会が成り立ちます。このための研究、臨床、人材育成を行うことが、本学の存在意義になります。

 DSC_0594.JPG 皆さんが生まれた時代は、かつて世界に賞賛され繁栄の中にあった日本が、失われた20年という低迷の時期に入った頃でした。「この時代の最大の損失は、日本の多くの人が将来への希望、より高い次元での発展が待ち受けているという楽観的な期待を持てなくなったことである。」とする論説があります。現在、少子高齢化が急速に進んでいる国の一つである日本は、成長の点では厳しい状況の中にあります。活力を高め、多くの国民が安心して、幸福感をもって生活できる社会を創ることへの挑戦が求められています。こうした社会の実現のために、施策の中に科学技術の振興があげられ、医学・医療など健康分野も最重点領域に含まれています。日本がいかにして手本となる成熟社会を構築していくかに、世界から関心が集まっています。

  本学では、卒業時に医師や看護師、保健師、作業環境測定士、衛生管理者など、全員が何らかの国家資格を取得します。これらの資格はいずれも人々の生活の基盤、働く人の活力を支える大切な仕事です。社会からの期待が高まっていくことは大学への求人の状況からもわかります。皆さんが、真に社会的評価に応えられる専門家になるための基礎を大学生活で身につけてほしいと考えます。受験が終わってホッとしているかもしれませんが、まさにこれからこそ勉学に励んでほしいと思います。基礎、臨床、社会医学の各分野それぞれの教員が、学生教育の場で責任をもって、世界に通じる知識・能力を身につける機会を提供してくれます。しかし、何よりも大学での勉学では自らが求める姿勢が重要です。皆さんに期待したいのは、受け身では体得できない、答えのない事象に積極的に取り組み、考える力を修得することです。

 

  知識と仕組みを学び、学生間での議論や、教員への質問を通じて自分の身につけることを厭わないでください。知識の吸収、考えることのいずれが欠けても成長はありません。本学の初代学長の建学の精神という講演の中に「哲学する医師・医療人」という言葉があります。広く社会を見て、人との意見交換を通じて、考え、判断する力を一生涯にわたって磨き続けて欲しいと思います。

 

  ヒポクラテスは、紀元前5~4世紀の古代ギリシャの医師で、医学を迷信や宗教から離れ、臨床観察を重んじて、原因を究明する科学へと変容させたことから、現在でも医聖と呼ばれています。人間がおかれた環境が疾病の発生に関与することを示した著作もあります。彼が残した言葉の中に「5つの箴言」があります。「人生は短い(Vita brevis)、されど、技芸は永遠である(Ars longa)」という有名な言葉で始まります。ここでいうArsは技術、芸術、学問を指します。これに続く言葉が、「好機は逃げやすい(Occasio praeceps )、経験は騙されやすい(Experientia fallax)、チャンスは瞬く間に消えることが多く、経験というものはあまり信用できない」としています。そして、最後が「判断するというのは最も難しい(Judicium difficile)」という言葉です。哲学する医師・医療人に通じる箴言と考えます。

 

  IMG_6096.JPG さて、この講堂はラマツィーニホールと名付けられています。この名称は17世紀から18世紀のイタリアで活躍した医師の名にちなんだものです。ラマツィーニは、世界で初めて職業と病気の関係に注目し、40種類以上の職業について、罹患しやすい疾患の特徴を調べ、その成果を1700年に書物に著したことから、産業医学の父とも呼ばれています。本学はこの講堂の落成を記念して、その初版本を購入するとともに、このホール正面に、ラマツィーニの彫刻を設置しました。全身像は世界でここだけということで、国内外を含めこれまでに多くの訪問者が、彫刻の前で記念写真を撮って帰ります。

 

ラマツィーニは、職場で取り扱う有害物や、仕事のすすめ方が原因で起こる疾患があることを見極め、医師は患者を診る時、食べ物や生活環境の他に「あなたの職業は何か」ということを聞くべきとし、また医師は仕事に関わる健康を阻害する要因を知るべきとしています。この質問や姿勢は、今でも重要で、最近でも印刷機の保全に関わる作業に従事した人の胆管がんの多発、規制のゆるやかであった染色に従事した人の膀胱がんが確認されました。もっと早く臨床医の間で「あなたの仕事は何ですか」の問診が一般化し、そこで取り扱う有害物への関心がもたれていたら、早期の予防対応ができたと考えます。

 

本学は産業医学・産業保健を専門的に教育する唯一の大学として、国内でもまた国際的にも、その名が知られてきています。卒業生が社会で活躍し始めて30数年を経て、日本の産業医学・産業衛生ならびに産業保健制度は、産業医科大学の輩出した人材なくしては語れないまでになっています。本学には臨床医学・臨床看護学から基礎医学・基礎看護学、社会医学、環境保健学といった幅広い分野にわたる優秀な教員が在籍しています。このことが、より多くの人を救える人材の育成に役立ってきたと信じます。産業医学・産業保健の中心として、毎年夏には日本中の医師が産業医学を勉強し、資格をとるために本学に集まってきます。また、本学が長年蓄積した産業医学・産業保健のノウハウを還元することを目的に、東京においても研修会等を実施しています。

 

人は様々な経験を通じて成長していきます。本学では海外の大学・機関とも交流をより進めていきたいと考えています。皆さんにも学生時代に海外との交流に参加する機会が提供されます。積極的に参加して視野を広げてほしいと思います。部活もアルバイトなど経験に無駄なものはありませんが、ひたむきに向き合ってこそ、身になるものです。一方で間違いもあります。社会は必ずしも特定の価値観で動いているものではありません。医師、保健職、技術者に対し社会が求める内容も変化し、医学教育の分野では、カリキュラムの内容や国家試験の出題基準も大きく変化します。特に医学部では、大変な競争時代が控えています。過去の試験問題への依存や他人のレポートの盗用、進級に関わる先輩の武勇伝に惑わされ、手痛い失敗をした例は少なくありません。是非、推薦された教科書を買って勉強してください。手を抜かず、モラルを守ることの大切さを学んでほしいと思います。

 

皆さんが、本学に入学を果たし、今ここにいることは、皆さんにとって大変ありがたく感謝すべきことのはずです。ご両親だけでなく社会が皆さんにこの境遇を与えてくれたことを忘れないでください。今まで支えてくれたご両親や恩師だけでなく、社会にも感謝して、これからの学生生活を充実させてください。その第一歩として、挨拶は相手の気持ちを理解する入口です。ぜひ、構内で挨拶することを心がけてください。

 

繰り返しになりますが、大学は学びの場であることを忘れないで勉学してください。たくさんの経験をしてください。本学の教員も職員も皆、皆さんを支援してくれます。本学に在籍し、本学を卒業したという事実を、一生のキャリアの中で胸を張って大いに誇れるよう、本日からの学生生活を有意義に過ごしてくれることを期待します。                           

                               以上

 

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