平成29年度産業医科大学卒業式が挙行されました


産業医科大学では、3月6日(火)10時から、卒業式を執り行いました。

 

学長式辞については、次のとおりです。DSC_0863明.jpg

 

 学長  式辞
                   
東   敏昭

  本日、本学を巣立つ皆さん、ご卒業おめでとうございます。また、長い間この日を待ち望んでおられたであろうご家族の皆様方に対して、産業医科大学の教職員を代表し心からお慶びを申し上げます。

  大学を卒業するということは、自分の判断と責任で社会生活を開始する、皆さんにとって人生の一大転機です。これから、皆さんには様々な場所、環境、組織に入って、職業人としての研鑽する日々が待っています。入学時、皆さんは全国から産業医科大学で学ぶためにこの地に集まり、学生生活を共にしてきました。同級生同士は勿論のこと、先輩、教職員、地域社会との関係の多くが、人生における新たな出会いであったと思います。大学在学中に修得した専門知識や技術に加え、経験や人間関係の全てが大学生活で得た財産です。私は、皆さんの学生時代が、とても有意な時期であったと信じますが、それにも増して、より充実した幸せな時期を、これからこそ持っていただきたいと思います。大学生活で得た財産を大いに活用して欲しいと考えます。

 

皆さんが十代以降の学生生活を送った時代に、世界ではリーマンショック、シリア内戦の勃発と激化、テロの頻発、日本では東日本大震災、熊本地震、北部九州豪雨などの大きな事件や災害がありました。現在、国際的には閉鎖性や対立の潮流があります。長年にわたり築き上げてきた秩序や価値体系が変わらざるを得ない激動の時期といえます。皆さんはいわゆる「手に職を持つ」人たちで、景気動向による影響を受けにくい側面があると思いますが、自身の研鑽、努力を怠れば、科学技術の進歩、産業構造や社会制度の変化に対応できなくなる危惧があります。これからの人生では安定の保証はないことを覚悟し、本当の専門家として、環境の変化にも科学技術の進歩にも遅れることなく、専門職、職業人として社会に受け入れられるよう、これまでにも増して研鑚に励んでください。IMG_6786.JPG

 

また、皆さんが社会を支える立場になる日本は、世界で最も高齢化が進み、少子化問題に直面しています。これに対応する社会制度の未整備や、産業の競争力の低下などから、国際社会の中で日本の相対的地位や将来への期待度が小さくなっていることは否めません。世界の国々は、日本がこのような状況の中で、どのように活力を高め、多くの国民が安心して、幸福感をもって生活できる社会を創っていくかに、大きな関心を寄せています。本学卒業生は、医師や看護師、保健師、作業環境測定士、衛生管理者など、全員が何らかの国家資格を取得しますが、いずれも働く人を中心として、人々の活力を支える仕事です。働き方改革、活力創造が求められる今、最も必要とされている分野です。

 

  本学は改めて言うまでもなく産業医学を専門とする大学です。特に学外では、産業医学、産業保健、環境医学分野への貢献が期待され、また評価されています。大学の中にいると、社会が大学をどのように見ているかという視点を失いがちですが、産業医科大学の卒業生が産業医学・産業保健の場で活躍するのは、外部の目からは極めて自然に写り、素直に評価されやすいためです。ただ、国内外の変化に、大学も無関係ではなく、特色や強みを持ち続けるためには、常に社会の変化に対応する進化を模索し、その価値を高める必要があります。医科大学は、研究や診療面での業績や社会貢献等により評価されますが、卒業生の活躍はそれにも増して大切な視点です。大学の評価が上がれば優秀な学生が集まるという正の循環につながります。卒業生自身が社会で活躍する上でも母校の評価は大切で、評価が高ければ活躍範囲と機会が広がります。皆さんが活躍すればするほど、大学と卒業生両者がその果実を得るという循環関係にあります。 

 

  医学部の卒業生には、研修医の時代は、恥をかいてもよい学びの時期として、どんなことも積極的に取り組んでほしいと思います。看護学科卒業生には、社会の需要と期待の中、職業人としてキャリアを重ねる上でのメンタル面の強さとよき相談者をもつことに留意してほしいと思います。環境マネジメント学科卒業生には、よりよい働く環境を創る担い手として、変化に対応する柔軟さを持ち、研鑽を続けてほしいと思います。皆さんは、まだ巣立ったばかりです。常に謙虚で我慢強く、また、今までに培った人間関係や新たな職場で課せられた課題について相談できる相手を持ちましょう。近い将来に訪れる、TECH社会(高度技術社会)は新たな課題を生み、これに対応できる不断の努力が必要になるでしょう。難しい課題は一人で抱えこまず、産業医科大学が時代が求める大学として、この地にあって、常に皆さんの傍にいることを忘れないでください。 IMG_6806.JPG

 

  本学は今年開学40周年を迎え、卒業生が社会で活躍し始め、社会的地歩を得た今、日本の産業医学・産業衛生ならびに産業保健制度は、産業医科大学の輩出した人材なくしては語れません。本学がある折尾を産業医学・産業保健のメッカ、人材育成拠点と評した人がいますが、そのゆえんです。世界で唯一の産業医学・産業保健を中心にすえた本学への評価は、本学構成員のみならず国内外での卒業生の活躍にかかっています。現在、数多くの卒業生が産業医学・産業保健の実務の分野で活躍しています。また、卒業生からの教授就任数は、医学部卒業生では現在までに、合計60名を数え、比較的後発の医科大学にとって、この数は決して少なくありません。近い将来、産業保健学部卒業生からも新たな教授の誕生が期待されます。

 

  最近報道されている、企業における多くの不祥事で、背景にある制度や環境に注目が集まっていますが、根本は人間として独立し、人間のあるべき姿を真摯に考え、凛として行動する人間力が弱くなっていることが問題と考えます。他者に対する思いやりに乏しく、不自然なこと、問題のあることをただす勇気の欠如です。幸い、皆さんは、働く人への健康阻害要因を正す行動が社会から期待される職業につきます。常に「人間愛に徹し、哲学する医師・産業保健専門職たれ」とする建学の精神を、心に持っていてほしいと思います。東日本大震災では本学教職員が発生当初から被災地での医療支援や原発復旧作業に関わる作業員の方々等の健康管理に寄与し、今も作業者の健康影響調査研究に参画しています。このようないつ起こるかわからない災害などに対しては、いつでも手を挙げられるよう、努力と準備をし、普段からの知識や技術の習得が不可欠です。一昨年発生した熊本地震への義援金活動などに示された皆さんの速やかで多大な貢献は、本学の誇りと思います。

 

  紀元前5~4世紀の古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、医学を迷信や宗教的な対応から、臨床観察を重んじ、原因を究明する科学へと変容させたことから、現在でも医聖と呼ばれています。人間がおかれた環境が疾病の発生に関与することを示した著作もあります。彼が残した言葉の中に「5つの箴言」があります。人生は短い(Vita brevis)、されど、技芸は永遠である(Ars longa)という有名な言葉で始まります。ここでいうArsは技術、芸術、学問を指します。これに続く言葉が、好機は逃げやすい(Occasio praeceps )、経験は騙されやすい(Experientia fallax)、チャンスは瞬く間に消えることが多く、経験にというものはあまり信用できないとしています。そして、最後が判断するというのは最も難しい(Judicium difficile)という言葉です。DSC_0875.JPG

 

  大学は、多くの知識と技能とともに、創造性と人間性を身につける場でもあります。また、箴言にある「限られた時間の中で、普遍の力を、機会を逃さず、一部の経験にとらわれず、真摯に判断する力(哲学する力)」を養う修練の場でもあります。建学の精神として多くの卒業生の記憶に引き継がれている、「人類愛に徹し、哲学する医師・産業保健職」とは、どうあるべきか、いかに行動すべきかを考え抜く医療人を指します。一人の人間として、常に自らの理性と倫理観をもって、社会や組織に悪しき流れがあっても、これに流されることなく凛として立つあり方をさしています。この倫理観と見識は、人間としての力の基本です。常に心に留めておいてほしいと思います。 

 

  最後に、皆さんの大学生活は、ご家族や教職員ばかりでなく、修学資金、大学への補助金という形で、経営者や働く人たち、社会からの支援によって支えられてきました。そこには、働く人の健康を守り、働く人を支援するという形で社会に貢献することへの期待が込められています。常に「人が働く上で必要な健康に関わる支援」について考え、寄与するためにいかに行動するかということを念頭においていただければと思います。皆さんの大学生活は、誰もが経験できるものではない「有難い」ものです。産業医科大学を卒業した職業人あるいは学究として、何を成すべきかを常に思い起こしていただきたいと考えます。人との繋がりを大事にすること、小さなことですが、まずは恥ずかしがらずに挨拶をすることも大切です。

 

  働く人々のために、一人でも多くの卒業生が、本学の目的である産業医学・産業保健の発展に寄与してくれることを期待して、記念すべき日の餞の言葉といたします。 IMG_6839.JPG

  


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