平成26年度産業医科大学卒業式が挙行されました。

  

 3月3日(火)10時から、ラマツィーニホールにおいて、平成26年度産業医科大学卒業式(医学部卒業者98名、産業保健学部卒業者88名)が執り行われました。

   

 学長式辞については、以下のとおりです。DSC_2225.JPG

                    

                               学 長 式 辞

 

東   敏昭
  

 

 

卒業生の皆さん、本日はご卒業おめでとうございます。また、長い間この日を待ち望んでおられたであろうご家族の皆様方に対して、産業医科大学の教職員を代表し心からお慶び申しあげます。

いつの時代でも大学の卒業というのは、自分の判断と責任に基づく社会生活を開始する、人生にとっての一大転機と思います。これから、皆さんには様々な地、組織に入って、職業人として研鑽する日々が待っています。

入学時、皆さんは全国から産業医科大学で学ぶためにこの地に集まり、学生生活を共にしてきました。同級生同士は勿論のこと、先輩、教職員、地域社会との関係すべてが、いわば人生の出会いでした。大学教育で修得した専門の知識・技術に加え、これら全てが大学生活で得た財産です。私は、皆さんの学生時代が、有意な時期であったと思いますが、それにも増して、より充実した幸せな時期を、これからこそ持っていただきたいと思います。そのために、大学生活で得た財産を大いに活用してほしいと考えます。

これからの国際的な競争社会では、大学は高い社会的評価を得ることが発展の条件です。大学の評価は、通常、現在の構成員の研究や診療面での業績や社会貢献等により決まると考えられていますが、卒業生の活躍はそれに負けず劣らず大切な側面です。大学の評価が上がれば優秀な学生が集まるという、正の循環につながります。卒業生自身が社会で活躍する上でも母校の評価は大切で、評価が高ければ活躍範囲と機会が広がるのです。つまり、皆さんが活躍すればするほど大学と卒業生両者が得をするという循環関係にあります。

本学は本年度末で開学後37年が経過します。卒業生が社会で活躍し始めて30年を超えるに至り、日本の産業医学・産業衛生ならびに産業保健制度は、産業医科大学の輩出した人材なくしては語れないまでになってきました。世界が認める唯一の産業医学・産業保健を中心にすえた大学の真価は、国内外での卒業生の活躍にかかっています。医科大学の一つの評価尺度として、卒業生からの教授就任数があります。医学部卒業生では、現在のところ、本学教授に18名が就任しており、本学以外の41名を加えると、合計59名が活躍しています。比較的後発の医科大学にとって、この数は決して少なくありません。

特に学外では、環境医学や産業医学関係が評価されております。本学は改めて言うまでもなく産業医学を専門とする大学です。大学の中にいると、社会が大学をどのように見ているかという視点を失いがちですが、産業医科大学の卒業生が産業医学・産業保健の場で活躍するのは、外部の目からは極めて自然に写り、素直に評価されやすいためです。今後は、産業保健学部卒業生からも新たな教授誕生が期待されます。

世界では経済的にも人口学的にも若い成長期を終えた国々と今成長期にある国々の間の相克、各国で進む経済的二極化などよる軋轢、地域における利権に関わる対立など、危険をはらむ不安定要因が増しています。日本は急速に高齢社会となり、少子化に直面するといった人口構造と、これに対応する社会制度の未整備などから、国際社会の中で相対的地位や将来への期待度が低下していることは否めません。日本人がこれからどのように世界の手本となる成熟社会を構築していくかに世界の関心が集まっています。

日本がこのような状況の中で、活力を高め、多くの国民が安心して、幸福感をもって生活できる社会を創ることが改めて求められています。本学卒業生は医師や看護師、保健師、作業環境測定士、衛生管理者など、全員が何らかの国家資格を取得します。これらの資格はいずれも人々の活力を支える仕事で、今、最も必要とされている分野です。これから、真に社会的評価に応えられる専門家になるために積む研鑚や経験を、一層の糧として、求められる社会の実現に寄与することができます。

ただ、これから皆さんが活躍しようとしている我が国の社会は、様々な面で激動の時期を迎えております。長年にわたり築き上げられてきた秩序や価値体系は変わらざるを得ないかもしれません。皆さんはいわゆる「手に職を持つ」人たちですから、普通の人より影響を受け難いと思っている人もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。科学技術の進歩、産業構造の変化、社会の制度が変われば活躍する環境も変わります。皆さん方の前には安定した社会は全く保証されていないと覚悟し、本当の専門家として、環境の変化にも科学技術の進歩にも遅れることなく、専門家として社会に受け入れられるよう十分な研鑚に励んでください。

DSC_2009.JPG平成23311日に発生した東日本大震災からまもなく4年になります。皆さんが在学中あるいは入学直前に起こった未曾有の大災害として記憶に残っていることと思います。本学においては発生当初から被災地や福島第一原子力発電所に医師派遣などを行い、被災地での医療支援及び原発復旧作業に関わる作業員の方々等の健康管理を行っており、現在も継続しています。

被災地は、いまだ復興したといえる状況ではありません。皆さんも、このような支援に是非貢献していただければと思います。また、いつ起こるかわからない災害などに対して、いつでも手を挙げられるよう、努力と準備をしていただければと思います。そのためには、普段からの知識や技術の習得が不可欠です。

中国の古典に、孫子の兵法があります。これは経営者に最も読み継がれてきた経営指南書の一つです。この評価の高い英語版の序文に、孫子の兵法の神髄を君子が稀代の名医に問う逸話があげられています。答えて、「私の長兄は病気を起さぬよう差配したため名は家中が知るにとどまりました。私の二番目の兄は病気を軽いうちに治したため名は近隣が知ることになりました。私は重病をいくつか治したため名医との誉は国中にとどろきましたが、孫子は長兄の策こそ、また、仕事こそ至上と説いています」といったというものです。産業保健、時に医療の神髄もそこにあります。これが、産業医大における人材育成の根本と考えます。

皆さんの大学生活は、保護者や教職員ばかりでなく、修学資金、大学への補助金という形で、経営者や働く人たちといった社会からの支援によって支えられてきました。そこには、働く人の健康を守り、働く人を支援するという形で社会に貢献することへの期待が込められています。皆さんが、それぞれの活躍の場で、「人が働く上で必要な健康に関わる支援」について考え、寄与するためにいかに行動するかということをいつも念頭においていただければと思います。産業医科大学を卒業した職業人あるいは学究として、何を成すべきかを常に考えるということ、これが建学の精神として記憶に継がれている「哲学する医師・保健職」の主旨と考えます。

働く人々のために、一人でも多くの卒業生が、本学の目的である産業医学・産業保健の発展に寄与してくれることを期待して、記念すべき日の餞の言葉といたします。

 

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