学会受賞者
第13回日本骨粗鬆症学会 学術奨励賞 受賞報告
第13回日本骨粗鬆症学会が2011年11月3日から5日まで神戸国際会議場で開催されました。今回のテーマは、『骨粗鬆症診療における多領域の連携』と掲げられました。今回、第一内科の森博子先生が、『日本骨粗鬆症学会 学術奨励賞』を受賞されました。学術奨励賞は、当該年度の学術集会における応募演題のうち優れた研究発表を示した若手研究者4名に、その発展を奨励するために授与される賞であり、学術集会プログラム委員が採点を行い、高得点候補者を選考した後に選考委員会で決定されます。
今回選ばれた森先生の発表演題は、「チアゾリジンの骨代謝・骨質に及ぼす影響についての検討」でした。近年、糖尿病治療薬であるチアゾリジン誘導体を服用している患者、特に女性において骨折頻度を高める可能性が報告されていますが、骨折リスク上昇の原因は不詳で、PPARγのヒトでの骨代謝に及ぼす影響も不明です。そこで、森先生は、2型糖尿病患者においてチアゾリジン誘導体であるピオグリタゾンの骨代謝や骨質に及ぼす影響についてメトホルミンを対照群として前向き研究を行いました。ピオグリタゾン投与により骨吸収マーカーが上昇し骨形成マーカーは変化しませんでした。また、骨質マーカーの悪化傾向を認めました。基礎研究では、PPARγが骨芽細胞形成を抑制することが報告されていますが、ヒトにおけるピオグリタゾンの破骨細胞への作用は不明でした。今回の検討結果より、森先生はピオグリタゾンはPPAR-γ活性化によりc-fosを介して破骨細胞分化を誘導し、骨形成・骨吸収の骨代謝不均衡を齎して骨質を悪化させ骨折リスクを高めるという機序を推測しました。
常日頃より田中良哉教授は”bench to bedside”ということを掲げられておられます。森先生は、日常診療におけるbedsideより得られた情報をbenchに、そしてその原因を突き止め、再びbedsideに戻したいと考えて研究をしており、今回の発表はまさに「基礎から臨床への架け橋」となる研究のきっかけとなるものでした。また、高齢者社会において増加の一方を辿り、大きな社会問題となっている骨粗鬆症・糖尿病を、骨代謝・糖代謝連関という観点から研究したものであり、今回の学会テーマである『骨粗鬆症診療における多領域の連携』を表している発表であったと思われました。

(第一内科学講座 岡田 洋右)

第84回日本内分泌学会学術総会 EJ優秀論文賞 受賞報告
第84回日本内分泌学会学術総会が2011年4月21日から23日まで神戸国際会議場・神戸国際展示場で開催されました。今回のテーマは、『内分泌代謝学の多領域との融合と新たな展開』と掲げられました。
今回、西田啓子先生が、『日本内分泌学会 EJ優秀論文賞』を受賞されました。EJ優秀論文賞は、過去3年間にEndocrine Journalに掲載された論文のうち、citation indexの最も高い論文の筆頭著者に贈られる賞であります。2001年よりこの賞は設けられ、今回は西田啓子先生がみごと選ばれました。
今回選ばれた論文は、“Induction of hyperadiponectinemia following long-term treatment of patients with rheumatoid arthritis with infliximab(IFX) an anti-TNF-alpha antibody”で、Endocrine Journal 2008,55(1), 213-216に掲載されたものであります。
論文の内容は、関節リウマチ患者に対する抗TNF-α抗体(インフリキシマブ)長期投与により血清高分子アディポネクチンが増加することを臨床的に初めて証明したものです。RA患者寿命は一般より10歳短く、心筋梗塞発症率は健常人の5倍であり、その生命予後には動脈硬化形成が密接に関連します。TNF-αは慢性炎症病態において動脈硬化形成に大きな役割を果たしますが、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチン(Adipo)はTNF-αに拮抗し動脈硬化抑制に作用します。TNF-α拮抗剤であるインフリキシマブ(IFX)の動脈硬化に対するヒトでの影響は不明であり、IFX3 mg/kgの動脈硬化に及ぼす影響をRA患者にて検討しました。当然、IFX投与22w後よりCRPおよびRAの疾患活動性の指標であるDAS28は有意に低下し病勢の明らかな抑制を認めました。その一方で、Adipo、HDL-Cは有意に増加していました。DAS28、ステロイド投与量による層別解析ではAdipo増加に関して有意差を認めず、病勢、ステロイド量、年齢、血圧、BMIに関わらずAdipoは増加していました。更に、AdipoはDAS28の投与前値、炎症改善率と相関を認めず、IFX無効例においても増加していました。以上より、抗TNF-α阻害療法はRAの症例背景や疾患活動性に関わらずAdipoを増加させ、滑膜炎制御とは異なる機序を介した動脈硬化進展阻止が期待されるのではないかと推測されました。
この論文は、当科の免疫感染症分野を担当されている先生方の多大なるお力添えにより、まとめることができたと思います。まさに、今回の学会テーマである『内分泌代謝学の多領域との融合と新たな展開』をあらわしているものではないかと思われました。

(産業医科大学医学部第1内科学講座 森 博子)

  文責:第1内科学講座 中山田 真吾 更新日:2013年06月03日
 
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