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講義と実習

1. Early Medical Exposure(早期医療体験)(1年次)

講義:12コマ(実習を含めて2単位)
 入学者全員を対象に、重症心身障害児施設で2泊3日の体験学習を行っている。これは、医学専門教育未修の新入生の立場で、いきなり治療困難な医療現場に遭遇し、医療の厳しさとその限界を身をもって体験することを目的としている。会話困難な障害者のケアを通して、患者とのコミュニケーションの難しさを実感できる貴重な機会が提供できるものと考えている(表5)。
これは前任者の伊藤幸郎教授(当時)によって導入されたものを実習期間を延長してそのまま受け継いだ実習であり、その意義に関して次のようなコメントを残しておられるのでここで紹介したい。

「医学概論は単なる医学入門ではなく、総合人間学としての役割を目指している。医師は医師である前に人間である。病とは、生とは、死とはを考察することなしに単なる技術者になり下がることは許されない。しかも、最近の医学界における専門的技術偏重の影響は卒前教育に反映し、“医師としてのマナー”を知らない若い医師を簇出させている。医学生は確かに知的エリートかもしれないが、人間への苦悩への共感を欠いている者は医師失格である。本実習は病める者への共感とともに、人間共通の“生の意義”を考えさせるために企画した。(医学教育、第17巻、第4号、1986より)」

  これはEarly Exposureの基本精神として、現在でも依然として新鮮さが決して失われることがないものである。
  実習までには実習に関連した6コマの講義があり、オリエンテーションは筆者が1コマ使って行った後、実習直前に各施設の実習担当者がグループ別に1コマ用いて行っている。実習後の報告会は20名程度の小グループ分かれて4コマ使って行い、最後に各施設の担当者と教員とで反省と総まとめを行っている。

2. 生命倫理・医学史(2年次)  講義:12コマ(2単位)

 古典的な医の倫理から現代バイオエシックスまでを歴史的・体系的に講義している(表6)。講義テーマは、バイオエシックス入門、インフォームド・コンセントの基礎と実際、人格論、医療資源の配分、生殖医療、臓器移植、ヒトゲノム解析などである(表7)。また、講義と併行して、95名を10グループに分けて、学生自らが選んだ生命倫理テーマについて3ヵ月間に亘って調べさせ、6000字以上の論文形式でまとめた上で1グループあたり30分以内の研究発表会(8:50〜16:10)を補講として行っている。発表テーマは、性同一障害、医療における情報開示と個人情報の保護、堕胎について、再生医療、臓器移植、終末医療などである(表8)。予想に反して、多くの学生たちが意欲をもって取り組んでいる印象があるが、今後は客観的に学生からの学習効果に関する評価を把握する必要があると考えている。

3. コミュニケーション医学、医療人類学(東洋医学)(3年次)

講義12コマ(2単位)
 医療面接の方法について、症例のシナリオを用いて医師?患者関係のロールプレイを行っている。これは、5年次の先取り学習として取り入れたものである。医療人類学では、比較文化精神医学や東洋医学の講義を行っている。特に、2年前より、漢方医学の系統講義のコマ数を増やし、今年は5コマ実施している。臨床医学を本格的に学ぶ前に、病気を疾患(disease)としてのみでなく病い(illness)として理解させることを目標としている。また、伝統的な漢方医学や漢方以外の東洋医学および補完代替医療を西洋医学と対比させて学ぶことで、医学の本質や医療の本来の在り方が原点に立ち返って理解してもらうことが東洋医学の講義の目的である(表9,10)。
 なお、3年次では講義の他に、学術論文コース(表11)、体験学習コース(緩和ケア病棟、漢方診療実習、カトリック修道院、禅寺など)(表13)、英文コースを設け(表12)、学生らが自由に選択できるように配慮している。体験学習の意義であるが、非日常体験として人間の極限状況に近い経験をすることで、患者としての疑似体験や人間としての根源的な霊性体験を実感することであると考えている。

4.漢方医学各論、臨床死生学、臨床倫理学(4年次)12コマ

 漢方医学の実践は、人間学としての医学の実践そのものであるとの医学概論の立場から、陰陽、虚実、気血水、六病位(太陽病期、少陽病期、陽明病期、太陰病期、少陰病期、厥陰病期)について、具体的な症例を基に「証の決定」と方剤について学習することを目標にしている。また、実際の診察の仕方についても実習を行っている。 臨床死生学では、臨床患者さんの心理的変化のプロセスと患者さんと向かい合う具体的な方法について学ぶことが目標である。臨床倫理学では医療現場で医師として倫理的ジレンマとして悩む事例について、グループ討論と発表会を通じて学習する(表14)。

5. 医療面接実習(4年次) OSCE 5コマ

(臨床診断学の一部として実施)
 OSCE(Objective Structured Clinical Examination)で医療面接を担当しているため、模擬患者さんに協力してもらって面接実習を行っている(表15)。グループ別ロールプレイ実習では、医学概論の専任教員2人に加え、臨床各科の講師以上の方々8名に協力してもらって実習を行っている。模擬患者の方々(12名)は、2年前に自主的参加により誕生した一般市民の方々であり、医学概論教室が主催して月に1〜2回の研究会を開催している。
この実習の第一義的な目的は、「苦悩する人間への共感的態度」を身につけることであり、詳細な患者シナリオを模擬患者の方々に演じてもらった後の学生へのフィードバックを重視している。学生に対する教育や評価は教員によって差がどうしも生じるため、事前の打ち合わせや反省会を大切にしている。

6.アドバンスド臨床倫理(6年次) 統合講義として9コマ

  臨床実習が終了した最終学年ということで、Advanced Clinical Case Study、医事紛争とコミュニケーション、臨床判断が求められるAdvanced OSCE 医療面接、医療倫理の総まとめなどの講義を行っている(表16)。

 なお、これら全ての講義を筆者一人で行うことはその能力からいって不可能であるため、必要に応じて学内外の有識者の方々にご協力していただいている。

 

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文責:産業医科大学 医学概論教室  最終更新日H21.5.20