研究内容

われわれの研究分野は一言でいうと「惑星科学」です. 惑星科学という分野は,太陽系の地球,火星や木星などの惑星,さらに太陽系以外の惑星系が,我々生命も含めてどのようにしてできあがったのか,を物理学や化学,生物学などを駆使して解明しようとする分野です.

宇宙には,太陽など恒星の素になる「分子雲」が存在することが観測によってわかっています. 分子雲には主成分である水素とヘリウムガスの他に,微量ですが氷や岩石の微粒子(サブミクロンサイズ;宇宙塵と呼ばれています)が含まれています. 分子雲が重力的に収縮して中心に水素ガスが集まると恒星が誕生します. ほとんどの物質は恒星に落下しますが,落下前に少しだけ回転する成分を持っていた物質は恒星の周りに「原始惑星系円盤」と呼ばれる円盤を形成します(近年の観測技術の向上により,実際に「すばる」望遠鏡などで円盤の状態などが詳細に観測されるようになりました). この円盤の中で塵が合体成長して惑星になったと考えられています. つまり,サブミクロンの粒が46億年間に数千kmの惑星になるわけです.

ところが,スタート地点(分子雲)とゴール地点(現在の太陽系)は分かっているのですが,途中,どのようにして塵が惑星に成長したのか,ほとんど分かっていません.

われわれは,この成長過程を室内実験,天体観測,理論計算によって研究しています.

室内実験

惑星の成長過程の基本は衝突・合体です。つまり、大きくなるためには物体どうしが衝突しなければなりません。 どのような条件で衝突すると、どのような結果になるのかを惑星形成の各段階で理解することが「衝突・合体・成長」の過程を理解することにつながります。 そこで、高圧ガス、火薬、火薬+ガス、レーザーなどを使って飛翔体を加速し、様々な条件での衝突過程を実験室で再現することによって クレーター、破壊、放出物、などについて詳しく調べています。(門野)

天体観測

太陽系にある小天体(小惑星や彗星)の観測を日本国内外の望遠鏡を用いて実施し、太陽系の成り立ちに関する基礎情報を得る研究を行なっています。 太陽系が現在の形に至るまでには原始太陽系星雲内でダストが集積し、それらが衝突・合体して微惑星になり、そして惑星へと成長していく過程があったはずです。 大きく成長した惑星は自らの熱で表面や内部が変性を起こしているので(分化と呼ばれます)、惑星の上で太陽系の古い記録を探すことはとても困難です。 それに対し、太陽系小天体は小さいため、多くの場合ほとんど熱進化をしていません。言い換えれば、太陽系小天体は太陽系形成の初期段階の姿をほぼそのまま保持した「化石」のような天体です。 われわれはこのような太陽系小天体を観測することで、惑星の形成期から現在に至るまでの太陽系の歴史を解き明かそうとしています。特に海王星より遠方にある天体は暗くて観測が困難なため、いまだに十分な調査が行われていません。 宇宙の遠方については130億光年彼方の天体が観測できる時代になっても、です。そのような太陽系の外縁部は太陽から遠く、温度が低いため、氷の世界が広がっているはずです。 そうした未踏の領域を様々な観測手法を駆使して調べることが大きな研究目標です。(吉田)

理論計算

彗星や小惑星などの太陽系小天体は、太陽系の起源と進化の理解を助ける多くの情報を持っています。 小天体の軌道の形や空間分布といった要素もそのひとつです。 私達が現在観測する小天体は45億年の誕生当時から同じ軌道を回っているわけではありません。 惑星や銀河系の重力を受けてこれまでに大きく変化したものがたくさんあります。 このような小天体の軌道の進化を数値計算や解析的手法を用いて研究することで、太陽系の過去と現在の力学的な環境を明らかにします。 その結果を観測や実験から得られた情報と合わせることで、太陽系の起源や今後の進化、ひいては太陽系外惑星系を含めた一般の惑星系の解明につなげていきたいと考えています。(樋口)