世界の石綿関連疾患に関する研究

 肺がん・中皮腫・石綿肺症等の石綿関連疾患(ARD)は、世界の職業がんの中でも最多の死亡数を占め、産業保健の最重要課題の一つとなっている[1]。当研究室ではこれまで十年以上にわたり、世界規模での石綿使用実態や「ARDパンデミック」に着目した活動を続けてきた。最近グローバルヘルスの枠組みの中で、様々な疾病について疾病負担(Burden of Disease, BOD)の考え方が適用されるようになり、産業保健分野も例外ではなくなった[2]。当研究室でも世界保健機関(WHO)や海外研究機関等と連携しながら、国、地域、世界の様々な段階で、報告/予測死亡数、年齢調整死亡率、生命損失年数(PYLL)等を適用しARDの疾病負担について疫学的評価を進めてきた。

 

 石綿の使用禁止はARDの根絶にとって最も有効な予防手段であるが、曝露から発症までの潜伏期間が数十年という長期間にわたるため、現在のARDの疾病負担は、過去に石綿を大量使用し現在は使用を禁止した国々に集中している。一方、最近の石綿使用量が多い非禁止国では、経済的動機や医療資源の乏しさを含む様々な理由からARDの報告例はほとんどない。このような背景から、曝露から発症に至るまでの潜伏期間と国ごとの石綿使用の経過を鑑みると、今後は石綿の使用を続ける国々へ今後ARDの疾病負担が移行していくことが予想される。

 

 当研究室は2008(平成20)〜2010(平成22)年度および2012(平成24)〜2014(平成26)年度の日本学術振興会JSPS支援事業として、「ARD根絶のためアジア・アスベスト・イニシアチブ(AAI)」と称する国際セミナーと国際協力活動を展開し、日本、タイ、韓国、フィリピン、インドネシアの5か国で計7回の国際セミナーを実施した。WHOは「ワーカーズ・ヘルス」にかかるグローバル・プラン・オブ・アクション(GPA)の2012-2017年グローバル・マスター・プランの中で、AAIを正式事業に採用し、本実績は産業保健分野におけるWHO指定協力機関のグローバルネットワーク活動に関する成功事例の一つとしてWHOが出版した報告書において紹介された。

 

 このように当研究室ではこれまでWHO等国連専門機関が目標とするARD根絶に資することを目指し、学術論文による研究報告に加え、国際セミナー開催、ツールキット開発、人材の相互派遣を含む国際協力活動に取り組んできた。

 

This department conducts research on the global burden of asbestos related diseases with collaboration of prestigious researchers on occupational health in the world. The department had provided the expertise on asbestos related diseases and asbestos exposure since 2014. Global Burden of Diseases (GBD) is the world’s largest systematic, scientific effort to quantify the burden of over 330 diseases and has being conducted research on global burden of disease since 1997. It has over 2000 collaborators all over the world.

 

JAMA:

 

Lancet:

[文責:産業医科大学環境疫学研究室]
[更新日:2021年4月1日]