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e-learning【かかりつけ医研修】

研修事業開始までの経緯


高齢化社会が到来してさらに医学の一層の進歩により障害を持った高齢者は増加しており、医療や福祉におけるリハビリテーション(以下、リハ)の役割は益々重要になってきた。リハに対する膨大な社会的ニーズに応えるためには、リハ科専門医ばかりではなくかかりつけ医の積極的な取り組みが期待される。特に、維持期リハを効果的に実施するには、かかりつけ医の果たす役割は大きい。

産業医科大学リハ医学講座は、産業医科大学リハ医学セミナーの名称でリハ医療に関与する医師のために、1989年より年間4〜回勉強会を開催してきた。1997年には対象を医師ばかりではなく北九州周辺に在住するリハ医療関係者に広げ、名称を北九州リハ医学セミナーと改称した。さらにこの勉強会は2006年北九州リハ医会へと改組し、北九州市医師会の分科会として認定され、リハ医療の実践的話題を取り上げ医師会会員のリハ科医師ばかりではなくかかりつけ医にも参加を呼びかけることにした。この中でリハ医療の基本的診察法、訓練、リハ対応などに関して、焦点を絞って20分間程度で分かりやすく解説する教育講演を企画してきた。これらの教育講演は、かかりつけ医が日常診療においてリハの立場で診察して患者・家族に助言すること、あるいは介護保険のもとでリハの立場で意見書を作成し介護予防に関与することを想定し、これらに必要な基礎知識を提供するものである。

これらの状況のもとで、平成 19年度厚生労働省老人保健事業推進等補助金(老人健康増進等事業)を受け、産業医科大学リハ医学講座および北九州リハ医会を中心として,北九州市医師会および北九州市保健福祉局の協力を仰ぎ、かかりつけ医のリハに関する意識調査を実施し,その結果に基づきかかりつけ医が希望するリハ診察手技,障害判定方法,リハ基礎知識に関する研修会を開催することにした。さらに研修会の講演をもとにして e-learning 教材を作成し、北九州市医師会ホームページおよび産業医科大学リハ医学講座ホームページを経由して「かかりつけ医のためのリハビリテーション研修」のページ(http://www.reha-uoeh.jp/)に到達することができ、ユーザ名「kma」、パスワード「(北九州市医師会会員に通知)」を入力するとe-learning教材が閲覧できるようにした。この研修会やe-learningの効果に関しては、アンケートを追加しさらに面接調査を行い、今後のリハ研修のあり方、維持期リハを効果的に実施するためのかかりつけ医役割に関して検討し、提言を行う予定である。

かかりつけ医の希望する研修項目調査


介護保険のリハビリテーションに必要なかかりつけ医のリハビリテーション知識を明らかにするために、北九州市医師会会員を対象とした意識調査を行った。調査用紙を2007年9月12日に1788名に郵送し、10月31日までにfaxにて回答が得られ1011名を解析対象とした。有効回答率は56.5%、(男性 893名 女性110名 不明6名)、平均年齢は57.4±13.4歳であった。
 
専門診療科は内科が209名(20.7%)と最も多く、次いで整形外科88名(8.7%)外科71名(7.0%)の順番であった。リハビリテーション科は8名(0.8%)に過ぎなかった。所属施設は診療所が596名(59.0%)と最も多く、次いで病院344名(34.0%)であり、この2つで全体の93%を占めた。

 
所属施設別のリハビリテーションへの関与を示す。

 
医療リハビリテーションへの関与は307名(30.4%)であった。病院所属が最も多く344名中174名、次いで診療所所属の596名中121名(20.3%)が関与していた。

介護保険のリハビリテーションへの関与は223名(22.1%)であった。診療所所属が最も多く596名中118名(19.8%)、次いで病院所属の344名中92名(26.7%)が関与していた。

医療リハビリテーションへの関与は病院所属医師が多く、介護保険のリハビリテーションへの関与は診療所所属医師が多いという結果であった。

専門科別リハビリテーションへの関与を示す。

医療リハビリテーション関与は整形外科が専門の医師が88名中65名(73.9%)と最も多く、次いで内科209名中62名(29.7%)、外科71名中32名(45.1%)の順番であった。

介護保険のリハビリテーションへの関与は内科が専門の医師が209名中64名(30.6%)と最も多く、次いで整形外科88名中25名(28.4%)、外科71名中21名(29.6%)の順番であった。

介護保険のリハビリテーションでは、医療リハビリテーションと異なり、整形外科医、外科医の関与が少なく、内科医の関与の割合が大きかった。

介護保険のリハビリテーションに関与しているかかりつけ医の訪問診察への関与を所属施設別に示す。

介護保険リハビリテーション関与している医師223名中、訪問診療へ関与しているのは110名(49.3%)であった。所属施設別では診療所所属が最も多く106名中80名(75.5%)が関与しており、次いで病院所属63人中27名(42.9%)が関与していた。

介護保険のリハビリテーションに関与しているかかりつけ医の訪問診察への関与を専門科別に示す。

最も関与しているのは内科医であり、次いで外科、整形外科の順番であった。

介護保険のリハビリに関与するかかりつけ医が必要性を感じたリハビリテーション知識と希望するリハビリテーション教育内容を示す。

必要な知識は@介護保険・福祉サービス(116名)、AB地域連携(69名)廃用症候群の対策と予防(69名)C各種診断書の書き方(65名)、D専門職種とチームアプローチ(62名)の順番であった。

希望する教育内容は @廃用症候群の対策と予防70名 A嚥下障害の見方と指導法67名 B介護保険・福祉サービス63名 C筋力評価と訓練指示56名 D地域連携53名 E脳卒中の維持期リハ48名 F歩行障害の見方と指導法45名であった。

さらに全体を制度、システムや連携、基本的リハビリテーション医学知識、その他として検討した。制度に関しては、臨床的に必要とされる知識は介護保険・福祉サービスであったが、それに対する教育の希望は54.3%に止まった。その他として各種診断書の書き方についても教育の希望は必要性を下回った。

基本的リハビリテーション医学知識に関しては、廃用症候群、嚥下障害、筋力評価訓練の必要性が高く教育希望も多かった。

日常生活動作に関しては必要性に比べ教育希望は下回った。基本的リハビリテーション医学知識としては、廃用症候群、嚥下障害の必要性が高く教育の希望も多かった。廃用症候群に関してはそれに対する各論的な知識が必要なことは云うまでもないが、その予防や治療にはリハビリテーション知識を総動員する必要があり、そのことを十分踏まえて今後のe-learningを主体とする教育啓蒙活動の内容検討が必要である。また今回、認知症に関しては触れなかったので、今後の調査が必要と考えられた。


研修会とe-learning


【かかりつけ医のためのリハビリテーション研修会開催について】

かかりつけ医のリハに関する意識調査アンケートの結果より,希望の多かった研修項目を中心に研修テーマを8項目決定し、「かかりつけ医のためのリハビリテーション研修会」を2日間に渡って開催した。研修会では、1日に4テーマずつ、1テーマ20分間の講習を実施した。研修会の詳細について、以下に示す。

◇第1回 (平成19年10月25日小倉医師会館にて開催、178名参加。)

@「筋力について」産業医科大学リハビリテーション医学講座 教授 蜂須賀研二

A「関節可動域について」産業医科大学リハビリテーション医学講座 教授 蜂須賀研二

B「片麻痺重症度について」産業医科大学リハビリテーション医学講座 准教授 佐伯覚

C「日常生活動作について」産業医科大学リハビリテーション医学講座 准教授 佐伯覚


2回 (平成19年11月15日市立商工貿易会館にて開催、125名参加。)

@「歩行障害について」産業医科大学リハビリテーション医学講座 講師 和田太

A「嚥下障害について」産業医科大学リハビリテーション医学講座 助教 松嶋康之

B「廃用症候群について」産業医科大学リハビリテーション医学講座 助教 高橋真紀

C「介護保険と福祉サービスについて」小倉リハビリテーション病院 院長 浜村明徳



e-learningコンテンツの作製方法】

e-learningコンテンツの作製の要点は以下の通りである。

2回の講演会でビデオ撮影した映像をビデオ編集用ソフトにて、映像の明るさ、音声等の調整を行い、更に、著作権表示、コメント挿入や関心領域の表示を加えた。さらに、講演で使用しPowerpoint上の写真・図表のサイズの適正化を行った。最終的に、e-learning化するためのオーサリングソフトに上記ビデオとPowerpointを入力し、両者の同期を行い、更に、レーザーポインタを表す矢印を追加することで、1本のコンテンツに仕上げた。これをオープンソースソフトウェアの学習管理システムMoodleに搭載することで、会員からアクセスできるようにした。通常のMoodleでは文字ベースであるが、よりアクセスしやすいように、講演者の写真をクリックすることで直接コンテンツを表示できる様に工夫した。


なるべく見やすく、分かり易くということを念頭に置き、e-learningコンテンツを作成したが、今後、下記の課題を解決することで更に使いやすいe-learningコンテンツになるものと思われる。


1)
音質

直接Lineから講演時の音声を取れなかったためピンマイクを使用したが、ホールによりエコーが発生し、多少聞きづらいものとなった。


2)画質
照明が適切ではなく、講師の顔が分かりづらいものとなった。


3)
ソフトとシステムの相性
オーサリングソフトと学習管理システムの相性のため、講演者の写真をクリックしてから実際の講演ビデオが始まるまで約15秒が必要であった。


研修事業の評価

  
「かかりつけ医のためのリハビリテーション研修会」およびe-learning教材の効果を明らかにするため、北九州市医師会員に対し、アンケートを実施した。

対象は平成19年10月25日および11月15日の2日間で実施した「かかりつけ医のためのリハビリテーション研修会」のどちらかに参加した北九州市医師会員217名であった。対象者にはアンケートを郵送にて送付し、記入の後、返送してもらい回収した。

郵送した217名のうち59.9%にあたる130名より回答を得た。130名の平均年齢は57.4±11.3歳で、男性119名、女性10名、不明1名であった。

専門とする診療科を図1に示す。最も多い診療科は内科56名(43.8%)であり、次いで消化器科16名(12.5%)、外科14名(10.9%)の順であった。

所属施設は診療所が98名(76.0%)と最も多く、次いで病院26名(20.2%)、介護老人保健施設4名(3.1%)、その他の施設1名(0.8%)、不明1名であった。

今回アンケートに答えた130名のうち、10月25日の研修会に参加していたのは107名で、11月15日に参加していたのは81名であった。研修会の印象は、「研修会は有用で、日常診療に役立つ」と答えたのは116名(89.9%)と大半を占め、「研修会は有用であるが、日常診療には役立たない」が13名(10.1%)、「研修会は有用でない」と答えたのは一人もいなかった。また、8つの研修会テーマのうち、今後、日常診療に役立つと回答されたテーマ(重複回答可)を図2に示す。最も多かったテーマは「関節可動域」の68名で、次いで「日常生活動作」の67名、「筋力」の61名の順であった。

e-learningについて、もともと何かを知っていたと答えたのは44名(34.9%)で、知らなかったと答えた人数82名(65.1%)を大きく下回った。また、e-learning教材を閲覧したのは20名(15.9%)であった。e-learning教材を閲覧した20名に対し、e-learning教材全般に関する印象を尋ねたところ、「有用であり、日常診療に役立つ」が19名で、「有用であるが、日常診療に役立たない」および「有用でない」と答えたのは一人もいなかった。日常診療で役立つ教材のテーマ(重複回答可)について質問した結果を図3に示す。多かったのは歩行障害15名、次いで関節可動域14名、廃用症候群14名であるが各テーマに大きな差はなく、研修会での結果とは若干異なっていた。

以上の結果より、今回実施した教育研修会については有用であり、今後の日常診療においても役立つ内容であると考えられた。また、e-learning教材についてはもともとの認知度が低かったためか、閲覧率が15.9%と低かった。しかし、閲覧者については、有用で今後の診療に役立つとの印象であり、e-leaning閲覧に関する案内方法の工夫など閲覧率をいかに高くするかが今後の課題であると考えられた。

図1.専門とする診療科




2.日常診療に役立つ講演テーマ




3. 日常診療で役立つe-learning教材テーマ


かかりつけ医面接調査結果

「かかりつけ医に求められる役割(表
1)」は、@在宅療養患者の身体全身を診る、A維持期リハの効果的な実施、B様々な相談を受ける、C主治医意見書などの適切な作成などが回答された。また、「研修会・e-learningで、かかりつけ医としてどのようなことが実践できるようになったか(表2)」では、@適正な評価、A患者への説明、関係者への指導、B診断書記載などが、「かかりつけ医に求められているが実践できない事項や理由(表3)」として、@生活機能の観察と評価、AADL向上の方法、B意欲低下患者への対応などが、「かかりつけ医研修会やe-learning教材の提供の価値、必要な情報と提供方法(表4)」では、多くが価値を認め、必要な情報として、@日常診療で気付きにくい障害や不便さ、Aリハ訓練の実際、B在宅患者の諸種処置や在宅での注意点、C摂食嚥下訓練の詳細などが、提供の方法として、@e-learning の継続と発展、Aポリクリ形式のような直接的な研修、B在宅医療の現場の実際的な映像を用いた講演会などが回答された。








まとめ

  

医療システムの変遷や診療報酬改正により、リハ医療では急性期、回復期、維持期の役割の違いが明確になり、リハ医は急性期リハや回復期リハを担当し、維持期リハは主にかかりつけ医が担う状況になってきた。しかし、かかりつけ医の本来の専門領域は内科や外科などであり、医学生時代にリハ医学の教育を受けた経験もなかった。そこで、かかりつけ医が在宅生活を送っている維持期患者に対して、効果的なリハを指導できるようにする目的で、産業医科大学リハ医学講座、北九州医師会、北九州リハ医会、北九州市保健福祉局の協力のもとでリハ教育研修委員会を結成し、3調査、リハ研修会開催、e-learning配信を行った。

かかりつけ医には、@廃用症候群の対策と予防、A嚥下障害の見方と対策、B介護保険・福祉サービス、C筋力評価方法と訓練指示、D地域連携、E脳卒中の維持期リハ、F歩行障害の見方と指導法、G専門職種とチームアプローチ、H体力評価と生活指導、I関節可動域測定方法と訓練指示などの教育研修を実施する必要がある。e-learningは、忙しく時間に制約があり一堂に集まることが困難であるかかりつけ医に対しては、都合の良い時に反復して見ることができる有効な教育手段である。これらの研修を受けたかかりつけ医は自らの役割を、「在宅療養患者の身体全身を診て様々な相談を受け、維持期リハを効果的に指導し、必要な診断書を作成して、地域住民への啓蒙活動を行う」事ととらえており、今後、e-learningがリハの効果的実施に果たす役割は大きいと考えられる。


報告書は下記の通りに分担して作成した。

【研修事業開始までの経緯】蜂須賀委員(産業医科大学)
【かかりつけ医の希望する研修項目調査】大野委員(小倉リハ病院)
【かかりつけ医のためのリハビリテーション研修会開催について】高橋委員(産業医科大学)
【e-learningコンテンツの作成方法】波田委員(アクシス)
研修事業の評価】高橋委員(産業医科大学)浜村委員(小倉リハ病院)
まとめ】蜂須賀委員産業医科大学

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文責:リハビリテーション医学講座/