どんな病気?

多発性硬化症とIFN療法


1. 多発性硬化症ってどんな病気?
 
多発性硬化症とは,脳や脊髄など中枢神経の一部が突然の炎症を起こすという発作をくり返す病気です.この発作は1日のうちに消えたり,数日のうちに改善したりします.これにより目がかすんで見えなくなったり,運動麻痺が生じたり,歩くときにふらついたりといったさまざまな症状が出てきます.
 神経細胞同士は軸索(じくさく)と呼ばれる電線のようなもので互いに連絡しあっています.軸索はむき出しのままだと漏電したりショートしたりするため,髄鞘(ずいしょう)と呼ばれる被膜のようなもので覆われています.多発性硬化症ではこの髄鞘に炎症が起きて障害されるため,脳からの情報が筋肉にうまく伝わらなくなって運動麻痺がきたり,眼球からの情報が脳にうまく伝わらなくなって目がかすんだりするのです.
 多発性硬化症の原因はまだはっきりとはわかっていません.しかし,体内に細菌やウイルスなどが侵入したときに防御するはたらきである免疫の機能が強く関与していると考えられています.多発性硬化症はこの免疫機能が暴走して,自己の細胞である髄鞘を異物だと認識して攻撃してしまう「自己免疫疾患」である可能性が高いと言われています。
 アメリカやヨーロッパなど欧米で多くみられ,日本をはじめとしたアジアでは少ないことも特徴です.欧米では人口10万人当たり30〜100人と多く,同じ地域内でも緯度が高くなるにつれて多くなる傾向がみられます.一方,日本では人口10万人当たり2〜5 人とされています.これには人種による差が大きく関与していると言われています.

2. 多発性硬化症の症状
 多発性硬化症は,中枢神経のいろいろなところが硬くなっていることからその名がつきました.それも,一度に多発するのではなく,通常は発作のたびに異なった場所に病変があらわれます.このように,時間的・空間的に多発する中枢神経系の病変が特徴です.そして,その病変のある場所によってその症状は異なります.はじめめにあらわれる症状として多いのものは,視力障害や感覚障害,運動麻痺です.同じ病名がつけられていても,患者さんによって全く違う症状であることも少なくありません.
 病気の経過も人によって違い,発病してからその後何年も症状が落ちついている方もいれば,1年のうちに何度も再発をくりかえす方もいます.また再発をくりかえすうちに症状の回復が悪くなり,障害が進行する方もみられます.なかには,発病の初期から慢性的にゆっくりと障害が進行していく方もみられます.
 主な症状を下に挙げます.
 ・視力の障害(目がかすむ,視野の一部が見えない,はっきりと見えないなど)
 ・運動の障害(手や足に力が入らず動きにくい,脚がつっぱる,筋の硬直して痛いなど)
 ・感覚の障害(痛みや温度がわからない,触った感覚が鈍い,しびれる,焼けつくように痛いなど)
 ・排尿や排便の障害(尿が出にくい,ひどい便秘,すぐにトイレに行きたくなる,尿が出るのがわからず漏らすなど)
 ・知能や精神面の障害(うつ状態,もの忘れなど)
 ・その他(ふらつく,ものが二重に見える,倦怠感,首を前へ曲げると背中から足に向かって痛みが走るなど)

3. 多発性硬化症を診断するための検査
 診断に最も役立つのは,神経を専門にする医師による詳しい問診と診察です.多発性硬化症の特徴は,前述の通り中枢神経系の病巣が空間的に多発し,再発したり慢性的に進行したりする点です.それを見つけるために,麻痺やしびれの場所や程度など,患者さんの訴えをできるだけ詳しく尋ねます.その後に十分な診察を行ったうえで検査を行っています.中枢神経は大脳・小脳・脳幹部・脊髄と広範であるため,ある程度病変の場所を推測してからでないと検査ができないからです.
 ある程度の場所−たとえば右の大脳半球とか頚部の脊髄とか−が推測されたら,その場所のMRI検査を行うことが有用です.MRI検査とは電磁石の磁気を用いて,体の断層写真を撮るもので,多発性硬化症の80〜90%で病変部が検出できるとされています.
 電気や磁気の刺激を神経に与えてその反応をみる大脳誘発電位検査は,中枢神経の機能を評価する方法としてよく行われています.特に髄鞘の障害の場合に有用であるため,当院では多発性硬化症の患者さんはほぼ全例にこの検査を行っています.他には,腰から針を刺して脳脊髄液を採取して,その中の特殊なタンパクの量をはかることも有用です.

4. 多発性硬化症の治療
 多発性硬化症は中枢神経系の髄鞘に炎症が起こっているため,急性増悪期にはその炎症を和らげる治療を行うことが中心となります.これに痛みやしびれに対する投薬や運動麻痺に対するリハビリテーションなども併せて行います.
 具体的には急性増悪期には副腎皮質ステロイドの大量投与がよく用いられます.副腎皮質ステロイドとは人体でつくられるホルモンを合成したもので,強力な抗炎症作用があります.よく用いられるのはステロイド・パルス療法といわれる投与方法で,3日程度連続で点滴による大量投与を行う方法です.
 対症療法としては,けいれんやしびれに対しての抗けいれん剤(テグレトールなど)や下肢のつっぱりなどに対する筋弛緩剤(ミオナール,テルネリンなど)が用いられます.頻尿や排尿困難などには,膀胱の筋肉を刺激したり緩めたりといった薬剤を症状に応じて用います.麻痺に対してはリハビリテーションの効果が知られており,毎日続けることが重要です.
 多発性硬化症の特徴は,何度も申しますように再発をくりかえすことです.以前から再発予防になるような治療法について研究がなされてきました.日本では免疫抑制剤を長期的に内服する方法がとられてきましたが,治療効果は不定で副作用で途中で断念せざるを得ない方もたくさんおられました.そんな中インターフェロンベータ製剤が,2000年11月に初めての再発抑制に対して承認されました.

5. インターフェロン療法とは?
 インターフェロンとは,元来人間のリンパ球などから分泌される物質で,免疫に関係するリンパ球の増殖を抑えて免疫反応を抑制する作用があります.インターフェロン製剤にはアルファ・ベータ・ガンマの3種類があり,今回承認されたのはその中のベータです.この薬はアメリカでは「ベータセロン(Betaseron)」という商品名で,1993年より発売されています.
 臨床試験では多発性硬化症の再発回数を減少させたり症状の進行を抑制する効果が認められました.それに加えて脳のMRIによる臨床試験では,多発性硬化症による病変部が小さくなっていることが認められました.この薬剤によって再発や進行が止まる人もいますが,再発や進行が継続する人もいます.しかし,再発があったからといって必ずしも治療を中断すべきではないと考えられています.その理由としては,効果の発現には1〜2カ月を要すると考えられていることや,長期投与により再発に伴う後遺症を予防し身体障害が残る可能性が低くなることが期待されることが挙げられます.
 投与初期には感冒様症候群(発熱・さむけ・関節痛などカゼに似た症状)が多くの人に出るため,解熱鎮痛剤が必要となる場合があります.この症状の程度や軽快するまでの期間は人によって違いますが,慣れてくると徐々におさまります.その他には血液中の白血球の数が減ってきたり肝機能の障害をしょうじたりする場合がありますので,経過中は必要に応じて血液検査を行う必要があります.精神面では薬の副作用でうつ症状がみられることがあります.
 インターフェロンは注射で投与します.医師や看護婦の指導のもとで練習を行い,患者さん自身が2日に1回,皮下注射をします.患者さんが麻痺などのため注射がうまく行えない場合には,ご家族が代わりに注射をすることになります.注射方法については薬の発売元からパンフレットやビデオが提供されていますので,毎回確認しながら注射することができます.注射部の皮膚の変化やそのほか気付いた点などは主治医にお話しいただければ,適切なアドバイスをしていきます.ベタフェロンは2日に1回、自分で皮下注射をします。パンフレットやビデオなどの注射方法についての資料が販売メーカーの日本シエーリング社から提供されているので、参照しながら病院で指導を受けます。また、注射した日・部位・気付いた点などが書き込める手帳も提供されているので、自己注射を自分で管理し、また、受診日に主治医に見せてコミュニケーションが図れるようにもなっています。 自分で注射をすることができない場合は、家族が代わりにおこないます。

6. おわりに
 多発性硬化症の簡単な説明とインターフェロン療法のご紹介を致しました.再発の不安を常に抱えながら生活されていた患者さんにとって,このような再発防止のための治療法の開発は福音といえるでしょう.現在,いくつかの施設では他の治療法の臨床試験が進んでいます.ご紹介できる形になりましたら,またこのページでご案内したいと思います.

[担当:神経内科]


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産業医科大学 神経内科学講座

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[文責:産業医科大学神経内科 更新日:2005.04.01]