どんな病気?

業務に関連したジストニアについて


1. ジストニアとは
 ジストニアという病態を御存知ですか?
 ジストニアとは意思に反して身体の一部が動いてしまうもの(不随意運動)のうち,筋肉の持続した収縮を特徴とするものをいいます.「運動」といっても非常にゆっくりとした動きであるため,体幹や手足をゆっくりとねじったり,姿勢がゆがんだりといった形であらわれます.何か動作を行おうとすると,それを妨げようとする動きを生じることも多く,仕事や日常生活に支障をきたすようになります.ジストニアは大脳基底核を中心とした運動や姿勢を制御するシステムの変調により生じると考えられています.
 ジストニアを生じる原因として,脳性麻痺や脳出血などに伴うものや遺伝性のものが知られていますが,原因が分からない場合がほとんどです.また,業務に関連してジストニアが生じるものが存在することが知られています.しかし,仕事に関連して生じるジストニアに関しては,あまり調査が行われておらず,実態はほとんどわかっていません.

2. 業務に関連したジストニアの歴史
書痙 すでに150年以上前には業務に関連したジストニアの報告がみられます.これは一定の作業姿勢を持続する必要がある業務や身体の一部を反復して使用する業務に就いていた労働者に生じる,身体の一部におこるジストニアとしての論文です.この病態では,作業の内容とジストニアがおこった身体の場所との間に,位置や動作における関連性が存在します.その場所の筋肉の持続性収縮により作業が困難となることが特徴です.
 作家などのように字をたくさん書く仕事をしている人が字を書こうとすると,勝手に指が伸びたり手首が曲がったりといった症状がでてくるもの(書痙),ミュージシャンがギターを弾こうとすると指が勝手に曲がって動かせなくなるもの(奏楽手痙)などが,職業性筋攣縮としてよく知られています.腱鞘炎などと異なり,必ずしも業務の負荷が他人より大きくなくても発症するようです.過去には下にあげるような業種でジストニアを生じたという報告があります.

・音楽家
  口:トランペット,サックスなどの管楽器奏者
  頚部:バイオリニストなど
  手指:ピアニスト,ギタリストなどの鍵盤楽器,弦楽器奏者
  大腿:チェロ奏者など
・専門職
  頚部:塗装工,車整備士など(常に頚部の回旋や背屈を要する業種)
  手指:作家,モールス信号電信技師,タイピスト,理容師など
  口・喉頭:接客業など
・スポーツ選手
  手指:ビリヤード選手,ダーツ選手など
  上腕:ゴルファーなど

その他の専門職では,紙巻タバコ職人・郵便仕分け人・紙幣計算人など,現在ではほとんどが機械化されているものが多いことにも気づきます.用手生産業務の減少に伴い業務に関連したジストニアの患者数は減少しているとする意見もありますが,我々の施設の専門外来に訪れる患者様のうち,明らかに職業要因が関連していると考えられる方は決して少なくありません.

3. 現在の状況
 我々の施設に来られた患者様には,下のような方がおられました.

・パソコンのマウスをもつと,人さし指が勝手に伸びるようになった.
・スーパーのレジうちをしていていつも左ばかりを向いていたら,首が勝手に左に曲がるようになった.
・自動車製造ラインで,上を見上げて車の底面に部品を取り付ける業務にあたっていたら,頭部が後ろに引っ張られるようになった.
・銀行員をしていて,印鑑をおす際に手首が勝手に背屈しうまくおせなくなった.字を書くときは支障がない.

このような業務との関連が認められる患者様が,発症時に従事していた業務内容を調査したところ,ライン作業やパソコン作業など一定の姿勢の持続や生産効率を求められる業種に多いことがわかってきました.

4. 診断するには
 業務関連性ジストニアや職業性ジストニアと呼ばれる病態は,古くから知られていますが,その定義や診断基準ははっきりと示されていませんでした.そこで,平成16年に厚生労働省 精神・神経疾患研究委託費研究「ジストニアの疫学,診断,治療法に関する総合的研究」において,下のような診断指針が作成されました.(一般の方にわかりやすいように,一部変更しています)

下記の(ア)〜(エ)のすべてを満たすものを,職業性ジストニアと診断する
(ア) 身体の一部にジストニアが存在する.
(イ) 一定の作業姿勢を持続する必要がある業務や,身体の一部を反復して使用する業務に従事している.
(ウ) その作業とジストニアを生じている部位との間に位置や動作における関連性が認められ,通常 病初期においては特定の業務以外の動作には支障をきたさない.
(エ) 脳出血などのような,ジストニアを呈しうる疾患が存在しない.

5. 治療
 業務に関連して生じるものですので,原因と考えられる業務から離れることが重要です.しかし,腱鞘炎などとは異なり業務の中止だけでは治らないことが多く,抗コリン剤や筋弛緩剤の内服や,ボツリヌス毒素製剤の局所注射,局所麻酔薬とアルコールによるブロック注射などの薬物治療を併用することが多いです.それに,スプリント装具の装着,バイオフィードバック法という作業訓練などを組み合わせることがあります.早めに治療を受ける方が,改善する率は高くなります.牽引や整体などによる治療では,かえって悪化してしまう場合がありますので,注意が必要です.最近では,経頭蓋磁気刺激法(TMS)という脳を磁気刺激する方法を治療として用いる施設もありますが,まだ確立したものではありません.
 ボツリヌス療法についてはこちら. 磁気刺激治療についてはこちら

6. その他
 わが国において業務に関連したジストニアの概念や知識は十分に浸透しておりません.職業性疾患としての認知もされておらず,わが国でジストニアとして労災認定を受けた患者様もおられません.
 精神的緊張などでジストニアの症状は強くなるため,心の病気として扱われることも多く,有効な治療が受けられないでいる方も多くおられます.特殊な一部の患者様を除き,精神的な要因だけでジストニアを生じることはありません.このような病態を多くの方に知っていただき,早期から有効な治療を受けていただきたいと思います.

[担当:神経内科]


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産業医科大学 神経内科学講座

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[文責:産業医科大学神経内科 更新日:2005.09.08]