輸血情報                  0203−70

  

輸血による細菌感染について

  輸血用血液の安全性はHBV、HCV、HIVに対する核酸増幅検査(NAT)の導入により大きく向上しましたが、細菌による危険性を完全に排除することは難しい現状にあります。
  米国では輸血後の発熱、頻脈、血圧の変化等をもとにした輸血を介した細菌感染に関する調査(BaCon Study)が実施され、菌血症及び死亡例は共に血小板製剤に多く発生していることが報告されています1)2)。日本では米国に比べて血小板製剤の有効期間は短くなっていますが、細菌による危険性には注意が必要です。
  輸血用血液の適正な保管管理及び色調等の外観の確認、輸血開始後の患者さんの観察、また、細菌感染が疑われた場合には、輸血したパックの確保をお願いします。

BaCon Studyについて1)2)

  BaCon Study : Assessment of the Frequency of Blood Component Bacterial Contamination Associated with Transfusion Reaction

  【調査期間】1998.1〜2000.12(3年間)
  【参加施設】米国赤十字、米国血液銀行協会、米国国防総省、米国疾病対策予防センター
  【報告基準】次の症状の内、どれか1つ以上が輸血後4時間以内に起こった場合
           (1)発熱(39℃以上又は2℃以上の上昇)
           (2)悪寒
           (3)頻脈(120beats/min以上又は40beats/min以上の増加)
           (4)収縮期血圧の変化(30mmHg以上の増加又は減少)

    ※米国疾病対策予防センターによる細菌の相同性確認のために患者血液と製剤が必要。

  【確定症例数】 34例(死亡: 9例)
         赤血球製剤〔供給数23,711,169単位〕  5例(死亡: 3例)
         血小板製剤〔供給数 2,838,396単位〕 29例(死亡: 6例)


  【検出された細菌】 (死亡症例数/細菌が検出された症例数)
  グラム陽性菌 〔20例〕
  Staphylococcus epidemidis (1/8) , Staphylococcus aureus (0/4) Streptococcus agalactiae (0/2)
  Group G Streptococcus (1/1)> Staphylococcus lugdenensis (0/1), Staphylococcus saprophyticus (0/1)
  Bacillus cereus (0/1), Enterococcus faecalis (0/1), Streptococcus pneumonias (0/1)
  グラム陰性菌〔14例〕
  Escherichia coli (1/5), Serratia marcescens (2/3), Serratia liquefaciens (2/2)
  Enterobacter aerogenes (0/1), Enterobacter cloacae (1/1), Providencia rettgeri (1/1 )
  Yersinia enterocolitica (0/1)


輸血による細菌感染の疑いで血液センターに報告された症例について

  1998年〜2001年の4年間に、輸血による細菌感染の疑いで医療機関から赤十字血液センターへ報告された症例は40例(内、患者検体から細菌が検出されたのは27例)ありましたが、その内、輸血された血液またはそれと同一の献血者から同時に採血された血漿を調査した結果、細菌が検出された症例は3例でした。以下に、その概要を示します。


報告年 輸血用血液 症状      血液培養試験
医療機関での調査  血液センターでの調査
No. (患者検体、等)  (輸血された血液、等)
1 2000 lr−PC−10 嘔気、背部痛、
血圧低下、ショック、
白血球増
グラム陽性球菌*1
Streptococcus pneumoniae*2
Streptococcus pneumoniae*3
2 2000 RC−MAP−1 発熱、悪寒、
白血球増
Bacillus scereus Bacillus scereus*4
3 2000 lr−RC−MAP−2
発熱、悪寒 Bacillus scereus Propionibacterium acnes*5
*1:骨格筋の組織から検出された。  *2:白血球除去フィルターの残存血液から検出された。
*3:同一献血者から同時に採血された血漿から検出された。(3検査所の内1か所から検出、他の2か所からは検出されなかった。)
*4:当該輸血用血液から検出された。(2検査所の内1か所から検出、他の1か所からは検出されなかった)
  また、同一献血者から同時に採血された血漿からは検出されなかった。
*5:同一献血者から同時に採血された血漿から検出された。
医療機関の皆様へのお願い3)4)
◆不適正な条件下におかれた輸血用血液は品質低下をきたしやすいだけでなく、定められた保管温度 を超えると万が一、細菌混入時には細菌が増殖する危険性がありますので、輸血用血液の適正な保管管理をお願いします。
 
【生物学的製剤基準による各製剤の貯法】
全血製剤・赤血球製剤(4〜6℃)、血小板製剤(20〜24℃、要・振とう)、血漿製剤(−20℃以下)

◆輸血用血液を使用する際には外観検査を行い、色調の変化、溶血等の異常がないかをご確認ください。

◆輸血開始後は、患者さんの十分な観察をお願いします。少なくとも輸血開始後約5分間は患者さんの観察を十分に行い、約15分経過した時点で再度観察してください。

◆輸血による細菌感染が疑われる症例が発生した場合には、直ちに輸血を中止して適切な処置をするとともに、使用された製剤バッグを適切に(無菌的かつ冷所)保管し、赤十字血液センター医薬情報担当者までご連絡ください。また、原因究明のために、使用された製剤バッグ、患者さんの検体、さらに血液培養試験をはじめとする臨床検査関連情報等のご提供をお願いします。(まず,輸血部へ連絡を!)

■参考文献
1) Roth VR, Kuehnert MJ, et al.; Evaluation of a reporting system for
 bacterial contamination of blood components in the United States.
 Transfusion, 41, 1486-1492, 2001.
2) Kuehnert MT, Rolh VR, et al.: Transfusion-transmitted bacterial
 infection in the United States. 1998 through 2000. Transfusion. 41,
 1493-1499, 2001.
3)血液製剤の使用指針及び輸血療法の実施に関する指針について
 (平成11年6月10日医薬発第715号厚生省医薬安全局長通知)
4)血液製剤保管管理マニュアル〔平成5年9月16日厚生省薬務局委託事業
 (財)血液製剤調査機構血液製剤保管管理マニュアル作収小委員会)

更新日:2002.12.14 文責:輸血部