輸血関連 NEWS EYE   2003.10.22

血液製剤の細菌汚染が原因と思われる輸血死亡事故に関する報道がありました.

[読売新聞ニュース速報]
輸血後にショック状態、汚染血?で女性死亡…大阪  [2003-10-04-03:05]

 大阪府内の医療機関で先月下旬に輸血を受けた60代の女性患者が、輸血直後にショック状態に陥り、死亡していたことが3日わかった。医療機関は、輸血した血液と患者の血液から細菌を検出したことから、輸血で敗血性ショックになった可能性があるとして、日本赤十字社を通じ、厚生労働省に報告した。
 報告によると、女性は透析に伴う貧血の治療のため、赤血球を輸血されたが、輸血の約1時間後に急激な血圧低下と意識障害を起こし、3日後に死亡した。病原体は、人間の腸内にもいる細菌で、食中毒などの原因にもなる「エルシニア・エンテロコリチカ」の可能性が出ている。
 エルシニア菌は、低温保存する赤血球の輸血バッグの中でも増殖し、毒素を作り出す。海外では、輸血後に毒素によるショック死の例が報告されており、国内でもエルシニア菌に汚染された輸血用血液が見つかったことがある。日赤では、こうした副作用を防ぐため、8年前に赤血球の保存・有効期限を21日間に短縮したが、今回の血液は採血後12日目だった。
 輸血の細菌汚染では先月も、肺炎球菌に汚染された血液を輸血された男性がショック死した事例が、千葉県で明るみに出たばかり。
 日赤血液事業部の話「まだ発生したばかりの事例で、因果関係は調査中。原因究明を急ぎたい」

【コメント】
 血液バッグへの細菌の混入は供血者自体が菌血症であった場合と、採血針の刺入部位の皮膚にいる菌、そして採血者の指などに付着した菌などが考えられます。空中からの落下細菌が付着する可能性は非常に低いとは思いますが。供血者の問診を厳しくしても軽い下痢は申告されない場合もあり得ます。清潔な採血について努力をしても、皮膚の下の毛根の近くにある皮脂腺などに存在する菌は除菌できません。
 今回のケースで判別できたかは不明ですが、一般に赤血球製剤の細菌汚染は血液バッグの色調で判断する事ができます。
細菌汚染血では色調が黒褐色に変化します。病棟での輸血準備の際には血液バッグの状態の観察をお願い致します。いつもより黒いかなと思ったときは要注意、すぐに輸血部にご連絡下さい。

 

■「エルシニア感染症について」という記事が横浜市の衛生研究所のHPに掲載されています。
http://www.eiken.city.yokohama.jp/infection_inf/yersinia1.htm

輸血に言及した部分を引用します。

-- ここから ------------------------------
 稀なことですが、輸血がYersinia enterocoliticaの感染経路となることがあります。Yersinia enterocoliticaやPseudomonas fluorescens に汚染された血液の輸血を受けた人は、敗血症、播種性血管内凝固(DIC)から死に至ることがあります。

 アメリカ合衆国で1991年2月から1996年11月までの間にCDC(疾病管理センター)に報告のあった、Yersinia enterocoliticaに汚染された血液の輸血を受け敗血症となった10例を調査した報告があります(参考文献11)。輸血中あるいは輸血後12時間以内に、輸血を受けた人は、発熱、呼吸困難、低血圧、播種性血管内凝固(DIC)などをおこしています。輸血後6日以内に5例が死亡に至り、Yersinia enterocoliticaによる敗血症の死亡への寄与が考えられました。Yersinia enterocoliticaに汚染された血液の提供者10人に対して提供から3ヶ月以内に調査がなされました。3人は何の症状もなかったとしています。5人は、血液の提供時には発熱はなかったが、血液の提供の1ヶ月前から2週間後までの間に下痢があったとしています。1人は発熱と腹痛があったとしています。

 献血時の問診項目には、1ヶ月以内の発熱を伴う下痢の有無を問う項目がありますが、これはYersinia enterocoliticaに汚染された血液の提供を警戒してのことです。また、Yersinia enterocoliticaに汚染された血液中では冷蔵庫の中で保存中もYersinia enterocoliticaは増殖しエンドトキシンという毒素を産生します。
 保存時間が長ければ長いほど、エンドトキシンという毒素の量は多くなります。赤血球MAPについて、以前は有効期間が42日だったものが現在は21日に短縮されたのは、やはり、Yersinia enterocoliticaに汚染された血液の提供を警戒してのことです。


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更新日:2003.10.22 文責:輸血部