平成31年度 入学式が挙行されました


産業医科大学では、4月4日(木)10時から、入学式を執り行いました。


    学長式辞については、以下のとおりです。

  

産業医科大学学長  東  敏昭 
                                

 

 

 

新入生の皆さん、皆さんの産業医科大学へのご入学に、教職員を代表し、心から歓迎の意を表します。また、ご家族の方々にもお祝いを申し上げるとともに、これから始まる大学生活が新入生にとって意義あるものになるよう教職員が力を合わせていくことをお約束いたします。入学式(内部).jpg

 

皆さんが生まれ育った平成の時代は、日本が世界の中で大きく輝いていた時代を過ぎ、人口の高齢化もあいまって長い低迷期を迎えた時代です。湾岸戦争、阪神大震災、地下鉄サリン事件と続き、学校に通う時期には、世界ではリーマンショック、シリア内戦の勃発と激化、テロの頻発、日本では東日本大震災、熊本地震、北部九州、関東豪雨などの大きな事件や災害がありました。新興国の台頭の中、国際的には閉鎖性や対立の潮流が現れた時代です。ご両親の世代の学生時代にはなかった製品や技術が産業構造を変え、長年にわたり築き上げてきた秩序や価値体系が変わらざるを得ない激動の時期が控えています。そして、皆さんは平成最後の入学生です。科学技術の振興や、変化に対応できる人材として、日本が世界の成熟社会の手本となる仕組みを構築していく、まさに中心的役割を果たすことが期待されています。

 

改めて、産業医科大学の設立の目的と、今の社会での意義をお話ししたいと思います。本学は、働く人の健康を守り、増進するという目的を達成するために設置されました。働く人の健康を守ることは、人の可能性を広げること、これに寄与する産業医学、産業保健活動の意義は、大きく社会の基盤を支えるものです。多くの人々が様々な職業で生き生きと働き、社会に貢献し、また自己実現できること、一方で仕事と家庭、並びに社会生活のバランスが保たれることによって、健全な社会が成り立ちます。このための研究、臨床、人材育成を行うことが、本学の重要な存在意義です。今、提唱されている「働き方改革」の中にも、本学の使命に関わる事項が盛り込まれています。

 

学長式辞.jpg皆さんは、卒業時に医師や看護師、保健師、作業環境測定士、衛生管理者など、全員が何らかの国家資格を取得します。これらの資格はいずれも人々の生活の基盤、働く人の活力を支える大切な仕事です。社会からの期待が高まっていることは求人の状況からもわかります。皆さんが、真に社会的評価に応えられる専門家になるための基礎を大学生活で身に着けて欲しいと考えます。受験が終わってホッとしているかもしれませんが、これからこそ、勉学に励んで欲しいと思います。基礎、臨床、社会医学の各分野それぞれの教員が、学生教育の場で責任を持ち、世界に通じる知識・能力を身につける機会を提供してくれます。しかし、何よりも大学での勉学では自らが求める姿勢が重要です。授業や実習のみならず、少なくとも教科書を読む習慣を身に着けてください。皆さんに期待したいのは、受け身では身につかない、答えのない事象に積極的に取り組み、考える力を身に着けることです。

 

大学では知識と仕組みを学び、学生間での議論や、教員への質問を通じて自分の身に着けることを厭わないでください。この姿勢を身に着け、これを実践することが、これから皆さんが社会で生きていく糧となる本当の意味での勉学です。知識の吸収、考えることのいずれが欠けても成長はありません。皆さんにとって大学全体が学びの場となることを忘れないでください。学部や学内の機関の枠を超えて、教員は学びたい学生を待っています。本学の初代学長の土屋健三郎先生は第一回入学式での建学の精神という講演の中で、入学生に「上医となる努力を望む、環境科学とライフサイエンスの融合とその発展に尽くせ、新しい生態学を発展させよ、産業医学と地域医療の有機的結合を図りすすめ、新しい福祉社会の確立を目指すこと」に寄与する、「哲学する医師・医療人」たれと呼びかけました。今でも色あせない世界観として、多くの卒業生の心に残る言葉となっています。広く社会を見て、人との意見交換を通じて、考え、判断する力を一生涯にわたって磨き続けていく哲学する人材を育てたいという思いがあります。式次第.jpg

 

ヒポクラテスは、紀元前5~4世紀の古代ギリシャの医師で、医学を迷信や宗教から離れ、臨床観察を重んじて、原因を究明する科学へと変容させたことから、現在でも医聖と呼ばれています。人間がおかれた環境が疾病の発生に関与することを示した著作もあります。彼が残した言葉の中に「5つの箴言」があります。人生は短い(Vita brevis)、されど、技芸は永遠である(Ars longa)という有名な言葉で始まります。ここでいうArsは技術、芸術、学問を指します。これに続く言葉が、好機は逃げやすい(Occasio praeceps )、経験は騙されやすい(Experientia fallax)で、チャンスは瞬く間に消えることが多く、経験というものはあまり信用できないとしています。そして、最後が判断するというのは最も難しい( Judicium difficile)という言葉です。哲学する医師・医療人に通じる箴言です。

 

さて、この講堂はラマツィーニホールと名づけられています。この名称は17世紀から18世紀のイタリアで活躍した医師の名にちなんだものです。ラマツィーニは、世界で初めて職業と病気の関係に注目し、40種類以上の職業について、罹患しやすい疾患の特徴を調べ、その成果を1700年に書物に著したことから、産業医学の父とも呼ばれています。ラマツィーニは、職場で取り扱う有害物や、仕事のすすめ方が原因で起こる疾患があることを見極め、医師は患者を診る時、食べ物や生活環境の他に「あなたの職業は何か」ということを聞くべきとし、また医師は仕事に関わる健康を阻害する要因を知るべきとしています。本学はこの講堂の落成を記念して、その初版本を購入するとともに、このホール正面に、ラマツィーニの彫刻を設置しました。全身像は世界でここだけということで、国内外を含めこれまでに多くの訪問者が、彫刻の前で記念写真を撮って帰る大学の象徴ともいえるものです。

 

医学部代表.jpg本学は産業医学・産業保健を専門的に教育する唯一の大学として、国内でもまた国際的にも、その名が知られてきています。昨年開学40周年を迎え、多くの卒業生が社会の重要な役割を果たすにいたり、日本の産業医学・産業衛生ならびに産業保健制度は、本学の輩出した人材なくしては語れないまでになっています。本学には臨床医学・看護から基礎医学、社会医学・環境保健分野の広い分野にわたる産業医学マインドを持った優秀な教員が在籍しています。このことが、より多くの人を救える人材の育成に役立ってきたと信じます。産業医学・産業保健の中心として、毎年夏には日本中の医師が産業医学を勉強し、資格をとるために本学に集まってきます。人材の集積とともに、「折尾」を産業医学・産業保健のメッカと呼ぶ方々がいるゆえんでもあります。

 

人は様々な経験を通じて成長していきます。本学では海外の大学・機関とも交流をより進めていきたいと考えています。皆さんにも学生時代に海外との交流に参加する機会が提供されます。積極的に参加して視野を広げてほしいと思います。部活やアルバイトなどの経験にも無駄なものはありません。ただ、大学は学びの場であることを忘れないで勉学してください。医療の分野ではカリキュラムも国家試験も大きく変化します。過去の試験問題への依存や他人のレポートの盗用、進級に関わる先輩の武勇伝に惑わされ、手痛い失敗をした例は少なくありません。手を抜かず、モラルを守ることの大切さを学んでほしいと思います。その第一歩として、ぜひ、構内で挨拶することを心がけてください。挨拶することは他の人に敬意を示し、相手の気持ちを理解する入口です。 産業保健学部代表.jpg

 

最後に、皆さんが本学に入学を果たし、今ここにいることは、皆さんにとって大変有難く感謝すべきことのはずです。ご両親だけでなく社会が皆さんにこの境遇を与えてくれたことを忘れないでください。今まで支えてくれたご両親や恩師だけでなく、社会にも感謝して、これからの学生生活を充実させてください。産業医大は産業医学、産業保健の都会と評した人もいます。卒業して初めて気づくことかもしれませんが、与えられた機会を無駄にしないでください。本学に在籍し、本学を卒業したという事実を、一生のキャリアの中で胸を張って大いに誇れるよう、本日からの学生生活を有意義に過ごしてくれることを期待します。

 

以上を皆さんへの歓迎と、期待の言葉とします。

 

 

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