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令和4年度産業医科大学入学式が挙行されました

令和4年度 入学式 が4月6日(水)10時から挙行されました。

学長式辞は、以下のとおりです。

令和4年4月6日

令和4年度入学式 祝辞 

入学おめでとうございます
 ー謙虚に勉強し、学問を理解し、自分の勉強方法を理解するー

学長 尾辻󠄀 豊

 産業医科大学医学部ならびに産業保健学部看護学科・産業衛生科学科に入学された新入生の皆さん、本当におめでとうございます。心から歓迎申し上げます。産業医科大学は昭和53(1978)年に建学され、現在では、産業医学・産業保健学の分野で日本をリードする大学となっています。大学で過ごす期間は皆さんが学生から社会人へ大きく変貌・成長するためのとても大事な過渡期です。教職員全員が皆さんの学生生活が充実したものとなるよう出来得る限りの支援をしていきます。私は心臓内科医ですので、話がこの分野に偏ることをお許しください。

 まずは皆さんの環境をお話しします。産業医科大学は建学44年の若い大学であり、現在急激な発展の最中です。産業医学・基礎医学・臨床医学の研究や教育が高く評価されています。研究論文の引用件数は世界1位です。最近の3年間の医師国家試験の合格率は97.0%と全国平均を大きく上回り、看護師国試合格率は99.0%、保健師国試合格率も100%と最高レベルです。産業衛生科学科(環境マネジメント学科)の上場・非上場大企業や公的機関への輝かしい就職も内外で高く評価されています。本学の産業生態科学研究所は、長年世界保健機構WHOの指定協力機関です。大学としては全国で13施設しかありません。産業医科大学病院は、癌その他の高度診療で北九州を代表する施設であり、来年には大規模増改築でさらに最先端の診療ができます。これらの結果、イギリスタイムズ社のTHE世界大学ランキングで産業医科大学は、3年連続日本の全大学の中でベスト10以内、日本の全私立大学で1位、九州・沖縄地区で1位にランクされました。そして産業医科大学はファミリースピリットに溢れています。事務系のベテラン職員が、例えば関東在住の卒後20年ぐらいの産業医が学生の頃はヤンチャだったとか、現在学内の本学卒業の内科系や外科系の教授が学生の頃はイケメンで結構モテたとか、そうではなかったとか、良く知っています。他大学では考えられません。これは、本学教職員が1人1人の学生に深く関わっていることを表します。このように本学の教職員は皆さんの教育にベストを尽くそうという姿勢を持っています。皆さんの将来をとても明るくする環境だと思います。

 次に皆さんに「必要とされること」をお話しします。厳しい受験勉強が終わったばかりですが、今から皆さんはこれまで経験したことのない厳しい世界に入って行きます。謙虚にひたすら勉強することが求められます。中学・高校は入学すれば3年間で卒業するのが当たり前でした。しかし、全国医学部学生の84%しか6年で卒業しません。看護学科・産業衛生科学科も卒業には厳しい勉強が要求されます。卒業に見合うあるいは国家試験に合格する学力があれば卒業できます。皆さんは本学の厳しい入試を勝ち上がっていますので、全員頭脳は明晰です。しかし、いくら頭脳明晰でもそれだけでは十分ではありません。看護学・保健学・衛生科学そして医学の勉強はとても範囲が広いです。解剖学・生理学・数々の基礎医学、内科・外科・数々の臨床医学に加えて本学独自の産業医学を合わせると、高校3年間の教科書の10倍ぐらいの分量になります。どれだけ頭脳が優秀でも、地道な勉強を謙虚にひたすら続けていく必要があります。
 勉強方法ですが、ポイントが2つあります。ポイント1ですが、学問は記憶や暗記だけでは上手く行きません。いろいろな情報を理論的・系統的に統合し、考えて理解する事が必須です。例えば、最大血圧140以上、最小血圧90以上が高血圧とされ、一般に最大も最小も高いのが良くないです。しかし、高齢者では最小血圧が低いことがリスクとなります。これを暗記しようとしても難しいです。これは、高齢者では動脈の壁が固くなるからです。固い素材の風船に空気を入れると中の圧がパンパンに上がり、空気を抜くと逆にすごく低くなります。柔らかい素材の風船に空気を入れてもあまり圧はあがらず、抜いてもあまり下がりません。これと同じで、固い壁の動脈の中に心臓が血液を駆出すると急激に動脈圧が上昇し、心臓が駆出を止めて動脈内の血液が静脈方向に流出すると圧は急激に下降します。

このために高齢者の血圧は最大値が上がり、最小値が下がります。高齢者では最小血圧が低いことは血管が固いことを表し、リスクとなります。このように情報を理論的・系統的に統合して考えて理解することが必要です。ポイント2です。理解の重要性は物事だけではなく、自分の勉強の効率性を理解することが極めて重要です。自分の学力が十分伸びているか?勉強方法が適切か?定期的に振り返って、問題があれば対応してください。自分の対応に自信がなければ指導担当教員に相談してください。皆さん全員に配置されます。大学の教員は、皆さんの教育のためにいる訳ですから、ぜひ積極的に活用してください。自主的に勉強計画を立てて、実行し、そして振り返ることが最も重要です。勉強方法のコツとして、一人で長時間勉強をするのは中々困難ですから、是非、友達とグループ学習をしてください。お互いの物の見方の違いもフレッシュでしょうし、自分の勘違いや進捗の遅れに早く気づくことができます。私自身の学生時代には、各科目試験の合格・不合格は解りましたが、点数は非開示でした。国試模擬試験もなく、自分の学力が平均あるのかないのか?判断材料がありませんでした。友達との会話の中で、「どうも自分の学力は平均にかなり届かないようだ」と5年生から6年生にかけて気づいたのは、その後の追い込みにとても役立ちました。同じ勉強時間でも優秀な友達とグループ学習をする学生の方がしない学生よりも成績が伸びます。グループ学習で、自分よりも勉強が遅れていそうな人とだけお付き合いしたい人がいるかもしれません。しかし、人生SDGs、持続可能な幸せが大事ですよ。別のコツですが、積極的に質問をしてください。例えば教科書を通読する勉強をするとして、その教科書の6割を既に知っているとします。そうしましたら教科書を通読する勉強全体の6割は知っていることの再確認であり、4割が知らないことを勉強するとても効率の良い時間となります。これに対し質問は、自分が良く知らない、解らないことの勉強ですので、全ての質問がとても効率の良い勉強です。是非、講義の時でも実習の時でも疑問が浮かんだら質問をしてください。教員は効率的な教育をしたいと思っていますので、質問があるととても嬉しいのです。このように自分の勉強の効率を意識し、理解することがとても重要です。
 卒業後に勉強以外で最も必要とされるのは、人に対する労わりや協調性です。患者さんの半分は治療によって改善する人たちですが、もう半分は治療しても悪化する人たちです。どのようにして悪くなる人に充実した時間を過ごしてもらうのか?とても重要であり、これが出来る人が名医です。労働者への配慮が最重要であることも論を待ちません。さらに仕事はチームで行いますので、チームメンバーへの配慮は最優先です。医療訴訟が一定数ありますが、医療過誤・あやまちは減っているのに、訴訟は減っていません。そして認容率と呼ばれる病院を告訴した側の主張が部分的にでも認められる確率は僅か22%です。これは、病院側の診断や治療に法的な落ち度はないのに訴えられることを意味します。落ち度がないのに説明不足だったり、冷たい態度と受け取られ、病院側から見ると予想通りの結果でも、患者さん側からは「こんなはずではなかった」となり、訴えられるのです。患者さんやご家族に対する説明・配慮が不足すると、適切な診断・治療をしていても訴えられます。皆さん、ぜひ友達やいろいろな人達と沢山交流して、自分の優しさ・協調性を磨いてください。サークル活動もとても良い機会だと思います。

 最後に、皆さんの将来性です。皆さんは社会から必要とされています。産業医学・産業保健の分野は発展を続けています。2019年に施行された働き方改革の中でも産業医の機能が強化されました。働く人の健康を守り、さらには病気を持ちながらも就労に意欲のある人を支援する政策です。しかし、産業医や産業保健職は大きく不足しています。常勤の産業医が必要な大規模事業場は2,000カ所を超えますが、常勤産業医は1,200人しかいません。全国の医師不足は2035年に解消される見込みですが、皆さんは一般の医師よりもずっと長い間必要とされ続けます。産業医は、労働者の健康を守り命を救い、失職を回避して人生を救う、素晴らしい役割を果たしています。さらに、皆さんが契約したキャリア形成プログラムに明示してありますが、皆さんは産業医を経由して、常勤産業医・臨床専門医・開業医・研究者・行政機関医師・健診機関医師といった医師としてあらゆる方向へ進むことが可能です。産業看護師・保健師・作業環境測定士・衛生管理者も社会から大きな需要があり、看護学科や産業衛生科学科の就職率は毎年100%です。本学の規模が小さく、統計には出てきませんが、日本一の就職率です。皆さんの将来は輝いています。

 皆さんにはこれから、大いなる試練・冒険・失敗、そして大いなる成功の喜びが待っています。不安があるのは当たり前です。チャレンジあるのみです。どんな時でも、本学の教職員は皆さんを支援することを忘れないでください。皆さんの人生に幸あれ!充実した学生生活を送ってください。これをもちまして皆さんへのお祝いの言葉とさせていただきます。