学会受賞者
EULAR Award受賞報告
 第10回欧州リウマチ学会・年次集会(EULAR 2009)が6月10日〜13日の間デンマーク・コペンハーゲンで開催されました。世界中の約120カ国から約14000人参加して開催され、産業医科大学医学部第1内科学講座田中良哉教授、中野和久助教がそれぞれEULAR awardを受賞しました。この賞は、約3000の応募演題を厳密に採点し、臨床部門の上位6名に田中(第2位)、基礎部門の上位6名に中野(第2位)が選ばれました。日本人として初であるだけでなく、同一大学から臨床部門と基礎部門を同時に受賞したのは快挙であり、欧州にてわが国のリウマチ学が臨床・基礎研究共に認知された証でもあるといえます。

臨床研究部門授賞式  田中良哉教授は関節リウマチ治療における抗TNF-α抗体、Infliximab治療により寛解に至り、投与中止した患者の55%が一年後にも再燃・骨破壊を来たすことなく寛解を維持出来ていることを発表し(RRR試験)臨床部門のEULAR awardを受賞しました。抗TNF- 抗体に代表される生物学的製剤は抗リウマチ薬による経口内服治療と比較して高率に短期間で寛解導入可能であり、その高い効果と有用性に対する臨床研究は欧米を中心に数々行われてきました。しかし、生物学的製剤は非常に高価であり、長期の投与継続により患者に大きな経済的負担を強いているのが現況です。本研究は、抗リウマチ薬を生涯投与継続しなくてはないという常識をくつがえしただけでなく、比較的罹病期間の長い患者でも寛解導入・投薬中止が可能性あることを明らかにしたことがこれまでに行われてきた臨床試験とは大きく異なる点です。加えて、どの様な患者にIFX投与の適応があるのかを明らかにし、リウマチ医療のオーダーメイド化を一歩進めた点も高く評価されたものと思われます。

基礎研究部門授賞式 中野和久助教は多くの方々が神経伝達物質としてご存知のドーパミンが樹状細胞に蓄えられ、刺激により分泌されることで関節リウマチの病態増悪に関与することを明らかにした基礎研究でEULAR awardを受賞しました。ドーパミンは樹状細胞の分泌小胞に貯留され、活性化されると近傍のリンパ球に対して放出されリンパ球を活性化することが判明しました。加えて、この刺激されたリンパ球が最近関節リウマチ病態に大きく関与していることが注目されているインターロイキン-17の産生に重要であることを証明し、神経伝達物質に着目した新たな関節リウマチ病態を明らかにした点が高く評価されたと思われます。

 実際の授賞式は、学会場の最も大きな会場で約1500人が集まり欧州リウマチ学会理事長のオランダ ライデン大学Breedveld教授の挨拶で始まりました。引き続き、鼓笛隊、声楽隊による演奏と歌、コペンハーゲンバレエ団や地元劇団による舞台等、約1時間半にわたる歓迎のセレモニーの後に表彰式が始まりました。まずは基礎研究部門で中野助教が表彰され、引き続き臨床研究部門で田中教授が受賞されました。Breedveld学会長による田中教授紹介の際には冗談まじりで「若い受賞者です」として紹介されたことは、ヨーロッパにおける認知度を印象付ける出来事でした。中野助教と田中教授の講演には多くの人がつめかけ、特に田中教授の講演は前夜のセレモニーが行われた会場に立ち見が出るほどの盛況で一見有名タレントの講演を思わせる雰囲気でした。今後、当科における臨床・基礎研究のレベル向上は言うまでもありませんが、ヨーロッパにおける本邦リウマチ学の認知度を更に向上させるべくより多くの日本人の参加と発表・受賞が続くことを期待してEULAR 2009受賞報告とさせていただきます。

(産業医科大学医学部第1内科学講座講師 山岡邦宏)

  文責:第1内科学講座 中山田 真吾 更新日:2010年07月09日
 
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