医局員コラム

国立保健医療科学院での研修を終えて:小田桂士
                  

 

 

2011625日から73日まで、埼玉県和光市にある国立保健医療科学院で7日間の実地疫学統計研修(計画立案編)に参加してきました。

 池袋から電車で15分程度の所に位置する和光市はベットタウンとして知られており、昼間は比較的静かな街ですが、朝や夕方になると駅前は学生や若いサラリーマンで混雑する賑やか街へと変貌します。また、理化学研究所をはじめとした研究機関や税務大学校、司法研修所などの教育機関もあり、数多くの研究者や学生が集う街でもあります。

 さて、今回研修に参加させていただいた国立保健医療科学院は、厚生労働省の研究機関として設立され、公衆衛生の調査・研究やそれに携わる人材の養成を目的に年間を通じて様々な研修プログラムを計画し、全国から多くの研修生を受け入れている公衆衛生の分野では世界に誇る日本の施設です。


その中でも私が参加させていただいた実地疫学統計研修(計画立案編)は、機関や保健所等での衛生・公衆衛生にかかわる業務である調査研究を推進するために、統計学及び疫学の基礎知識を理解し、研究計画書を立案する技能を修得することを目的とした研修でした。

 

参加者は全国から集まった医師、獣医師、歯科医師、薬剤師、理学療法士、保健師などの医療関係者を中心とした計18名で、実務経験の豊富な方が多い印象を受けました。講師は主に医師免許を有した統計学者の先生方で構成されていました。

研修内容は午前中に講義形式で研究の種類、考え方、統計方法、必要サンプルの計算方法、SPSSの使い方などを学び、午後は実際に統計ソフトを用いて、研究デザインを作成する実習がメインで、座学で学んだことをすぐに実践するという形で理解が深まるように工夫されていました。




また研修生同士のディスカッションも行えるようにと、作成した研究デザインを発表する機会も計2回与えられ、実現可能性、興味深さ、新規性、倫理性、必要性の5項目について、時間内では結論がでないほど白熱した議論や活発な意見交換が行われ、非常に刺激的な毎日でした。

 

一方、学ぶだけではなく、研修期間中には懇親会が数回開催され、各々この研修に参加するに至った経緯や自身が行っている研究についての話、職場のことなど、バックグラウンドが違う人間が集まるとこんなにも話が盛り上がるのかというくらい、名刺交換から始まった懇親会は夜遅くまで続き、研修生同士の親睦を深めることができました。

 

 環境面では最寄のコンビニまでは徒歩10分ほどかかること以外は、宿舎もきれいで図書館も蔵書12万冊を誇るなど資料も豊富で(産業医大ジャーナルもありました!)、不自由なく疫学・統計学に没頭することができました。

 

 

講義の中でとても印象的な言葉がありました。「論文は己を語る手段であり、統計学は数字の中に隠れた真実を明らかにするものである」という言葉です。我々研究に携わる者はつい有意差を出すことに執着しがちですが、統計学はあくまで数多くのデータの中に潜んだ真実を明らかにする方法に過ぎず、その結果を踏まえていかに社会に還元できるかについての自らの考えを語る手段が論文であるということです。かつて肥満と糖尿病の関連も不明確だった時代に、その関連性が示唆されたのは大規模な疫学研究の解析結果からと聞きました。今となっては糖尿病におけるカロリー制限の励行は当たり前のようになっていますが、未知の発見やある事象と疾病の関連性の多くは過去のデータを振り返り、前向きに検討を行うことで、社会に還元できる確実なデータになっているのだと感じました。

医療が進歩した現在でも、原因不明の疾患も多く存在し、治療に難渋するケースも存在しますが、個人の診療の中ではなかなか気づきにくい小さな事も、過去のデータをきちんと振り返り検討を重ねることで、疾患の中に隠れた真実を明らかにすることを可能し、さらにはその先の発展に繋がるのかもしれないと思いました。今回の研修を通じて疫学・統計学の知識以外にも、医療に携わる者として重要なことを教わりました。

 

最後になりましたが、疫学・統計学に関しては無知の私に辛抱強く教えていただいた国立保健医療科学院の講師の先生方、そしてこの研修を受けるにあたり、快く許可していただいた迎教授、医局長、医局員の皆様に感謝申し上げます。


           





文責:呼吸器内科
更新日:2012年7月4日