法医学解剖室の概要
 
19937月 竣工)

 設計主旨

 @全ての人体材料を潜在的感染源と考え対処する(universal protection)。

 A従来わが国の解剖室が見学者などに与えていた暗いイメ−ジを払拭する

 B解剖従事者の動き易さを優先させる。

構造 

 鉄筋コンクリート造り地上3階建、建築面積:411.28u、延べ床面積:1096.31u。
 法医解剖の設備は2階の全フロアーを占めている。
 その内訳は、 1:剖検室 98u、2:前室 31.5u、3・4:更衣室・準備室およびシャワー室
  50.5
u、5:法務官室 17.5u、6:遺族控え室 15u、7:標本室 24u、8:分析室 18u
 9:遺体安置室 21u 暗室 7.5u、その他 128.3uである

 
            

 ご遺体は、教育棟1階玄関からエレベータで2階の遺体安置室に搬送される。

  分析室は、解剖中にアルコールおよびトルエンおよび一酸化炭素ヘモグロビンなど
 ルーチンの検査を解剖と平行しながら行えるよう、剖検室に連続の部屋とした。


  剖検室の床は、ホルマリン燻蒸滅菌を行うため、耐薬・耐水性のエポキシ系塗床とし、
 水で洗い流さない乾式を採用している。したがって、床に排水溝は設置されていない。
 壁および天井もホルマリン燻蒸滅菌のため、密閉度の高いシールド工事を行っている。
 北向きの壁ほぼ全面に広くとった窓は、気密性保持のために完全エアタイトとなって
 いる。
 解剖台(L字型)と同形状の照明(ナトリウム灯と蛍光灯の併用方式)も埋め込み式の
 エアタイト方式である。前室、遺体安置室および剖検室の入り口も全てエアタイト方式と
 なっており、自動扉で壁埋め込みのフットスイッチを採用している。

  注意:現在ホルマリンガスによる燻蒸は、その発ガン性のため行っていない。

  解剖終了後、床の0.5%の次亜塩素酸溶液での消毒を容易にするため、コーナーに
  できるだけRを取るようにした。また、空気中のエアロゾル対策に殺菌灯を8箇所
  取りつけ、片付け終了後退出する際、殺菌灯の点灯をタイマーで行うようにした。
  解剖従事者と見学者の行動範囲を区別するため、床に汚染ゾーン(イエロー)および
  非汚染ゾーン(グリーン)を設け、色分け区別した。なお、非汚染ゾーンに移動式の
  見学台を置いている。


  空調設備

  屋上に法医解剖室専用の空冷ヒートポンプチラーを設置し、ポンプを用いて冷温水
 を循環させ、3階の機械室に設置した空調機の空冷ヒートポンプパッケージにより
 空調を行う。剖検室とその他の諸室の空調を分けて行うために、1つの空調機に2系
 列のダクトを分割接続した。剖検室系列ダクトには、単独で温度調整ができるように
 冷温水コイルを設けた。
  感染防止対策の観点から、剖検室の気密性(陰圧5.0cmHg)を高める必要性があると
 同時に、燻蒸消毒によるホルマリンガスの剖検室からの漏出を防ぎ、かつ剖検室の
 消毒時にも他の諸室の空調が継続できるように、剖検室の送風・排気ダクト途中に
 高気密モーターダンパーを設置し、これと連動した空調機の送風・排気量調節を可能に
 した。また剖検室の排気系を他の諸室の排気系から独立させて、屋上に排気処理装置
 を設け、各種フィルター(別注)によって汚染を除去した後、大気中への排出を行ってい
 る。
  このことにより、剖検室単独で空調の調節が可能となり、燻蒸消毒後の剖検室単独の
 排気も可能となった。解剖台周辺は、特に解剖中に巻き上げられた鋸くずなどのエアロ
 ゾルなどが問題となるため、給気を天井面からダウンフローして、解剖台下側面より排気
 するシステムを採用している。
  さらに、剖検室の壁面の2箇所にも排気口を設けている。また、剖検室とその他の
 諸室の空調制御盤を、後述する排水滅菌システム制御盤とともに1箇所に集め、監視・
 操作が容易にできるように配慮されている。

 別注 : ケンブリッジフィルターユニット HC-033 を使用。そのユニットでプレフィルター
       (可洗不織布)、高性能フィルター(効率:DOPテストで99.9%以上)、中性能
       フィルター(効率:NBS法で90%以上)の3種類のフィルターを用いている。


  給水・排水処理設備

 給水は高架水槽による重力方式とし、給湯は瞬間湯沸器による局所方式として
 必要箇所に供給した。排水は汚水、雑排水、剖検排水および化学系排水の4系統に
 分類し、化学排水を除いた排水は既存排水管へ接続放流し、化学系排水は既設化学
 排水桝へ放流している。ただし、剖検室、前室およびシャワー室から排出される汚水は
 すべて以下に述べる殺菌処理システムを通じて、殺菌した後に既存排水管へ放流され
 る。


  排水殺菌処理システム

 剖検室、前室およびシャワー室からの排水・排液は、まず貯留タンク(容量 4トン)を
 経て殺菌タンク(容量 500リットル)に貯留される。殺菌タンクが満タンになると自動的に
 供給弁が閉じられて蒸気弁が開き、熱交換器を通じて加熱滅菌が行われる。殺菌タンク
 が満タンになり自動的に供給弁が閉じられた時点で、これ以上の汚水は貯留タンクに
 貯留される。
  殺菌は100℃20分間行われ、殺菌終了後に蒸気弁が閉鎖して5分間自然冷却した
 後に、排水弁が開き排水される。その際、シスタンクから冷却水が混合され、30℃程度
 まで冷却された排水が既存排水管へ放流される。この一連の排水殺菌行程は約4050
 分間で終了する。
  以上の行程が終了した5分後に供給弁が開き、貯留タンクに貯留されている残りの
 汚水が殺菌タンクに流入し、引き続き加熱滅菌が行われる。残りの汚水が少なく殺菌
 タンク が満タンにならない場合は、洗浄行程になり、殺菌タンクを洗浄水で満タンに
 して加熱殺菌した後、冷却放流され排水殺菌システムの全行程が終了する。
  これら一連の行程の管理は、自動的に排水滅菌システム制御盤で行われると同時に
 学内の中央監視室にもこれら一連の動きが監視できるシステムとなっている。


 感染防止対策

 剖検時の着衣および防具については、感染防止対策に紹介している方法に準じて
 実施している。なお、剖検用ガウン、キャップおよびマスク、手袋は使い捨てを用いて
 いる。
  使用済みのガウンおよび手袋などはバイオハザード用ポリ袋に入れケーブルタイで
 結び、さらにバイオハザード用ポリ袋に入れ二重にして、大学所定の廃棄場所に排出し
 ている。
  ピンセットやハサミなどの器具は0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で、防水エプロンは
 70 %アルコ−ル・スプレ−で滅菌している。前室には、自動手指消毒器(70%アルコー
 ル使用) および自動手指乾燥器を設け、殺菌灯も取りつけた。
 長靴は、解剖後0.5%次亜塩素酸液で 消毒後、専用収容台で乾燥保管する。
 更衣室には、シャワールームを男女別に設置した。また入出のラインが交差しないように
 前室および更衣室・準備室まで通路の床も剖検室と同様に色分け区分されている。
 剖検室は、解剖終了後フロアーを0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で消毒し、解剖室から
 退室後、紫外線殺菌灯による殺菌を行なっている。

  その他

   感染防止対策の着衣を身につけ長時間剖検に従事するので、解剖室の温度を20℃
 前後に保つことが必要である。温度が20℃以上になると長時間作業に伴う疲労が格段
 に増大する。空調管理を完全に行える剖検室が、感染防止対策実現の最低条件である
 と考えられる。
 また、使い捨てのガウンなどを使用するため、一回の剖検に約1万円程度の消耗品費
 が必要となる。剖検のランニングコストも年間計画に組み込んでおく必要がある。


                              
文責法医学教室 更新日:2011/08/01