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リハビリテーション(以下リハ)医療は、大きく分けて、@急性期 A回復期 B維持期に分別される。発症からの時期に応じて、1患者は複数の病院や施設をまたぎ、訓練を実施することとなる。平成21年4月現在、リハ科専門医は1649人であり、急性期〜維持期に至るまで必要とされる専門医数は、3078〜4095人と推定され、約1500〜2500人は不足している。また、絶対人数の不足に加え、地域の偏在は著しく、訓練士主導でリハを行っている病院や施設は少なくない。脳卒中や整形疾患等でリハ訓練を実施している中で、専門医が必ずしもリハ対象者の管理を行っているとはいえないのが現状である。 維持期リハは、主に介護保険を利用し、デイケアや訪問リハなどを中心に実施されている。かかりつけ医は内科や整形外科など専門診療科は多岐にわたり、提供するサービス内容、地域連携、廃用症候群の対策と予防などリハ知識を必要としていることで維持期リハの訓練効果が高まることは間違いない。 我々は、昨年に引き続き、平成20年度厚生労働省老人保健健康増進事業として、「介護保険制度におけるリハビリテーションの効果的実施のためのかかりつけ医の役割」実施した。その中で、かかりつけ医を対象に調査を実施し、必要な基礎知識の情報提供として、診察手技、障害認定等リハビリに関する基礎知識を研修会で行った。その後、インターネット上で配信した。今年度も同事業の継続し、現在までに配信された内容の改訂し、更に必要な知識の啓蒙を図るために、研修会を予定し、昨年と同様e-learningへの配信予定とする。また、あらたにかかりつけ医の急性増悪症例の経験やリハビリテーションに関するアンケート全国調査を行うこととした(平成19年度実施事業についてはここをクリックして下さい)。
1)委員構成
昨年度に引き続き「介護保険制度におけるリハビリテーションの効果的実施のためのかかりつけ医の役割検討事業」を継続実施するため、2009年1月7日、産業医科大学リハビリテーション教育研修委員会を設置した。構成委員を以下に示す。(◎:委員長、○:副委員長、□:幹事、※:アンケート委員)
・産業医科大学委員
◎蜂須賀 研二(教授)、○佐伯 覚(准教授)、□高橋 真紀※(助教)
岩永 勝(助教)、小田 太士(助教)、白山 義洋(リハ部作業療法士)
柴田 喜幸(実務研修センター准教授)、細田 悦子(看護部看護師長)
・北九州医師会委員
石束 隆男(副会長)、小金丸 史隆(高齢社会対策担当理事)
・小倉リハビリ病院委員
○浜村 明徳※(院長)、藤田 雅章※(院長代理)、梅津 祐一※(副院長)、
大野 重雄※(医師)、小泉 幸毅(リハ部副部長)
・学識経験者
九州リハビリテーション大学校 橋元 隆(理学療法学科長)、大峯 三郎(教授)
・北九州市保険福祉局委員
嘉村 英昭
・日本リハビリテーション病院・施設協会 事務局長 白石 浩隆
・オブザーバー 大久保 敏高、波田 哲朗、金剛 範幸
2)活動内容と役割分担
本委員会は、「かかりつけ医の役割に関する検討事業」を遂行する目的で設置されたもの である。活動内容は、@かかりつけ医を対象とした脳卒中連携パスに関する研修会の開催 Ae-learning教材の作成ならびに改訂、web上への配信 Bかかりつけ医の急性増悪症例 の経験やリハビリテーションに関するアンケート全国調査を行うものである。
各委員の役割分担は、以下の表の通りである。
教育研修委員会において、下記のような講演ならびに情報提供がなされた。
1)第2回 産業医科大学リハビリテーション教育研修委員会(平成21年2月14日)
@「e-learningコンテンツ作成の経過報告(コンテンツ紹介)」
柴田 喜幸(産業医科大学実務研修センター 准教授)
A「介護保険認定審査会で見直される内容について」
橋元 隆(九州リハビリテーション大学校 理学療法学科長)
2)第3回 産業医科大学リハビリテーション教育研修委員会(平成21年3月27日)
@「e-learningコンテンツ作成の最終報告」
柴田 喜幸(産業医科大学実務研修センター 准教授)
A「アンケート事業の経過報告」
梅津 祐一(小倉リハビリテーション病院 副院長)
B「かかりつけ医に役立つリハ知識―北九州市の四肢切断の状況―」
大峯 三郎(九州リハビリテーション大学校 教授)
柴田委員の講演内容については、後述を参照されたい。
橋元委員からの「介護保険認定審査会で見直される内容について」は、平成21年度介護保険要介護認定改訂に関するものであった。まず現行制度の課題として、調査項目が多い、要介護1相当の判定が煩雑などの理由から、本来であれば、要介護認定は、全国一律の認定基準にあるべきだが、基準にばらつきがあるのではないかと懸念されている。そのため、今年度の改訂に至った。今回の改訂の見直しのポイントは、認定調査項目の再整理し、7群82項目から5群74項目に削減する。調査項目の選択基準を3つに分類する。これまで一次判定で「要介護1相当」に対して、二次判定で行っていた「要支援2」または「要介護1」の審査判定を、改訂後はコンピューターを用い一次判定で行うようにした。これにより、介護認定審査会における審査員の負担が軽減され、審査結果のばらつきの低減が期待される。改定内容については細部まで説明し、大変わかりやすい講演であった。本改訂は、平成21年4月の全面施行予定である。
詳しくは下図の『見直しのポイント』をクリックして下さい。スライドショーが始まります。
大峯委員より、「かかりつけ医に役立つリハ知識―北九州市の四肢切断の状況―」と題し、北九州市障害福祉センターの更生相談所における身体障害者手帳診断書12500件をもとに、これまでの北九州市における切断者の状況に関し、年齢、性別、切断部位、原因疾患等について説明された。北九州市の年間切断率は、7.0人/10万人であり、上肢切断は部分手部切断が88.4%、下肢切断は大腿切断36.6%、下腿切断42.7%と両者を合わせて約8割であった。原因疾患について、上肢切断は外傷が最も多く、下腿切断は、糖尿病や閉塞性動脈硬化症などを起因とした循環障害によるものが大半であった。久山町での栄養調査結果を示し、40年前と比べ、脂質エネルギー摂取、動物性脂質比は上昇していることから、食生活の欧米化が一因と考えられた。兵庫県で実施された同様の調査と比較し、切断者の男女比は4:1であったが、北九州市では1.9:1であり、男女が近似していた。さらに、下肢切断の割合が多く、人口の高齢化や生活習慣の変化が予想された。 世界各国の下肢切断者の疫学的傾向について述べられ、切断者数は、北米や北ヨーロッパで多く、スペイン、台湾、日本では少ない。切断発症率は、加齢に伴い急激に上昇し、大半が60歳以上であった。
詳しくは下図の『結果』をクリックして下さい。スライドショーが始まります。
産業医科大学リハビリテーション教育研修委員会は、かかりつけ医が日常臨床で必要なリハビリテーションの知識や技能に関する研修事業を、北九州市医師会、産業医科大学リハビリテーション医学講座、北九州リハビリテーション医会と共同で実施した。本研修会で講演した内容の一部は、今後e-learningとして配信する予定である。
◆平成20年度介護保険・かかりつけ医研修会『脳卒中地域連携パス北九州標準モデルと使用する障害評価について』
平成21年2月14日(土)(小倉医師会館、参加者 125名)
【第一部】《対象:かかりつけ医》
司会:小金丸史隆(北九州医師会高齢社会対策担当理事)
座長:石束隆男(北九州医師会副会長・九州労災病院副院長)
「脳卒中地域連携パス北九州標準モデル」 嘉村英昭(北九州市保健福祉局)
「北九州標準モデルで使用する障害評価」
佐伯覚(産業医科大学リハビリ医学・准教授)
【第二部】《対象:かかりつけ医,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,看護師,MSW,
ケアマネ,その他の医療福祉関係者》
座長:蜂須賀研二(産業医科大学リハビリテーション医学講座 教授)
「急性期の評価(JCS, mRS, NIHSS)について」
石束隆男(北九州医師会副会長・九州労災病院副院長)
「日常生活機能評価について」 細田悦子(産業医科大学病院 看護師長)
*「日常生活動作について(Barthel Index, FIM)」
岩永勝(産業医科大学リハビリテーション医学講座 助教)
白山義洋(産業医科大学病院リハビリテーション部 主任)
「障害高齢者の日常生活自立度,認知症高齢者の日常生活自立度について」
高橋真紀(産業医科大学リハビリテーション医学講座 助教)
*:e-learning配信予定
平成19年度「介護保険制度におけるリハビリテーションの効果的実施のためのかかりつけ医の役割検討事業」(以下、本事業)において、「かかりつけ医のためのリハビリテーション」に関するe−Learning教材が8コース開発された。これは平成19年10月25日および11月15日に行われた本事業リハ研修会(以下、研修会)を収録し、その際に投影されたスライドに同期させ、練習問題を1問付加したものである。 平成20年度の本事業では、前年度の教材の教育効果をより向上させることを企図して、かかる8コースの内3コースの改訂版を開発した。 開発にあたっては、研修会に参加した北九州医師会員217名を対象としたアンケート(回答数130。以下、アンケート)[1]をふまえ、かつ、Instructional Design(教授設計)の知見を活用した。以下にその概要を示す。 また、平成21年2月14日の研修会の講演を対象に、平成19年度仕様にて新たなコースも3本開発した。
e−Learningと一口に言ってもさまざまなパターンが存在し(Table 1 )、そのテーマ、対象者、予算、納期などさまざまな要因により作り分けられる。 市場ではパターン1(活字と若干の図表をPC上で読み続けるもの)、あるいはパターン2(講義を収録しただけのもの)が非常に多く、書籍やビデオとの優位性を出せないため、不評を買うことが多い。この事象を斟酌し、平成19年度の本事業ではパターン3(講義収録と上映のスライドの同期、練習問題を1問付加)にて設計開発され、ホームページ上で公開された[2]。 今般、当該コースのさらなる改善を企図し、パターン4にてその改訂版を開発した。講義とは別に新たな映像・資料等を用い、かつ、双方向性を加えることによって、よりe-Learningの特長を活かそうというものである。 有限な予算・開発期間等の制約の中で、最大限の効果・効率・魅力を具備した「パターン4」をいかに実現するかが、本取組の要諦である。
Table 1. 教材の作成例(図をクリックすると拡大されます)
(1)対象者分析 アンケートから、当該コースの対象者を次のように分析した。
A)標榜科分布:「筋」を専門とされないDr.が多数を占める
<研修会参加者属性より>
@内科医(43.8%) A消化器科医(12.5%) B外科医(10.4%)
⇒@+Aで約6割
B)関心の傾向: 評価・生活指導に関心が集まった
<役立つ講演テーマ回答 より>
@関節可動域(54.0%) A日常生活動作(53.1%) B筋力(48.4%)
C)臨床での能力向上ニーズ: 限定された情報での状態把握・評価、ADL向上への
指導法が上位を占めた
<「求められるが実践できない」事項や理由の回答より>
@生活機能の観察と評価 AADL向上の方法
(2)対象コースとコンセプト
上記(1)の分析から開発するコースとコンセプトを次のように定めた。
@対象コース(いずれも約20分)
1)筋力
2)関節可動域
3)片麻痺重症度
Aコンセプト
1) 臨床現場で「そのまま使える」Know Howの可視化
・評価(各種機能テスト含む)における「コツ」の実演(ビデオ)
・評価結果の各種証明帳票への記入ポイント作表(現物映示)
・自主訓練法の可視化(ビデオ)
2) eラーニングならではのインタフェイスの工夫
・双方向性の多様化(ビデオのクリックON、練習問題の増問)
・各種早見表・ポイント等のfile添付(現場に貼っておける)
・患者向けビデオ部分のfile添付(運動指導時、待合室等で利用)
・ナレーションとスライドの同期
(1)基本設計
まず、昨年度版コースの講話・スライド等を全て設計フォーマットに書きだした上で、上記コンセプトに照らし、次の事項の抽出を行った
@要点を文字表示すべき部分
A原理や要点を図表化すべき部分
B実物の機器・帳票を映示すべき部分
C模擬患者に対する専門家の実技を再現すべき部分
DCに、補足の画像処理をすべき部分
E資料・帳票をダウンロード可能にすべき部分
F受講者の操作により独立して再生を可能にすべき部分
G理解度確認テストに出題する部分
H用語集に掲載すべき部分
(2)詳細設計
次に、上記(1)を元に、詳細設計書=実際の開発用シナリオの作成を行った。講師の講義とスライドをベースにしながら、上記(1)で抽出した各項目を組み込んでいくという方式をとった。特にCGについては、動画の収録の行うことから綿密なカット割りの設計を行った。仮構成の構築後、あらためて講義部分の加筆修正を行い、新たに制作するvisual面と講師の解説に齟齬がないように考慮した。下図(クリックすると拡大します)はこうして作られた詳細設計書 の一部である。
(3)収録・実作
上記(2)の設計書をもとに、次のプロセスで実作を行った。
@収録 模擬診察室および訓練室等にて次の収録を行った。
1)講師講話の撮影
2)講師と模擬患者による面談・測定実技等の撮影
3)模擬患者による自主訓練の撮影
4)各種機器の撮影
ACG加工
各種素材にCG加工を行った
1)pptスライドの加工
講師の話す箇所とpptスライドの表出を同期させより集中度を向上させる
2)上記@にて収録した各種素材に補足の加工を施す
(例:実技ビデオにおいて、力を加える方向を矢印で示すなど)
B資料の添付file化
受講者が受講中または受講後に、印刷するなどして実務に活かしたいと思われる資料
については、pdf等のfileにして添付、コース上からダウンロードできるように加工した。
C理解度確認テストの作成
各コースの巻末に、コースの中で重要な部分についての確認テストを掲載する。
用語の意味や症状による評価、評価結果の各種帳票への表記方法などを択一問題形式で出題し、自動採点を行う仕様とした。
Dオーサリング・サーバアップ 個々のシーンを編集し、産業医科大学内のe-Learning学習管理サーバー(Black board Academic suite)上に載せ、インターネットを介して受講できるようにした。
今回の3本の改訂へのご評価をふまえつつ、今後は以下のコースへの着手を検討していきたい。
1)これまでに開発済の未改訂コースの改訂
2)ニーズ・シーズ両面からの新テーマ探索
殊に、医学書等の静的な媒体からでは習得しにくい「専門家ならではの重要なノウハウ」の伝達に重用できると考える。また、インターネットの特長を活かし、コンテンツとオンラインアドバイスの複合などを長期的な視野に入れることも有用と考える。
e−Learningを含めたマルチメディア教材は、さまざまな機能を携えている反面、開発者・利用者がその特性をふまえなければ利点を充分に発揮させることができない。また、IT的な機能ばかりを注視しても「どう教えるか」という教育設計(ID)的視点がなければ単なる「電気紙芝居」となってしまう。要はIT・ID両面の知見が不可欠となり、それに完成形などはなく、常に改良=「よりましに」が求められる。 本取組は前年度開発されたコースを、与件の中で「よりましに」したものであり、諸先生方のご指導のもと、さらに改良を加えていきたいと考える。
[1]産業医科大学リハビリテーション医学講座,平成19年度「介護保険制度におけるリハビリテーションの効果的実施のためのかかりつけ医の役割検討事業」報告書 p11-16
[2]http://www.uoeh-u.ac.jp/kouza/rihabiri/intro_j.html (産業医科大学リハビリテーション医学講座HP)
昨年度に引き続き、産業医科大学リハ医学講座、北九州医師会、北九州リハ医会、北九 州市保健福祉局の協力を得て、産業医科大学リハビリテーション教育研修委員会を設置した。 事業内容として、かかりつけ医、リハ医療関係者を対象にした教育研修会の開催、昨年 配信したe-learning教材を改訂し、ポイントやコツを詳しく可視化したり、練習問題を挿 入するなど、より教材の理解が深まるよう工夫した。なお、これらの研修講演の一部を「 実地医家に役立つリハビリテーションの知識と技術(医歯薬出版)」として出版することを 計画している。 また、今回行った介護保険におけるリハビリテーション提供中の急性増悪症例に対して行ったアンケート全国調査で、増悪の原因となった疾患は、約3分の1が肺炎・誤嚥性肺炎であった。今後、加齢や脳卒中後などで軽度の嚥下障害を有する者などに対して嚥下教育の必要性がある。e-learningは、いつでもどこでも好きな時間に繰り返してみることが可能であり、簡便にリハに関する知識の修得が可能であり、忙しいかかりつけ医には最適のツールと考える。在宅療養患者を全人的に診察し、維持期リハを効果的に進めていくために、今後もかかりつけ医に対し教材の配信ならびに改訂を継続していく予定である。
なお、e-learning教材を表示するにはここをクリックして下さい。
文責:リハビリテーション医学講座/ |