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産業医科大学 産業生態科学研究所

研究内容

呼吸病態学研究室

 当研究室は、職業性肺疾患の病態生理を把握し、労働者の吸入化学物質に対する健康予測システムの確立、疾病の発症や進展させる複合因子の解析、疾病発症を未然に防ぐためのマーカーを検索している。特に下記の点に注力し、産業保健医学に貢献することを目指している。

1. 吸入性化学物質の有害性評価

 吸入性化学物質の有害性評価システムを用いた化学物質の有害性評価に携わっている。このシステムとは、5つの試験系に分かれており、すなわち物理化学的特性、培養細胞試験、気管内注入試験、短期吸入ばく露試験、長期吸入ばく露試験である。これらの試験を行った化学物質の知見を集約し、整合性を図ることにより、化学物質の信頼性の高い有害性評価を行うとともに未知の化学物質の有害性を推測することにつながると考えている。吸入性化学物質の有害性評価を行う委託研究も行っている。

 

2. ナノ材料を含めた新規化学物質のリスク評価手法の開発

 吸入性化学物質の呼吸器に対する有害性評価のゴールドスタンダードは、吸入性ばく露試験であるが、装置やコスト面から多くの材料で試験を行うことは困難である。一方、気管内注入試験、培養細胞試験などは、比較的簡便にできるが、有害性評価として十分なエビデンスをもっていない。特に、工業用ナノ材料に対して呼吸器有害性評価を行うためには、簡便に行える気管内注入試験法やの普及が必要である。我々は、経済産業省のプロジェクトを通して、有害性評価のスクリーニングにおける気管内注入試験の有用性を検討している。

3. 吸入性化学物質による炎症を評価・予測するバイオマーカーの開発

 吸入性化学物質の吸入あるいは注入ばく露による肺胞内の細胞応答を分子レベルで解析することで細胞障害を評価・予測するバイオマーカーの開発を目指している。吸入性化学物質を気管に吸入あるいは注入させたラットの肺組織の遺伝子解析から、肺の炎症に関与する可能性がある遺伝子をいくつか同定した。今後は、炎症状態の評価や発症予測ができるか検討している。

4. 職業起因性悪性肺疾患の解析

 職業起因性悪性肺疾患、特に胸膜の中皮細胞から発生する悪性胸膜中皮腫のほとんどはアスベスト(石綿)の曝露によって生じるが、診断に有用なバイオマーカーがないことが早期発見を困難にしている。培養細胞や動物ばく露試験を通して、がん遺伝子、がん抑制遺伝子を中心にDNA突然変異の有無を解析し悪性胸膜中皮腫の早期診断を目指している。 

5. 宇宙環境における生体影響評価

 将来的な月や惑星の居住へ向け、我々は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携をとり、月レゴリス(粉じん)の生体影響評価を展開している。月の粉じんのサイズにより、アレルギー炎症に差異を認めなかったことを発表した。

6. 喫煙による慢性閉塞性肺疾患(COPD)における酸化的ストレスの影響 

 COPDの呼吸リハビリによる活動性の回復に関わる指標を解析するために、急性増悪にて入院したCOPD患者の酸化的ストレス、呼吸リハビリの進行状況、運動耐用能、身体活動性を検討した。COPD患者の酸化的ストレスや運動習慣が身体活動性に関わることが認められた。

7. 吸入化学物質の健康影響調査

 企業における疫学的調査を通して、化学物質のリスク評価を行う。

8. 職業性肺疾患の診断法の開発

 原因不明な呼吸器疾患のうち、環境要因が原因でと判断する手法としては、問診が一般的であり、客観的な手段に乏しい。我々は、企業で取り扱う化学物質と肺内から検出される化学物質の一致を基本的なコンセプトとして検討を行っている。

 

産業医科大学 産業生態科学研究所 呼吸病態学呼吸病態学

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文 責: 呼吸病態学  
更新日: 2020年1月14日