研究内容

 当研究室では、基礎、臨床から産業応用まで広範な研究領域をカバーしているのが特色です。本年度は、遺伝子解析、網膜・硝子体、緑内障、電気生理、産業眼科学の各領域において研究が進められました。また、競争的研究資金(科研費、AMED)による研究や、他施設との共同研究も行われています。

遺伝子解析関連

・ 網膜疾患・小児眼科疾患の原因遺伝子

昨年は東京医療センター(感覚器センター)の研究グループからの要請があり、先天網膜分離症の遺伝子解析を行い、多施設研究として教室の症例を含む56家系のデータをまとめてHuman Genome Variation誌に報告致しました。
exome解析や全ゲノム解析については、国立感覚器センター、京都大学ゲノムセンター、浜松医科大学眼科との共同研究を行なっています。

網膜・硝子体関連

・ 未熟児網膜症と家族性滲出性硝子体網膜症について

未熟児網膜症と家族性滲出性硝子体網膜症の黄斑部の解析を行っています。使用機器はトプコンのSS-OCTで、中心窩無血管領域 (foveal avascular zone : FAZ)と網膜厚の関係を調べています。

・ DPCを用いた裂孔原性網膜剥離の疫学研究

裂孔原性網膜剥離は世界的には男性が多いと報告されているが、日本では女性が多いと報告されています。しかし我々の臨床経験上男性の患者の割合が多いと感じており、本研究を開始しました。今回はDPCに着目し、当院公衆衛生学教室の助力を得て情報を入手し解析を行っています。

緑内障関連

・ 緑内障とロービジョン

緑内障は失明の原因疾患の1位であり、早期からのロービジョンケア導入が望ましいが、その基準がはっきりしていません。我々は国際分類であるFVSスコアを基準とし、身体障碍者手帳の該当基準や湖崎分類などと比較することで簡便な基準を共有できないか研究を行っています。

・ 新しい手術補助材を用いた緑内障手術

新井眼科の新井三樹先生と原田眼科の原田行規先生と行っているハイドロゲルであるFocalSeal®を用いたブレブリーク閉鎖についての論文は、2020年にTVSTに掲載されました。今後、ヒトへの応用を目指しています。

電気生理関連

・ 硝子体手術直後の多局所網膜電図:皮膚電極を用いた計測

多局所網膜電図は三宅病や急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の診断のために重要な検査であり、通常は計測時にコンタクトレンズ電極を使用しています。しかしコンタクトレンズ電極は角膜に直接接触するため術直後に計測をすると感染のリスクがあり測定が不可能でした。そこで皮膚電極を用いることで、角結膜に触れることなく測定可能になりました。現在、術後直後の黄斑局所機能の評価を行っています。

産業眼科学関連

・ 眼科医の手術執刀時の姿勢を人間工学的に分析する

執刀医の疲労を軽減し手術のパフォーマンス向上を狙った椅子の開発がほぼ完了し、2018年度には発売される予定でしたが、商品化に向けた耐久テストの段階で止まっています。
2017年度より、3Dモニタ手術システム(NGENUITYR、日本アルコン)に注目し、新たな実験を続けています。NGENUITYRを使用した際と、従来の顕微鏡を使用した際の執刀医の姿勢の違いについて研究を行っています。引き続き、当大学の人間工学教室の初代教授である野呂影勇先生の指導を受けながら、人間工学的なアプローチを特徴にして研究を進めています。2018年2月には、ドイツで開催されるGfA(人間工学システム学会)で発表しました。

手術姿勢の研究

・ 3Dモニターを用いた眼科手術システムのパフォーマンス評価

2018年度は、NGENUITYRを用いて、従来の顕微鏡手術とのパフォーマンスの違いに注目した研究も開始しました。労働者(眼科医)の作業管理および作業環境管理に関係する研究というのは、まさに産業医学ですので、継続していきたいと考えています。

・ 視覚障害者の就労実態を反映した医療・産業・福祉連携による支援マニュアルの開発

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の障害者対策総合研究開発事業(感覚器障害分野)として行っている他施設との共同研究です。当教室では、主に眼科を対象とした調査研究を行っています。
これまで、福岡県内の眼科医療機関を対象としたロービジョンケアと視覚障害者就労支援に関する質問紙調査、西日本10箇所の眼科医療機関を対象としたインタビュー調査を実施してきました。現在は、視覚障害者への就労移行支援サービスを行っている全国の相談支援事業所を対象に、視覚障害者就労支援に関する質問紙調査を実施しています。今後は、これらの調査結果に基づき「視覚障害者就労支援マニュアル」の開発を行う予定です。

・ 視覚障害者の歩行安全を目的とした新たな高視認性安全服の開発

科学研究費補助金(基盤研究C)による研究です。これまで、交通事故統計に基づく視覚障害者の交通事故の特徴分析、視覚障害者における高視認性安全服のニーズ調査、視覚障害者向け高視認性衣服・装備品のデザイン案の評価を実施してきました。これらの研究結果を基に、視覚障害者の利用を想定した高視認性安全服・装備品として、ベスト、ボディーバッグ、帽子の試作品を製作しました。現在は、北九州在住の視覚障害者の方々にこれらの試作品を実際に使用していただき、その効果を検証する調査を行っています。

・ 医療者の低線量被爆による放射線白内障の研究

平成30年度から『頭部IVR患者を対象に放射線白内障の線量応答を解明し将来の発症リスクを予測する』という研究題材で、量子科学技術研究開発機構の盛武敬先生、金沢医科大学眼科の佐々木洋先生らと共同研究(科研費基盤研究B:5年)を行っています。さらに、令和2年度からは『医療従事者を対象とした放射線白内障自動診断システム構築及び放射線防護教育の実践』の研究代表(科研費基盤研究C)として研究を開始しています。2021年4月に電離放射線障害防止規則が改正されたのに合わせ、放射線従事者の水晶体検診を徹照カメラを用いて開始し、現在解析を行っています。