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第54回日本臨床分子形態学会 論文賞受賞報告
 
 

Trehalose alleviates oxidative stress-mediated liver injury and Mallory-Denk body formation via activating autophagy in mice (Med Mol Morphol 2021; 54 (1): 41-51)

 この度、第54回日本臨床分子形態学会におきまして、大変名誉ある論文賞を賜り、関係の諸先生方には厚く御礼申し上げます。今回の受賞の栄誉を授けられましたのも、産業医科大学医学部第3内科学の原田 大教授をはじめ、これまで多くの方々にご指導、ご協力を頂きましたおかげであり、深く感謝申し上げます。
 私は、2005年に産業医科大学医学部第3内科に入局し、臨床の研鑽を積んだのち、2009年より大学院医学研究科に進ませて頂きました。大学院ではいくつか研究テーマを頂きましたが、はじめて与えられました研究テーマが、今回論文賞を頂きました「肝細胞におけるトレハロースとオートファジーの関係と細胞保護作用」についてでした。当時の研究室には肝臓の基礎研究の下地がなく、私が原田教授ご就任後の最初の大学院生でした。右も左もわからない私に、原田教授自ら培養細胞や実験動物の扱い方、分子生物学的手法から電子顕微鏡観察まで、実験の基礎を一から御教授頂きました。そして、結果の解釈や考え方に悩んでいる際に、温かくお声掛けいただきましたことを今でも鮮明に記憶しております。大学院の頃から現在に至るまで、基礎研究から臨床研究に至るまで、多くのご指導を賜りまして、この場をお借り致しまして心より感謝申し上げます。
 受賞しました論文の内容は、「トレハロースはマウス肝においてオートファジーを誘導し、酸化ストレスによる肝障害やMallory-Denk体の形成を抑制する」というものです。本研究で用いたトレハロースは、2つのα-グルコースが1,1-グリコシド結合した二糖類の一種で、微小動物や植物など自然界に広く存在しています。トレハロースは、熱や酸に対する高い安定性や保湿作用をもち、動植物が乾燥や凍結など過酷な環境下で生命を維持するのに役立つと考えられています。それだけではなく、たんぱく質の変性抑制効果も示されていて、様々な分野での応用が期待されています。以前は希少で非常に高価なものでしたが、今回共同研究を行わせていただきました株式会社林原により大量生産が可能となり、今日では食品や化粧品など多くの日用品にも使用されています。
 私が本研究を始めた当初は、神経変性疾患モデルでトレハロースが細胞内蛋白分解機構のひとつであるオートファジーを誘導し、病態改善効果を示すとする報告がいくつかありましたが、肝細胞への作用などトレハロースの詳細な作用については十分に解明されていませんでした。小胞体ストレスや酸化ストレスは、C型肝炎やアルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎など様々の肝疾患の病態に関係します。肝細胞へのストレスの誘導は、細胞内への異常蛋白の蓄積、Mallory-Denk体(MDB)の形成、アポトーシスを引き起こしますが、オートファジーの誘導は異常蛋白やMDBを分解し、細胞死を抑制 さ せ ま す 。本研究では3,5-diethoxycarbonyl-1,4-dihydrocollidine (DDC)をマウスに投与したMDBモデルマウスに、トレハロースを腹腔内投与し影響を検討しました。トレハロースの投与群ではマウス肝にオートファジーが誘導され、異常蛋白の蓄積、小胞体ストレス、酸化ストレスがDDC単独投与群よりも軽減し、MDB形成やアポトーシスも抑制されました。電子顕微鏡観察で、トレハロース投与群ではMDBの近傍にオートライソゾームが認められました。共著者の有安様をはじめ、林原の方々にご協力頂き、マウス血中にトレハロースの存在を確認することもできました。研究成果につきまして、臨床分子形態学会、日本肝臓学会、浜名湖シンポジウム、トレハロースシンポジウムなど多くの場での発表の機会を頂き、様々な分野の先生方と意見を交換することで研究の励みになりました。この結果より、トレハロースは酸化ストレス関連肝疾患への治療応用ができると期待しています。
 学位論文では肝細胞癌に対する分子標的薬でありますソラフェニブが、従来報告されている抗腫瘍作用とは別に、肝癌細胞内のオートファジーの調節や、また小胞体ストレス応答のunfolded protein response、細胞骨格の構成成分の一つであるケラチンのリン酸化、肝細胞内封入体の形成を阻害する作用を示し、肝癌細胞死へ影響することを報告させて頂きました。これをきっかけに現在に至るまで、分子標的薬と肝癌細胞に備わるストレス防御機構との関連について基礎研究を継続して参りました。将来は、肝細胞癌で苦しんでおられる患者様の、薬物療法における治療効果の向上につなげていくことができればと考えております。
 最後になりましたが、本学会の諸先生方には学会発表などを通じ、多くのご意見、ご指導を賜りまして、誠にありがとうございました。この度、拝受いたしました賞を今後の糧とし、研究成果から臨床への応用を目指し、また大変微力ではございますが、本学会に少しでも貢献できるよう日々精進して参る所存です。今後とも、ご指導、ご鞭撻を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

雑誌掲載URL:
https://link.springer.com/article/10.1007/s00795-020-00258-2

日本臨床分子形態学会 会報URL:
http://jscmm.main.jp/index.html/_src/1226/%E4%BC%9A%E5%A0%B1no.56.pdf?v=1674103767349

 

文責:本間 雄一 更新日:2023/3/8

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