健康経営のためのウイルス肝炎対策

このサイトは、厚生労働科学研究費補助金肝炎等克服政策研究事業「職域におけるウイルス性肝炎患者に対する望ましい配慮及び地域を包括した就労支援の在り方に関する研究」 (H26-肝政-一般-002)の成果として開設しました。

2.肝炎検査の推進と費用助成制度

職場で肝炎検査を推進する方法は、(イ)定期健康診断に組み込んで実施する方法(会社が検査を実施する方法)、(ロ)定期健康診断の機会に健保組合や自治体による検査を実施する方法(会社が機会を提供する方法)、(ハ)個人に勧奨する方法に大別されます(表)。いずれの場合も、感染の有無を調べるスクリーニング検査として、B型肝炎には「HBs抗原検査」を、C型肝炎には「HCV抗体検査」を行います。通常、結果が毎年変化することはありませんので、入社時や40歳時などの機会に1回だけ検査すればよいものです。また、検査結果が陽性となる人は1%未満ですが、陽性になった人には肝臓内科等を必ず受診してもらうことが最も大切です。

なお、針刺し事故等でごく最近、感染した場合は、肝炎検査が陽性になるまでに一定の時間(ウインドウ期間)がかかります。HBs抗原は約2カ月後、HCV抗体は約3カ月後に陽性となります。このような場合は、産業医や医療機関に相談してください。

表 職場で肝炎検査を実施する方法
(イ)会社が検査を実施する方法
定期健康診断等で実施する項目に肝炎検査を追加する
(ロ)会社が機会を提供する方法
定期健康診断等の機会に健保組合や自治体による肝炎検査を実施する
(ハ)個人に勧奨する方法
自治体が実施する肝炎検査の受検を勧奨する医療機関を受診した際に肝炎検査の受検を勧奨する
表 職場で肝炎検査を実施する方法の比較
  体制整備 費用負担 個人情報管理 実効性
(イ)会社が検査を実施する方法 やや難 会社 高い
(ロ)会社が機会を提供する方法 健保組合等 やや劣る
(ハ)個人に勧奨する方法 本人 劣る

(イ)会社が検査を実施する方法

労働安全衛生法に基づく定期健康診断等を実施する際に、HBs抗原検査とHCV抗体検査を追加します。この方法は、健康診断の仕組みをそのまま利用できるのがメリットです。ただし、費用負担と個人情報管理について事前にしっかりと取り決めておく必要があります。

まず、費用について、健診機関と相談する必要があります。一般診療の場合は、平成28年度の診療報酬点数表により、「HBs抗原定性・半定量」は29点(290円)、「HCV抗体定性・定量、HCVコア蛋白」は114点(1,140円)と決まっています。実際に、患者として医療機関を受診した場合は、これに初診料282点や血液採取(静脈)25点等が加算されますので、採血による肝炎検査だけで5,000円くらい(保険診療ならば自己負担は3割で1,500円)になります。集団で行う健診の場合は、それぞれ検査料が500円〜2,500円くらいのところが多いようです。この費用を会社がすべて負担するか、個人にも負担を求めるか、あるいは、健保組合も負担するのかについて、事前に協議して取り決めておかなければなりません。

次に、個人情報を適切に管理する必要があります。定期健康診断の検査項目は労働安全衛生規則で規定されていますが、そこに「HBs抗原検査」や「HCV抗体検査」は含まれていません。したがって、これらの検査結果は、個人情報保護法第2条第3項に定める要配慮個人情報として取り扱う必要があります。すなわち、本人に無断で肝炎ウイルス検査を実施して検査実施後に本人の同意を確認したり、検査結果を会社に提供することについてオプトアウト(本人の積極的な拒否の意思表示がなければ同意しているとみなすこと)を利用したりすることは、いずれも違法であり、事前に個人ごとの同意を得る必要があります。労働組合との協議や衛生委員会での審議などで労働者全体に対して包括的に通知しておく方法では不十分になります。そこで、定期健康診断等の問診票で「肝炎検査を希望する」かどうかを尋ねて、希望しない人には実施しない仕組みにしておくことが重要です。そして、もう一つ重要なことは、検査結果を原則として本人と医療職以外が利用しない仕組みにしておくことです。また、たとえ本人が検査結果を会社に提供することに同意したとしても、当然のことながら、会社が健康管理の目的以外で利用したり他人に通知したりすることは許されず、そのような事態が生じないように管理する必要があります。そのためには、肝炎ウイルス検査の結果は、会社に通知される通常の健康診断結果票には記載せず、別途、本人専用の結果通知票だけに記載する仕組みにしておくことが勧められます。これは、心理的負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)に似ていますので、同様に取り扱うとよいでしょう。

(ロ)会社が機会を提供する方法

会社が定期健康診断等を実施する機会を利用して、健保組合や自治体が肝炎検査を実施する方法もあります。健保組合や自治体は、それぞれ肝炎検査の普及を図っています。全国健康保険協会(協会けんぽ)は、今まで肝炎検査を受けたことのない一般健診の受診者で、@35歳以上、A輸血を受けた可能性がある者(広範な外科的処置を受けた者や妊娠・分娩時に多量に出血した者)、B一般健診で肝機能検査の数値に異常が認められた者(GPT≧36 IU/l)のいずれかに当てはまる人を対象に、自己負担額を最大612円として肝炎検査を実施しています(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g4/cat410/sb4010/r35)。この場合、検査結果は協会けんぽから本人に直接通知されるため、会社がこれらの情報を管理する必要はありません。ただし、本人が、会社や協会けんぽを経由せず、直接、健診機関に申し込む制度になっています。そこで、会社が実施する定期健康診断の委託先が協会けんぽの指定する健診機関である場合には、その機会を利用して同時に肝炎検査が受けられるように健診機関に相談しておく方法があります。協会けんぽが行う生活習慣病予防健診の結果を定期健康診断に代用している会社では、同時に肝炎検査が受けられるかどうか確認しておきます。一方、大企業が主体の健康保険組合も肝炎検査を推進しています。協会けんぽと同様ですが、健保組合によって多少異なります。そこで、会社としては、健保組合ごとに制度を確認した上で、本人が申し込めば、定期健康診断の機会に健保組合が実施する肝炎検査が受けられるように健保組合と健診機関に相談しておきます。たとえば、船員健康保険でも同様に、HBs抗原検査は自己負担なしで、HCV抗体検査は454円で受けられる制度になっています。いずれの場合も、個人情報は適切に管理する必要がありますので、検査結果は原則として本人以外に通知されない仕組みにしておくことが重要です。

そして、自治体(市町村)は、原則として無料で肝炎検査を実施しています。そこで、会社が実施する定期健康診断の委託先が自治体の指定する健診機関である場合には、その機会を利用して同時に肝炎検査が受けられるように健診機関に相談しておく方法があります。この方法では、受診者の情報は自治体が管理し、検査結果は自治体から本人に直接通知されるため、会社が肝炎検査に関する個人情報を管理する必要はありません。ただし、実施主体は本人の居住地の自治体ですので、雇用している労働者の居住地が複数の自治体にわたる場合はそれぞれの自治体との調整が必要になります。その際、自治体によっては、対象者、費用負担、実施方法が多少異なることがあります。

(ハ)個人に勧奨する方法

職場で、自主的に肝炎検査を受けるよう勧奨する方法もあります。肝炎検査を受ける方法には、いくつかのものがあります。まず、感染症法に基づく「特定感染症検査等事業」により、都道府県、政令市及び特別区が実施する肝炎検査を保健所のほか一部の医療機関において無料で受けることができます。また、健康増進法に基づく「健康増進事業」として、市町村も肝炎検査を実施しています。こちらも地域で異なりますので、詳細は、市町村の健康増進事業担当課に尋ねる必要があります。これらのほか、医療機関を受診した際や献血を希望した際に受けた肝炎検査の結果が陽性であった場合は、必ず肝臓内科等を必ず受診するように職場でも教育を行うことが大切です。これらの制度を利用して肝炎検査を実施している医療機関や費用等の情報サイトが公開されています(表)。

また、居住地の保健所は、ウイルス性肝炎を治療するための医療費助成を受給していない人が、定期的な状況確認の連絡(フォローアップ)を受けることに同意した場合には、年に2回までの定期的な検査を無料で受けられる「ウイルス性肝炎患者等の重症化予防推進事業」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou09/pdf/150325-01.pdfhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou09/pdf/150325-01.pdfhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou09/pdf/141203-02.pdf)を推進しています。実施機関や申込方法は地域で異なりますので、詳細は居住地の保健所に尋ねるように勧奨しましょう。

表 肝炎検査に関するウェブサイト
肝炎ウイルス検査マップ
http://www.kanen.ncgm.go.jp/kan-en/
各自治体の「肝炎ウイルス検査」についての取組
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou09/linklist02.html
肝疾患診療連携拠点病院
http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/060/hosp.html

(C)2017 IIES UOEH

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