コラム

肝炎ウイルス検査に関する裁判例

肝炎ウイルス検査に関しては、次のような裁判例があります(東京地方裁判所平成15年6月20日判決・労働判例854号5頁、判例秘書L05832506)

この判決の事案は、およそ次のようなものです。

大学卒業予定者であった原告Xは、就職希望先Yの面接試験をパスし、診療所で健康診査を受けた後、Yの指示でB型肝炎ウイルス検査であることを知らされないまま、血液検査を受けました。診療所の医師からYに検査結果が陽性で感染による肝炎の所見がある旨通知され、Yの職員は、Xに肝臓に異常があることを説明し、精密検査を受けるように勧め、Xも同意し、B型肝炎ウイルス感染の有無、ウイルス量、感染力等判定のための精密検査を受けました。この際、Xは、医師から肝臓のどこが悪いか治療のため詳しく調べると言われましたが、前の検査の結果が陽性で、肝炎を発症していることや、今回の検査がB型肝炎の有無を調べるためのものであることは知らされていませんでした。その後、Xは、医師からB型肝炎ウイルス感染による慢性の活動性肝炎であり、定期的受診が必要である旨知らされ、Yから採用されませんでした。

そこで、Xは、Yを被告として、不採用のほか、無断でB型肝炎ウイルス検査や精密検査を受けさせられたことで精神的苦痛を蒙ったなどとして、不法行為による損害の賠償請求訴訟を提起しました。

裁判所は、不採用については不法行為の成立を否定しましたが、B型肝炎検査については、本人に対する説明も本人の同意なく、プライバシー権の侵害に当たり、不法行為が成立するとして、Yに対し損害賠償として慰謝料の支払を命じました。

その理由は、特段の事情がない限り、採用に当たってB型肝炎ウイルスの検査を行う必要性はない、本件の場合も、Yの業務に照らし、応募者の能力や適性の判断のために検査をする必要性に乏しく、これを必要とする特段の事情も認められない、最初の検査については、事前の説明もなく、Xの同意も得ていないし、その後の精密検査についても、Xには前の検査結果が陽性であったことや、精密検査の内容が知らされておらず、検査に同意したと認められないから、何れもプライバシー権の侵害に当たるとしたものです。

上記のような理由からすると、一般従業員に対する検査についても同様で、肝炎ウイルス検査は法定検診事項に当たらず、標準的感染予防の方法により、通常の業務に支障はないとされることからも、検査をする特段の必要性と合理性が認められず、本人の同意もなく検査を行った場合には、プライバシー権の侵害として不法行為となり、違法とされることになると思われます。本人の同意については、予め検査の目的と内容、その結果の利用方法等について知らされ、これを十分理解した上での、真意に基づくものである必要があります。

肝炎ウイルス検査が広く円滑に行われるためにも、ウイルス性肝炎やその治療の現状等についての一般の理解が浸透し、この検査の意義や重要性が認識されることが望まれます。