Q&A

とくに事業所の立場にたった疑問にお答えします

陽性者の医療機関への受診指示は自由の阻害になりませんか?
受診するかしないかは、本来、本人の意志で決めるべきものであり、受診を強制したり、業務命令として指示することはできません。しかし、肝炎は症状に乏しく、専門医療機関への受診の必要性を、本人が十分に理解、認識していない場合がありますので、十分な情報提供を行い、労働者が自ら受診することを促すことが大切です。
会社が結果を取得する場合の結果の保存期間や、社員から消去してもらいたいという申出があった場合の対応は?
一般健康診断結果は、5年間の保存が規則で義務づけられていますが、肝炎ウイルス検査は、法定の健診項目ではありませんので、結果の保存に関する規定はありません。一方で、利用する必要がなくなった個人データについては遅滞なく消去するよう努めることが法律(個人情報保護法第19条、2015年改正)で定められており、検査結果の活用目的をどう位置づけるかにより、保存や情報の消去の対応は変わるでしょう。事前に労使間で協議を行い、事業者が検査結果を取得することについての目的を明確にし、それに応じた保存期間を定めましょう。
過去に受検歴(医療機関)のある人が新たに検査を希望しています(記憶が曖昧、最近思い当たる節があって調べたい等)。受けさせるべきでしょうか?
肝炎ウイルス検査は一生に一度、検査を実施すればよいというのが基本的な考え方です。過去の検査結果を医療機関等で調べることができれば、再度の検査は不要です。調べることができない、その他の理由で再検査を希望する社員に対して、再度の検査を実施するかどうかは、規則等で定められているものではありません。実施主体が事業所であれば各事業所で判断をすることになります。また、健保組合や自治体の検査であれば当該機関の判断によります。
検査の実施に関する労使間の同意には有効期限がありますか?(審議の更新はすべきか?)
実施計画に見直しが無い限り無期限と考えられます。社内規約に明記して閲覧可能とするなど、継続的に周知を図りましょう。
肝炎ウイルス検査の結果が漏えいした場合、どのような責任を問われますか?
肝炎ウイルス検査の結果は、いわゆる機微情報であって、特段の合理的理由や必要性がなく、本人の同意もないのに、検査結果を漏洩させた場合には、民事上の不法行為責任を問われ、慰謝料等の損害賠償を請求されることがあります。
下級審の裁判例ですが、採用選考に当たって本人に無断でB型肝炎ウイルスの検査や精密検査を受けさせたのは、本人のプライバシー権を侵害する不法行為に当たるとして、損害賠償請求が認容された事例があります(東京地方裁判所平成15年6月20日判決)。
 検査についても、その結果の利用についても、予め趣旨・目的を説明し、十分理解してもらった上で、本人の同意を得て実施すべきであり、説明や同意については記録化しておくとよいと思います。
採用前に肝炎ウイルス検査の結果提出を求めることはできますか?
基本的には検査結果を求めるべきではありません。なぜならば、採用選考時に、肝炎ウィルス検査を含む採用に必要ない健康情報を取得することは、結果として就職差別につながるおそれがあるからです。
雇い入れ時の健康診断を雇い入れ前に実施しています。雇い入れ時の健康診断項目に肝炎ウィルス検査を追加する場合には、雇い入れ前に結果の取得をすることになってしまいますが、問題ないですか?
雇い入れ時健診は採用後に実施されるものです。採用前とは状況が異なりますので、肝炎ウィルス検査の実施は可能ですが、その場合でも個人の同意を得て実施する必要があります。
若い人や、輸血や手術を受けたことのない人でも検査を受ける必要がありますか?
肝炎ウイルスの感染者数は、若い年代ほど少なくなっている傾向はありますが、それでも多数の無自覚な感染者がいることも事実です。一生に一度だけの検査で十分なので、どなたでも検査を受けられることをお勧めします。
会社が検査結果を管理する場合、精密検査の結果も本人から聞いてもよいですか?
本人からの同意があれば可能ですが、使用者と社員という関係の中で、社員の任意性を保つことは難しいと思われますので、慎重な対応が望まれます。常勤の医療職がいる場合は医療職による情報収集が望ましいでしょう。そのような医療職がいない場合、本人の自発的な申出がない限り、精密検査の詳細な結果を聞き出すことは避け、就業上の配慮の要否について尋ねるにとどめましょう。
身の回りに肝炎ウィルス検査が陽性の人がいました。感染を防ぐにはどのようなことに注意すれば良いですか?
日常行為、例えば会話や握手、会食、血液や体液がついていない場所(椅子、床、ドアノブ、便座等)を介して肝炎ウィルスが伝播することはありません。
 医療や保育、高齢者施設の現場では、患者や園児への感染が懸念される場合がありますが、血液や体液に接触する機会をできるだけ減らすといった、標準的な感染予防対策(血液や体液が付着した器具を十分に洗浄、消毒すること、タオルや歯ブラシ等を共有しないこと等)での対応が行われています。
 詳しくは、国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 肝炎情報センターのホームページをご参照ください。
http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/050/yobou.html
検査結果が陽性だった場合に、配置転換が必要な職種はありますか?
病状にもよりますが、肝炎ウイルスに感染しているだけで安全・健康配慮の観点から配置転換が必要となるケースは、ほぼありません。
 通院時間の確保や病状が進んできた場合には身体負荷の軽減などの就業配慮が必要となることがありますが、個別の判断が必要となりますので、産業医や主治医に指示を仰ぐべきです。
検査結果が陽性だった場合に、どのような医療機関の受診したらよいか?
肝臓専門医や、地域の肝疾患診療拠点病院への受診が望まれます。
日本肝臓学会専門医一覧  ・全国の肝疾患診療拠点病院