臨床面では、食道癌、胃癌、大腸癌、悪性リンパ腫をはじめとした腫瘍性疾患から消化性潰瘍、胃食道逆流症、潰瘍性大腸炎、クローン病など様々な炎症性疾患の診療を行っています。また器質的疾患のみならず機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群などの機能的疾患も多いのが消化管疾患の特徴です。
特に重点をおいているのは、@ 炎症性腸疾患の診療、A 早期消化管癌に対する内視鏡治療(ESD: endoscopic submucosal dissection)、B 進行癌に対する化学療法です。
まず、炎症性腸疾患に対する診断・治療です。潰瘍性大腸炎やクローン病はもともと欧米に非常に多い疾患ですが、生活スタイルの変化、診断技術の向上もあり、我が国でも非常に増えてきている指定難病です。学生や働き盛りの比較的若い世代にも多い疾患であり、本疾患をコントロールすることは患者さんのために非常に重要です。炎症性腸疾患の治療法はこの10年ほどで飛躍的に進歩しており、これからも新規薬剤の登場が期待されています。しかし、今のところ、これらのどの薬剤が個々の患者さんに効くのかを前もって知る術はなく、薬剤が増えるに従い、より専門的な知識が必要になります。当科では、従来の治療薬である5-アミノサリチル酸製剤、ステロイド、栄養療法や血球成分除去療法などをベースとして適切に使用しながら、抗TNFα抗体薬や抗IL12/23抗体薬、抗インテグリン抗体薬などの生物学的製剤、免疫抑制剤であるタクロリムスやアザチオプリン、JAK阻害薬など、個々の症例に応じて行い最適の治療を行うことを目指しています。医師ひとりで治療を決めるのではなく、グループ内で毎週カンファレンスを行い、患者さんの生活状況や仕事内容を考慮し、最も負担が少なく効果的であろうと思われる治療方法を患者さんとともに考えていくという原則のもと診療を行っています。また、働き盛りの世代の患者さんが多いため、産業医科大学の特色を生かして両立支援科と協力し、仕事と治療の両立支援に力を入れています。
次に、治療内視鏡についてです。わが国において、早期消化管癌に対する内視鏡切除は根治治療として広く普及しています。NBI(narrow band imaging)内視鏡や超音波内視鏡などにより内視鏡治療の適応があるか否かを厳密に評価した上で内視鏡治療(EMR, ESD)を行っています。特に、消化管癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術の症例数は年々増加しており、治療後再発症例や、潰瘍合併症例や大きな病変など、内視鏡治療困難例に対しても適応をしっかり見極めながら行っています。また、多数の内視鏡治療経験を基にして、安全で確実な治療を行うための内視鏡治療デバイスの開発にも取り組んでおり、当科で独自に開発し、全国の病院で使用されるようになった製品もあります。
消化器領域の進行癌に対する癌化学療法を受ける患者さんも年々増加しています。従来の殺細胞性抗がん剤をはじめとして、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬、がんゲノム医療など、癌化学療法も目覚ましく進歩していますので、常に新しい知識、情報を取り入れ、患者さん一人ひとりの治療法をカンファレンスで検討しています。適切な薬剤を適切なタイミングで使用していくことはもちろんのこと、患者さんが治療を継続できるように副作用対策、管理をしっかり行うことが大切だと考えながら、日々診療しています。また、癌治療の進歩に寄与できるよう、当院第1外科と連携して様々な臨床試験にも参加するように心がけています。
また、当院は二次救急を担当しており、消化管出血症例に対して内視鏡的止血術や静脈瘤治療など多くの緊急内視鏡検査を行っています。 |