基礎研究

大腸癌研究(MCT4/mtTFA)

大腸癌グループでは、今日まで一貫して癌の浸潤・転移機構の解明、およびそれらの制御方法の開発に関する基礎研究に取り組んできました。癌細胞の浸潤能の評価法としてのin vitro invasion assayの開発、動物実験用MRIを使用したラット大腸癌肝転移モデルにおける肝転移巣の経時的評価法の検討、新規合成レチノイドのひとつであるTAC-101の作用メカニズムの解析などを行ってきました。TAC-101については、血管新生抑制作用、アポトーシス誘導作用、転移・浸潤抑制効果、大腸発癌抑制作用、分化誘導作用などについて詳細に研究し、これらの研究成果の大部分は欧文原著論文として発表してきました。また、最近ではTAC-101や白血病に臨床応用されている他のレチノイドのAm80 (Tamibarotene)、ATRA (All trans retinoic acid)を大腸癌細胞に対して使用したときの遺伝子変化をマイクロアレイで解析し、どのようか遺伝子、どのようなパスウエイが、それぞれの薬剤で変化したかを確かめました (Figure 1)。今後、変化して遺伝子を解析し、TAC-101の作用メカニズムの解析を進めていきたいと思います。

また、臨床研究に関しては、@大腸癌における尿中ジアセチルスペルミンの腫瘍マーカーとしての意義、A消化器癌における予後予測因子の検索について研究を進めております。それぞれの研究成果ついては学会発表、論文発表を行っています。具体的には以下の通りです。

@ 大腸癌患者における尿中ジアセチルスペルミンの腫瘍マーカーとしての意義

尿中ジアセチルスペルミンは健常者の尿中にごくわずかしか存在しないが、大腸癌の患者さんの尿中では上昇していることが確かめられています。大腸癌の患者さんの尿中ジアセチルスペルミンを測定し、既存の腫瘍マーカーである血清CEA、CA19-9と比較検討したところ、既存の腫瘍マーカーより優れている可能性が示され、臨床応用に向けて研究しています。

A消化器癌における予後予測因子の検索

大腸癌における予後因子を検索し、確立することができれば、手術で切除した標本を免疫染色することで患者さんの予後を予測することを可能になり、手術後の治療法を選択する上で大きな助けとなります。そこで我々は、今までにいくつかの予後因子を検索し、実際に予後因子になる物を確立してきました。例えば、癌組織における糖転移酵素GalNAc-T3の発現、IL-12 産生細胞の発現密度、微小リンパ管密度、mtTFAやMCT4、MCT1、CD147の発現などです。今後も、意義のある予後因子を検索していきたいと思います。

大腸癌におけるmitochondrial transcription factor A (mtTFA) 発現の意義

研究概要:mitochondrial DNA (mtDNA)はミトコンドリアのマトリクスに存在し、発癌やapoptosisへの関与が報告されています。一方、mitochondrial transcription factor A (mtTFA)は、mtDNAの転写因子であります。我々は、大腸癌組織におけるmtTFA高発現 (Figure 2.)と臨床病理学的因子、予後を比較検討しました。結果として、mtTFA発現がリンパ節転移、遠隔転移、stageに対して有意な相関を示すことを見出し、単変量解析では腫瘍径、壁深達度、リンパ節転移、遠隔転移、stage、組織型、リンパ管侵襲、静脈侵襲、mtTFA発現が有意な予後因子であることを示しました。以上の結果から、mtTFA発現は大腸癌の転移や進展に関与にしている可能性が示唆され、更に、単変量解析ではmtTFA高発現群で有意に予後が悪いことから、mtTFAが癌治療の分子標的になる可能性が示唆されました。今後、mtTFA発現の作用メカニズムを行っていく予定です。

大腸癌におけるMonocarboxylate transporter (MCT) 4発現の意義

研究概要:Monocarboxylate transporters (MCTs)は細胞内に蓄積した酸を細胞外に排出するポンプ機能を示し、細胞内のpHを維持するために作用しています。我々は大腸癌組織におけるMCT4高発現 (Figure 3.)と臨床病理学的因子、予後を比較検討しました。結果として、MCT4発現が腫瘍径、壁深達度、遠隔転移、stageに対して有意な相関を示すことを見出し、単変量解析では腫瘍径、壁深達度、リンパ節転移、遠隔転移、stage、組織型、リンパ管侵襲、静脈侵襲、MCT4発現が有意な予後因子であることを示しました。以上の結果から、より進行した大腸癌では低酸素状態が惹起され、MCT4が誘導されている可能性が考えられ、MCT4発現は大腸癌の転移や進展に関与にしている可能性が示唆されました。更に、単変量解析ではMCT4高発現群で有意に予後が悪いことから、MCT4が癌治療の分子標的になる可能性が示唆されました。今後、MCT4発現の作用メカニズムを行っていく予定です。

文責:第1外科学教室 更新日:2016年05月18日