循環器疾患の基礎知識

  1. 心不全
  2. 弁膜症
  3. 肺血栓塞栓症
  4. 冠危険因子
  5. 虚血性心疾患
  6. 冠動脈インターベンション治療
  7. 不整脈
  8. 失神

心不全

心不全とは?

心臓は、体の中心にあって肺と全身に血液を送り出すポンプです。心不全とは、このポンプ機能がこわれかけた-こわれた病態を表す言葉です。徐々に心不全の症状が出現する場合や普段は心不全の症状が出てこない方でも、風邪、過労、薬の飲み忘れなどの引き金があると心不全の症状が表に出てくる場合もあります。例えば、軽い弁膜症のある方が、風邪をひいて熱や脱水のために心不全を起こすことになります。予後は5年生存率が50%とも言われ、これからの高齢化社会では重要な病気の一つになってきています。

主な症状は、ポンプの汲み上げが出来ないために、上流の肺にうっ血が生じるために起こる呼吸困難(息切れ)です。臥床すると肺うっ血がさらに強まり症状が悪化するため、起き上がらないといけない起座(きざ)呼吸という症状も特徴的です。その他、動悸、足のむくみ(浮腫、ふしゅ)、疲労感などがあります。治療は安静臥床(やや上体をおこした)、酸素吸入を行いながら、薬の使っています。薬には、心臓の収縮力を高めるための強心薬、尿を出す利尿薬、心臓への負担を軽くするための血管拡張薬などの薬物療法が中心に行われます。重症の心不全の場合には入院での治療となります。薬物のみではうまく治療できない場合には、人工呼吸器や補助循環、腎臓透析といった機器による救命が行われます。

弁膜症

弁膜症とは?

心臓の4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)のそれぞれの出口には、血液の逆流を防ぐために4つの弁があります。弁膜症とはこれらの弁が単独もしくは、複数の機能障害が起きる病気です。弁膜症には2種類あり、弁の開放が悪くなり、血液の先へ進む流れが障害されている状態が狭窄(きょうさく)症です。また、弁の閉鎖の状態が悪くなり、血液が後戻りしている状態が閉鎖不全症(逆流症)です。たとえは、僧帽弁には、僧帽弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症があります。原因は先天性と後天性に大きく2つに分けられ、後天性の原因としてはリウマチ熱の後遺症であるリウマチ性弁膜症と年齢による退行性変化(動脈硬化性変化)によるが非リウマチ性弁膜症があります。

主な症状は、ポンプの汲み上げが出来ないために、上流の肺にうっ血が生じるために起こる呼吸困難(息切れ)です。臥床すると肺うっ血がさらに強まり症状が悪化するため、起き上がらないといけない起座(きざ)呼吸という症状も特徴的です。その他、動悸、足のむくみ(浮腫、ふしゅ)、疲労感などがあります。治療は安静臥床(やや上体をおこした)、酸素吸入を行いながら、薬の使っています。薬には、心臓の収縮力を高めるための強心薬、尿を出す利尿薬、心臓への負担を軽くするための血管拡張薬などの薬物療法が中心に行われます。重症の心不全の場合には入院での治療となります。薬物のみではうまく治療できない場合には、人工呼吸器や補助循環、腎臓透析といった機器による救命が行われます。

肺血栓塞栓症

肺血栓塞栓症とは?

肺に血液を送り込む肺動脈に血の固まり(血栓)が詰まる病気が、肺血栓塞栓症です。肺動脈自体で、血栓が出来る場合は、肺血栓症と言いますし、静脈系、とくに足の静脈に血栓ができ、それが遊離して肺動脈で詰まってしまうのを肺塞栓症といいます(エコノミークラス症候群)。両者の区別が難しいことや合併することがあることなどから肺血栓塞栓症と言われます。原因としては、血液の凝固線溶系異常、膠原病などの病気、婦人科の術後、骨折など整形外科の病気、長期の臥床(がしょう)・坐位(ざい)、肥満などがあります。主な症状は突然発症する呼吸困難、胸痛、動悸などです。主要肺動脈に大きな血栓がつまった場合にはショック状態になり、突然死を引き起こすこともあります。
治療は血栓溶解薬を経静脈的に全身投与される場合と、肺動脈にまでカテーテルを挿入し選択的に投与する方法とがあります。また、下肢に血栓が残存し、再発する可能性の高い場合には下大静脈フィルターを挿入し、血栓が肺動脈に流れ込むのを予防します。慢性期に外科的に血栓内膜除去術を行うことがあります。また、薬物治療として抗凝固薬の内服治療により再発を防ぎます。

冠危険因子

冠危険因子とは?

心臓の動脈である冠動脈に動脈硬化を起こす原因になる病気や習慣を冠危険因子と言います。これには、高コレステロール血症、高血圧症、糖尿病、喫煙それと最近よく言われるようになったメタボリック症候群(メタボ)などがあります。現在、日本には、3,300万人の高血圧症、2,000万人の高脂血症、690万人の糖尿病の患者さんがいると言われています。また、メタボの人も40歳以上の男性の20-25%が当てはまるという調査結果があります。冠危険因子自体では、症状の無いことが多いです。しかし、ほうっておくと動脈硬化は確実に進んでゆき、そして、ある日突然に、狭心症・心筋梗塞、脳卒中という生命を脅かす疾患の症状が出現します。ちなみに、狭心症・心筋梗塞を起こす確率は、危険因子を全く持っていない人に比較して、一つの人は5倍、二つの人は10倍、三つ以上の人は30倍になってしまいます。治療法は、食事療法と運動療法、行動療法(食生活のくせを見つけたりやる気を続ける)、薬物療法などがあります。生活習慣の改善が治療の基本になります。いくら薬を使っても生活習慣の改善がなければ治療効果はあがりません。もう一つ大切なことは、生活習慣病は、自分で治しながら良くなっていくことを数値で実感出来る病気ということです。

動脈硬化の危険因子とその治療目安(※1)

危険因子 治療目安
高脂血症 LDL(悪玉)コレステロール140mg/dl未満、中性脂肪150mg/dl未満
糖尿病 空腹時血糖値110mg/dl未満
高血圧 血圧130/86mmg/dl未満
高尿酸血症 尿酸値7mg/dl未満
肥 満 BMI(※2)23未満
喫 煙 禁煙

※1 大体の目安ですので患者さん個々の治療目標は主治医に尋ねてください。
※2 BMIは体重(Kg)を身長(m)で2回割った数値です。

虚血性心疾患

虚血性心疾患とは?

心臓の筋肉を酸素を供給している冠動脈の閉塞や狭窄などにより心筋への血流が阻害され、心臓に障害が起こる疾患の総称であり、狭心症や心筋梗塞が含まれます。狭心症は、冠動脈の異常による一過性の心筋の虚血のために胸痛・胸部圧迫感などの症状を起こし、完全に冠動脈が閉塞、または著しい狭窄が起こり、心筋が壊死してしまった場合は心筋梗塞といいます。狭心症は胸が締め付けられるような痛みや圧迫感が主症状です。痛みは前胸部が最も多いが他の部位にも生じる事があります。発作の持続時間は数分から30分以内で、典型的な発作はニトログリセリン錠の舌下にて消失するが、30分以上持続する時は心筋梗塞になった可能性が高くなります。治療はアスピリンなどの抗血小板剤の投与が検討されるが、糖尿病、高血圧や喫煙などの危険因子を十分にコントロールすることが重要です。薬物治療の効果が十分でない狭心症は冠動脈インターベンション治療や冠動脈バイパス治療の適応になります。

冠動脈インターベンション治療

冠動脈インターベンション治療(PCI: Percutaneous Coronary Intervention)とは?

カテーテルを用いて行う治療を総称して呼ばれています。PCIには狭窄した病変部にガイドワイヤーと呼ばれる細い針金を通過させ、そのワイヤーに沿ってバルーンカテーテル(風船)を病変部まで届けて、風船を膨らませて病変を拡げる治療(POBA:plain old balloon atherectomy)、拡張した部分にステントと呼ばれる金属の内張りを留置する治療、があります。PCIの最大の欠点は再狭窄であったが、薬剤溶出性ステントの導入により再狭窄率も10%未満に低下しています。
血栓で冠動脈が閉塞した心筋梗塞ではまず、細いカテーテルを用いて冠動脈内の血栓を吸引し、その後にバルーンやステントによる治療を行います。

不整脈

不整脈とは?

健康な心臓は1分間に70回程度のポンプ活動を規則的に繰り返していますが、心臓が規則正しく収縮と拡張を繰り返すのは、心臓に刺激伝導系という構造が備わっているからです。心房には洞結節と呼ばれる発電所の働きをする細胞があり、規則正しい電気的な興奮が洞結節で発生します。
その興奮は心房全体に伝わり心房を収縮させるとともに、心房と心室の間の房室結節と呼ばれる中継所を経由して心室へと伝わっていきます。この刺激伝導系というシステムに異常が生じると不整脈が発生します。不整脈には大きく分けると脈拍数が速くなる頻脈性のものと、逆に遅くなる徐脈性のものがあります。

1) 徐脈性不整脈
徐脈の原因となる主な疾患 ①洞不全症候群 :洞結節が信号を十分に発生しなくなる病気。
②房室ブロック :房室結節で電気信号の遅れが見られたり、心室に全く届かなったりする病気。
2) 頻脈性不整脈
頻脈の原因となる主な疾患 ①発作性上室性頻拍 :突然脈拍が速くなり、しばらく続いたあとに突然止まる頻拍です。
②心室頻拍 :心臓の興奮が、心臓の下部(心室)から発生することがあり、心室頻拍と呼ばれる不整脈が生じます。気が遠くなったり、失神したり、一時的に目の前が暗くなったり、めまいを起こしたりします。心臓が停止することもありとても危険な不整脈です。
③心室細動 :心室細動は、心室のさまざまな場所から興奮が発生することで生じます。心室は収縮するのではなく痙攣を起こした状態で、あっという間に意識を喪失し、脳や身体の細胞は正常に機能しなくなり、死に至ることもあります。

不整脈の代表的治療

薬物治療 治療の中心は抗不整脈による薬物療法です。抗不整脈薬にはさまざまな種類がありますが副作用などの問題もあって、必ずしも抗不整脈薬による治療が有効でない場合もあります。
ペースメーカー治療

脈の遅い不整脈(洞不全症候群、房室ブロック、徐脈性心房細動)に対して行われる治療です。

植え込み型除細動器(ICD)治療 心室頻拍や心室細動のように突然死を起こす可能性のある致死的不整脈を認める場合に行われる治療です。
カテーテルアブレーション

脈の速い不整脈に対し、心臓の内部へカテーテルを挿入し、頻拍の原因となっている電気的な異常興奮発生部位・異常興奮旋回路または異常興奮伝導路を高周波を用いて選択的に焼灼し頻脈性不整脈を根治する治療法です。

心臓再同期療法 心臓に何らかの障害が起こり、心臓の中で電気信号の伝わる順序にずれが起きてしまうことがあります。そのような場合、心室の動きも電気信号の伝わりかたに合わせるようにいびつな動きをします(心室同期障害)。このようなとき、人工的に電気信号を出して規則正しいリズムを作る器械(ペースメーカ)で、心臓に伝わる電気信号の順序を整え(再同期)、ポンプ機能を助ける治療をすることがあります。それが心臓再同期療法です。心臓再同期療法は薬物療法を補うために行われるものですが、心臓再同期療法を受けた場合、症状が改善し、生活の質が向上する場合があります。

失神

失神とは?

失神とは脳の血流低下により一過性に突然意識を失うことです。失神発作で来院する患者さまは非常に多く、救急外来受診者の3%を占めると言われています。失神発作により外傷をきたしたり、あるいは突然死をきたす場合もあるため、失神の原因を正確に同定し、速やかに治療を行なう事が最も重要です。

主な失神の原因
1.血管迷走神経反射性失神 最も頻度が高く、健康人・若年者にも起こります。痛みや精神的ショックなどが誘引となり、交感神経の活動が亢進するため、脈が速くなる一方、下肢の静脈に血液が貯留します。このため心臓に戻る血液量が減少し、心臓の収縮力が過収縮になることによって、逆に副交感神経が優位となり、血管拡張・徐脈となり、脳血流が低下、失神が起こります。
2.心臓性失神 心拍出量の減少により脳血流が減って起こす失神です。原因は心臓自身にあり、代表的な疾患には、洞不全症候群・房室ブロック・上室性頻拍・心室頻拍・心停止・大動脈弁狭窄・肥大型心筋症・急性心筋梗塞などがあります。
3.起立性低血圧 薬剤やニューロパチーなどによる自律神経異常があることが多いですが、基礎疾患として糖尿病やパーキンソン病などがあることもあります。
4.脳血管系異常による失神 椎骨脳底動脈という脳底や小脳を支配する血管の循環不全や、脳底動脈型片頭痛でも失神が起こることがあります。
[文責:第2内科学講座 穴井 玲央 更新日:2021年3月19日]