患者の皆様へ

肝胆膵グループ

産業医科大学 消化器・内分泌外科
肝胆膵グループ
肝胆膵グループの紹介

肝胆膵グループでは肝臓、胆道(胆管、胆嚢)、膵臓の病気(良性、悪性)の診断・治療を行っております。対象となる主な疾患は以下のとおりです。

肝胆膵グループの特徴

当科の肝胆膵グループの特徴を3つ挙げます。
1.胆石症などの胆嚢の良性疾患に対しては、ほぼ全例、単孔式(一つの穴による)腹腔鏡下胆嚢摘出術を行っております。
2.総胆管結石症や巨大肝嚢胞(のうほう)に対しても、可能な限り単孔式腹腔鏡下手術を行っております。
3.再発や転移することが多い膵癌や肝臓癌に対しては、手術をすすめるだけでは無く、患者さんの体力や生活なども十分に考慮し、患者さんにあった最良の治療法を選択して頂けるよう話し合いを大切にしています。

手術実績

平成27年度(1月〜12月まで)の肝胆膵手術総数は134例で、このうち鏡視下(腹腔鏡)手術が96例(72%)でした。膵頭十二指腸切除(亜全胃温存膵頭十二指腸切除術、SSPPD)が14例、尾側膵切除が6例、肝切除が13例、肝嚢胞開窓術3例、肝外傷止血1例、開腹胆摘(拡大胆嚢摘出術を含む)7例、腹腔鏡下胆嚢摘出術83例、脾臓摘出3例、その他(肝外胆管切除、胆道・消化管ダブルバイパス術など)4例でした。

単孔式腹腔鏡手術(傷が1か所の腹腔鏡手術)

通常の腹腔鏡下胆嚢摘出術では、お腹の4か所に穴を開けます。しかし最近では、穴を1つしか開けない「単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術」を行う医療機関が増えてきました。

当科では、早くから胆石症などの良性疾患に対して単孔式腹腔鏡下胆嚢析出術を導入し、現在までに400例以上行っております。単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の最大の利点は、傷が目立たなく、美容的に優れていることです。おへその1か所の切開創(きず)は、数ヶ月もするとほとんど目立たなくなります。実際の手術後の写真が以下の画像です。

これまで、単孔式手術は一つの穴からするためとても難しく、合併症が増えるのではないかと心配する声がありました。しかし、当科で行った360例の単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の合併症について平均1年以上追跡調査した結果、通常の腹腔鏡下手術と合併症のリスクに差がないことが分かりました(Sato N, Shibao Kら、Surg Endosc 2015; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25052126)。したがって、当科では単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術を安全で美容的に優れた術式として患者さんにおすすめしています。

手術が難しいとされる急性胆嚢炎に対しても、まずは単孔式手術にてアプローチし、必要に応じて傷を追加する方針としておりますが、多くの症例で1つの傷(単孔)または2つ(1つ5mm程度の傷の追加)で安全に手術ができました(Sato Nら、Int J Surg 2015; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25813307)。

また、巨大肝嚢胞に対する腹腔鏡下開窓術も単孔式で行っており、良好な治療成績を得ています(田村ら、日本肝胆膵外科学会・学術集会プログラム・抄録集 26回 Page 686 (2014.06))。

安全性・合併症対策

このように当科の肝胆膵グループでは、単孔式手術などの低侵襲(からだにやさしい)手術を積極的に導入する一方で、その適応に関しては慎重に検討し、無理をして安全性が損なわれることが無いよう心がけております。

また、肝胆膵の手術では合併症を減らすことが重要な課題ですが、当グループでは、手術法の工夫や新しい手術道具(血管や組織を凝固して切る器械や自動縫合器、短時間で縫合可能な糸)の導入など、合併症を減らすさまざまな対策を立てています。例えば、膵頭部の切除では、術後に膵臓と腸をつないだ部位から膵液がもれる、膵液瘻(すいえきろう)という合併症が一定の頻度でおこりますが、吻合術(実際につなぐ方法)や術後管理の改善により、膵液瘻の発生率を17%(2014年3月以前)から5%程度(2014年4月からのおよそ20例)まで減らすことができました。

治療成績

最後に手術成績についてお話しします。ご存じの通り予後が大変悪い膵癌について、当科で2005年以降に切除術を行った98例の生存率を以下に示します。

1年生存率が78%、3年生存率が41%、そして根治(癌が完全に治ること)の目安となる5年生存率が30%でした。全国平均と比較しても遜色ない治療成績であると思います。

次に、ステージ別の生存率を示します。

当然のことですが、早いステージの方が、予後がいい(生存率が高い)ことが分かります。すなわち、早期に発見することができれば膵癌も手術で治る可能性があるということです。したがって、膵癌になりやすい因子(リスクファクター)に注意し、該当する方は専門機関の受診をおすすめします。

膵癌のリスクファクター(膵癌診療ガイドラインより)
家族歴 膵癌
膵癌
合併疾患 糖尿病
慢性膵炎
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
膵?胞
肥満
嗜好 喫煙
大量飲酒

一方で、たとえ切除ができても多くの患者さんは再発や転移によって命を落とすことが分かります。我々は、この術後の再発・転移をできるだけ減らすために、積極的に術後補助化学療法を行っております。最近、ティーエスワン(S-1)という飲み薬が、術後の再発を有意に防ぐことが分かり、現在では膵癌切除術後の標準治療となっています。また、比較的進行した膵癌の患者さんに対しては、手術の前に化学療法を行って腫瘍の縮小やステージを下げたりする試みも行っております。この術前化学療法については、現在、全国の多くの施設で臨床試験(膵癌術前化学療法としてのゲムシタビン+S-1療法(GS療法)の第II/III相臨床試験:Prep02/JSAP-05)が行われており、当院もこの試験に参加しております(登録完了)。

膵癌、胆道癌、肝癌の治療方針について分からないことがございましたら、お気軽にお尋ねください。

文責 佐藤 典宏(2016年1月14日)

文責:第1外科学教室 更新日:2016年05月18日