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当科独自の研究

当科では、免疫・リウマチ学、骨代謝学、内分泌・代謝学の分野において、ヒト疾患の病態解明と新規治療への応用を目指して基礎研究、臨床の現場で生じる疑問や課題の克服を目指した臨床研究を通じて、ベッドサイドとベンチの双方向のトランスレーションを軸に研究を展開している。基礎研究では、患者さんの検体を用いた研究など臨床講座の特性を活かした研究を心がけている。臨床研究では田中良哉教授が班長を務める厚生労働省科学研究や国内外の施設との共同研究などグローバルなエビデンスの創出の一端を担う研究に参画している。その成果として、当科の研究発表が多くの学会で継続的に受賞するなど国内外で高い評価を得ている。以下、当研究室の概要を紹介する。

研究内容:当科の研究は、自己免疫疾患、骨粗鬆症、糖尿病などを対象としている。近年、分子標的薬剤の登場により治療成績は向上しているものの、治療抵抗性、副作用など未だ解決すべき問題も多く、既存治療のベストユース、病態に特異的な新規治療法の開発などの課題も浮き彫りとなった。当研究室ではリンパ球などを介した自己免疫異常の発症機序と制御法、間葉系幹細胞を用いた再生医療への応用、新規薬剤の作用機序と臨床的アウトカムの評価研究など、現在と未来を見据えた研究を行っている。特質すべきは8カラーフローサイトメトリー (FACS Verse®)・セルソーター (FACS Aria II)による網羅的な細胞機能の解析、flux analyzerを用いた免疫細胞代謝制御機構の解析、DNAメチル化・ヒストン修飾などのエピジェネティクス解析、爪郭部ビデオ毛細血管顕微鏡 (NVC: Nailfold video capillaroscopy)による解析など、最先端の機器を用いて形態的および機能的なアプローチを駆使しながら、難病克服への糸口、未来の医療へつながる研究を目指している。

教育体制:海外 (中国、韓国、カザフスタン、ベトナムなど)からの留学生を含む大学院生、派遣研究員、研究指導者も年々増加し活気のあふれた研究室となっている。研究経験の豊富な指導者 (スーパーバイザー)が各々の大学院生を担当し、研究における思考過程、具体的手法などを個別に指導している。研究室カンファレンスは、国際学会などのコミュニケーション能力を身につけるため、英語での討論としている。同時に、英語かつ分かりやすいプレゼンテーション能力を養うことにも配慮している。隔週で実施される抄読会では、最新の論文を英語で発表・討論している。医学博士取得後は、海外に留学することも積極的にすすめており、最近では、米国国立衛生研究所 (NIH)、エアランゲン・ニュルンベルク大学 (FAU)、テンプル大学 (TU)などの研究室に留学生を輩出している。研究へのモチベーションは各人さまざまであり、その目的や適性に応じて最適な研究環境を提供できるように、大学の講座として努力している。

以下に各研究分野における令和2年度の成果と進行状況を紹介する。

自己免疫疾患病態におけるシグナル伝達-免疫細胞代謝を介したリンパ球分化機構の解明

関節リウマチ (RA)においては、この20年間に生物学的製剤、JAK阻害剤などの新規低分子化合物の登場によりパラダイムシフトが齎され、予後が劇的に改善した。一方、全身性エリテマトーデス (SLE)においては、本邦でも2015年にハイドロキシクロロキン (HCG)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、2017年に生物学的製剤である抗BAFF抗体ベリムマブなどが次々に承認されるなど治療選択肢は増えたものの、依然ステロイド、免疫抑制剤の治療が主体である。

SLEにおいてB細胞は病態形成に重要な役割を担うとされる。我々は、B細胞を標的としたキメラ型抗CD20抗体Rituximabの作用機序やその有効性、安全性を検討してきた。RituximabによるB細胞除去療法は一定の有効性を示す一方、治療抵抗性、副作用などの問題も明らかとなった。即ち、SLEにおいてB細胞が病態形成に重要であることが改めて明らかとなる一方で、B細胞のみを標的とした治療の限界も浮き彫りとなった。そこで、B細胞を中心に他の免疫担当細胞に対しても効果を発揮する選択的治療標的薬の可能性を検討した。in vitro研究において、B細胞受容体やサイトカインシグナルの下流に位置する重要なチロシンキナーゼ (Syk, Btk, JAK)がB細胞分化において重要な役割を果たすことを明らかにした。実際にJAK阻害剤のSLEに対する臨床試験では有効性が示されるが、その効果は限定的であり、斬新かつ全く異なる作用機序を有する薬剤探求が必須である。 

近年”免疫代謝 “Immunometabolism”という概念が注目されている。免疫細胞の分化には、代謝変容による膨大なATPなどのエネルギー産生や生体構成成分の生合成が必要となる。細胞内代謝経路には主に、@解糖系、Aペントースリン酸回路、B酸化的リン酸化、C脂肪酸酸化、D脂肪酸合成、Eアミノ酸代謝 (グルタミノリシス)の6つの経路が存在するが、これらの動態が様々に変化することで細胞の活性化や分化偏向に密接に関与することが明らかとなりつつある。しかし、ヒトの免疫細胞における代謝変容、特に自己免疫疾患病態との関連については依然不詳である。そこで現在、ヘルパーT細胞、ヒトB細胞、の分化機構について免疫細胞代謝の観点から検討を進めている。筆者らはマウスのTh1細胞において、2型IFN (IFNγ)-T-betシグナルを介した免疫代謝亢進が、活性化に重要であることを明らかにした (Iwata S. et al. Immunity. 2017;46:983-991.)。実際にSLE患者検体で検討を進めた結果、Th1細胞のeffector細胞 (T-bet+Foxp3-)/regulatory細胞(T-bet+Foxp3+)のサブセットバランス異常やIFN-γ過剰産生に、mTOR活性化や、好気性解糖、脂質合成亢進等の代謝異常が存在し、治療抵抗性など病態に深く関与することを明らかにした (文献1.)。一方、B細胞においては、重要な代謝因子mTORの活性化が、形質芽細胞の分化誘導を介してSLE病態に関与することを報告したが (Torigoe M, et al. J Immunol. 2017; 199:425-34.)、その詳細なメカニズムは不詳であった。そこで中国からの留学生張明増先生は、必須アミノ酸であるメチオニンが、B細胞受容体下流のチロシンキナーゼSykやmTORなどのシグナル伝達を誘導し、EZH2発現によるエピゲノム修飾を介して形質芽細胞への分化を誘導し、B細胞依存性のSLE病態に深く関与することを明らかにした (文献2.)。またRA患者B細胞におけるmTORの重要性と病態への関与についても検討した。その結果、RA患者CXCR3+ memory B細胞におけるmTOR 活性化はIL-6産生やRANKL発現を介して疾患活動性に深く関与することが明らかとなった (文献3.)。  

大学院生4年目の轟泰幸先生は、近年ループス腎炎や自己抗体産生に深く関与するとされるT-bet+CD11c+ B細胞の分化誘導機構を免疫代謝の観点から検討を進めている。また宮田寛子先生、上野匡庸先生、永安敦先生、神田龍一郎先生らは、免疫細胞代謝を含めた幅広い観点から、B細胞の分化機構の解明、SLEをはじめとした自己免疫病態への関与、治療応用への可能性を探求している。

このようにB細胞を中心とした免疫細胞の分化制御機構を明らかにすることで、自己免疫疾患の病態解明、さらには新たな治療薬の探求を進め、将来的にはSLEをはじめとした自己免疫疾患に対するブレークスルーとなる薬剤の開発に繋げていきたいと考えている。

  1. Iwata S, Zhang M, Hao H, Trimova G, Hajime M, Miyazaki Y, Ohkubo N, Satoh Kanda Y, Todoroki Y, Miyata H, Ueno M, Nagayasu A, Nakayamada S, Sakata K and Tanaka Y. Enhanced fatty acid synthesis leads to subset imbalance and IFN-γ overproduction in T helper 1 cells. Front Immunol. 2020; 11: 593103.
  2. Zhang M, Iwata S, Hajime M, Ohkubo N, Todoroki Y, Miyata H, Ueno M, Hao H, Zhang T, Fan J, Nakayamada S, Yamagata K, Tanaka Y. Methionine commits cells to differentiate into plasmablasts through epigenetic regulation of BTB and CNC homolog 2 by the methyltransferase enhancer of zeste homolog 2. Arthritis Rheumatol. 2020 Jan 21. doi: 10.1002/art.41208. [Epub ahead of print]
  3. Iwata S, Zhang M, Hajime M, Ohkubo N, Sonomoto K, Torimoto K, Kitanaga Y, Trimova G, Todoroki Y, Miyata H, Ueno M, Nagayasu A, Kanda R, Nakano K, Nakayamada S, Sakata K, Tanaka Y. Pathological role of activated mTOR in CXCR3+ memory B cells of rheumatoid arthritis. Rheumatology (Oxford). in press.

ヘルパーT細胞による自己免疫疾患の病態形成とその制御に関する研究

リンパ球が統率する免疫系は、病原体に対する生体防御に不可欠なシステムである。しかし、関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患では、遺伝要因と環境要因が交錯しエピジェネティクスを介した自己反応性リンパ球の過剰な活性化と免疫寛容の破綻によって病態が形成される。我々は、自己免疫疾患におけるリンパ球異常のメカニズムを解析し、免疫学的寛解を可能とする治療への応用を目指して研究を行っている。

ヘルパーT細胞は、周囲の環境に応じてその形質を多様に変化させて多様な病原体への免疫応答を担う。このようなT細胞の可塑性・多様性は生体防御のみならず病態形成と密接に関連する。なかでも、T follicular helper(Tfh)細胞は可塑性に富み多様なB細胞の分化・活性化を誘導するサブセットであり自己免疫疾患の発症と遷延化に関与する。我々は、SLE患者末梢血ではTfh細胞とTh1細胞の両者の形質をもつTfh/Th1様(Tfh1)細胞の活性化が特異的に亢進しており、IL-12を介したSTAT1とSTAT4の活性化がヒストン蛋白修飾によるエピゲノム制御によりTfh1細胞を誘導することを報告してきた(文献 1)。さらに、Tfh1細胞が産生するIL-21、IFN-γ(2型IFN)に加えてIFN-α(1型IFN)は、IgD-CD27-CXCR5-CXCR3+Bcl-6loT-bethiのエフェクタ―メモリーB細胞を誘導し、これらのB細胞はループス腎炎の病変組織へ浸潤することを報告した。大学院4年目のHao He先生は、SLE患者末梢血において疾患活動性と相関しながらTfh細胞の増加、Tfr細胞の減少が同時に検出され、これらがSLE患者におけるIL-2の欠損に依存することを見出した。IL-2は活性化したTfr細胞を増殖させるとともに、STAT3とSTAT5のリン酸化を誘導し、両者がFoxp3とBcl-6の遺伝子座に直接結合することでヒストン修飾を介して、Tfh細胞からTfr細胞への分化転換を誘導すること報告した(論文2)。大学院生の李昇R先生は、IL-23を介したSTAT3の活性化とヒストン修飾の変化によりSLEにおける病的Th17細胞が誘導されることを見出し、これらがJAK阻害薬バリシチニブの標的であることを報告した(論文3)。以上の結果は、SLEの病態のheterogeneityを示すとともに、Tfh1細胞、T-bethi B細胞、Th17細胞、Tfr細胞などがSLEの有力な治療標的であることを示唆した。現在、大学院生3年目の神田友梨恵先生、2年目の単宇先生は、Tfh細胞の可塑性・多様性を形成する機序、特に、Tfh1細胞、末梢性ヘルパーT(Tph)細胞との間の可塑性や多様性の機序について解析中である。大学院生1年目の藤田悠哉先生は、組織滞在性のtissue resident memory T(Trm)細胞の分化機序、SLE病態との関連について研究を開始した。

当講座では臨床講座の特性を活かすべく基礎と臨床の双方向のトランスレーション研究に取り組んでいる。NIH/FOCISのプロトコールに当科オリジナルのTfh細胞の染色セットを加えた8カラーフローサイトメトリーによる患者末梢血免疫フェノタイピング解析(FLOW registry)を実施し、病態形成や治療標的あるいは治療抵抗性に関わる細胞群を検討してきた。これまで、RA、SLE、全身性強皮症、IgG4関連疾患、乾癬性関節炎などの免疫フェノタイプを明らかにし、上記のin vitro研究により、T細胞、B細胞、樹状細胞などの病態関与と治療標的としての妥当性の検証、さらに、新たな病原性細胞と治療標的分子を提唱してきた。助教の宮ア 佑介先生はANCA関連血管炎におけるB細胞分化異常とその臨床的意義を解析し、B細胞分化異常を持つ症例に対するリツキシマブの有効性を示した(論文4)。

自己免疫疾患の治療は、ステロイド薬などの非特異的な免疫抑制療法が中心であった。免疫系は感染防御/抗腫瘍作用などの生命現象に不可欠であるため、免疫系を広範に抑制すると感染症や悪性腫瘍などの危険をもたらす。我々は、自己免疫疾患の制御には免疫の抑制ではなく正常な免疫への修復が重要と考えている。これまでの解析から、SLEやRAでは可塑性をもった分化転換が容易なリンパ球が存在し病原性を発揮することを明らかにしてきた。このことは、リンパ球の分化の方向を修正することで正常なサブセットヘ戻すことが可能であることを示唆している。すなわち、この制御機構を明らかにすることで病原性ヘルパー細胞を正常なヘルパーT細胞へ人為的に分化転換させるといった“可塑性を逆手に取った”新たな治療戦略の創出につながる。リンパ球の形質転換にはゲノムとエピゲノムが重要であることから、今後、病原性リンパ球への分化偏向をゲノミクス機序から解析を行い、“免疫学的寛解”を目指した新規治療の提唱を目標に研究を継続したいと考えている。

  1. Ma X, Nakayamada S. Multi-source pathways of T follicular helper cell differentiation. Front Immunol. 2021; 12: 621105.
  2. Hao H, Nakayamada S, Yamagata K, Ohkubo N, Iwata S, Inoue Y, Zhang M, Zhang T, Satoh Kanda Y, Shan Y, Otsuka T, Tanaka Y. Conversion of T Follicular Helper Cells to T Follicular Regulatory Cells by Interleukin-2 Through Transcriptional Regulation in Systemic Lupus Erythematosus. Arthritis Rheumatol. 2021; 73:132-142. 9.586
  3. Lee S, Nakayamada S, Kubo S, Yamagata K, Yoshinari H, Tanaka Y. Interleukin-23 drives expansion of Thelper 17 cells through epigenetic regulation by signal transducer and activators of transcription 3 in lupus patients. Rheumatology (Oxford). 2020; 59: 3058-3069. 5.606
  4. Miyazaki Y, Nakayamada S, Kubo S, Ishikawa Y, Yoshikawa M, Sakata K, Iwata S, Miyagawa I, Nakano K, Tanaka Y. Favorable efficacy of rituximab in ANCA-associated vasculitis patients with excessive B cell differentiation. Arthritis Res Ther. 2020; 22: 141.

ヒト間葉系幹細胞を基軸にした骨・軟骨・筋肉の各系譜細胞への分化誘導に関する研究
(総括:山形 薫)

1)滑膜炎と骨軟骨の破壊を主病変とする関節リウマチ(RA)、2)脆弱な筋肉と肥満が合併したサルコペニア肥満等に代表される疾病は筋骨格系疾患と総称され、罹患した患者は、世界全体で延べ17億7800万人以上に上る(Vos T et al. Lancet 2012)。本疾患において日常活動等が制限されるだけでなく、離職、再雇用の断念等に起因する労働生産性の低下および経済的損失を齎す。医療費は循環器疾患、がんの次に高く、2兆円を上回り(厚生労働省. 国民医療費の概況 2016)、家計を圧迫している。従って復職、就労人口の確保など産業医学分野のみならず、経済上の観点からも本疾病の骨・軟骨・筋肉等に対する治療法開発は喫緊の課題である。当科ではその目的を達成するために、関節を構成する細胞への分化能を有するヒト間葉系幹細胞(MSCs)に着目し、骨芽細胞(Sonomoto K et al. Arthritis Rheum. 2012)、軟骨細胞(Kondo M et al. Arthritis Rheumatol. 2015; Yamagata K et al. Clin Exp Rheumatol. 2020)等への分化メカニズムの解明および一部前臨床試験を行ってきた。現在MSCsを基軸して更なる研究を展開している(図1)。また研究を遂行する過程で異なる細胞種において新たなエビデンスを得たので、MSCsに関する研究の進捗・成果と併せて本稿に報告する。

正常な骨芽細胞への分化促進因子を見出すために、Anh先生は大規模in silico解析を行った。そして骨芽細胞特異的にスーパーエンハンサー(SE; クラスターを形成し広範囲に及ぶエンハンサー領域)により制御される新規非コード遺伝子miR-3129を見出した。Controlに比してmiR-3129を導入したヒト骨髄由来MSCsは骨芽細胞誘導培地(OIM)による培養のもと、石灰化を促進することに加え、ALP陽性を示し骨芽細胞へ効率的に分化した。miR-3129がSLC7A11 遺伝子(グルタミン酸とシスチンのアンチポートを担う輸送体をコードし、骨芽細胞分化を負に制御する)を標的にしてMSCs骨芽細胞分化を促進させることを明らかにした(未発表データ)。RA患者においてMSCs骨芽細胞分化能の低下について報告されている。そこでRA患者のMSCs細胞に対してmiRNA-3129を導入することで骨形成に特化した治療応用へ展開したい。一方、MSCsから骨系譜細胞である骨細胞への分化誘導に関して依然として報告されていない。骨細胞は骨芽細胞が産生する骨基質に埋没し単離培養が難しいため、本来の機能および病的な役割について不明な点が多い。上村先生はハイドロキシゼラチンゲルスポンジを骨基質に見立てMSCsをスポンジ表面に張り付け試験管内で培養することに成功した。MSCsをOIM培地のもと活性型ビタミンA(ATRA)にて刺激すると骨細胞のマーカーであるMepeおよびSclerostinが経時的に発現上昇することを見出した(未発表データ)。今後多角的な検討により分化した細胞が骨細胞であることを明らかにしたい。

MSCsは高いレベルでOsteoprotegerinを産生し、破骨細胞分化を抑制する(Oshita K et al. Arthritis Rheum. 2011)。成澤先生は破骨細胞の新たな病的サブセットとしてヒト未熟樹状細胞を前駆体とする破骨細胞(DC-OC)を見出した(図2)。DC-OCは免疫染色法によりRA患者の炎症性滑膜に局在した。また古典的な破骨細胞より高い骨吸収能を備えていたので、DC-OCは高回転型骨代謝を担う可能性が示唆された(文献1)。時期を同じくして、関節炎に関連したマクロファージ(AtoM)が、炎症性滑膜に浸潤し新たな病的サブセット破骨細胞(AtoM-OC)に分化することが報告された。大阪大学に国内留学した肥川先生はDC-OCとAtoM-OCの表面マーカーおよび機能的役割の違いについて検討を行っている。

RA患者の線維芽細胞様滑膜細胞から産生されるMMP-3は関節液に高濃度で局在し、関節軟骨の破壊を担う。張童先生はMSCs軟骨細胞分化過程において、免疫抑制因子IL-27とIL-35の構成因子であるEpstein-Barr virus induced gene 3 (EBI3)が小胞体に局在することに着目した。内在性のEBI3をノックダウンすると、サフラニンO(S-O)が低染色になりMSCs軟骨細胞分化が抑制されることを見出した。一方、IL-1bによる刺激およびEBI3プラスミド導入によりEBI3が高発現すると、いずれの場合も過剰な小胞体ストレス応答によりMSCs軟骨細胞分化が抑制されることを見出した。またRA患者の骨髄MSCs由来FLSsにおいて、小胞体ストレスマーカーIRE1aとEBI3はいずれも強陽性を示した。軟骨組織にもMSCsが局在することを踏まえると、RA患者において軟骨細胞分化が抑制されている可能性、およびMSCs細胞内のEBI3がRA疾患の治療標的となる可能性が示唆された。

MSCsが産生するTGF-bによりCD4陽性T細胞の増殖が抑制される。山形先生は各種自己免疫疾患におけるSEの役割に着目した (文献2)。まず、大規模in silico解析を行いCD4陽性T細胞で高発現し、特異的にSEによる制御を受け、RA感受性SNPを有するubash3a遺伝子を抽出した。健常人に比してRA患者のCD4陽性T細胞においてSE構造を有するubash3a遺伝子座で転写共役因子MED1のリクルートが抑制され、BACH2転写因子がリクルートされubash3a発現が低下した。併せてubash3a発現を制御するeRNAも見出した。UBASH3A発現低下によりT細胞受容体シグナルが増強し、IL-6の発現が誘導された(図2)。RA病態形成の一端を担う成果であると考えられた (論文投稿準備中)。次にGWAS解析によりRA感受性があり、CD19陽性B細胞においてSE制御を受け、かつ高発現を示す遺伝子として免疫抑制因子をコードするp2y10遺伝子を抽出した(図2)。健常人に比してRA患者のPBMCにおいてp2y10 mRNA発現は有意に減少した。p2y10発現におけるRA感受性SNP(rs6619397 T/A)の関わりについて解明することが今後の課題である。

大塚先生は脂肪組織由来MSCs(ADSCs)をDNAメチル化酵素の阻害剤5-azaCで刺激したが、21日間培養しても筋芽細胞に分化するADSCは限定的であった。そこで一連の炎症性サイトカインのうちIL-6をsIL-6Rと共に刺激するとわずか14日で筋系譜細胞のマーカーであるMHCが陽性となり、ほぼ全てのADSCが筋芽細胞に効率的に分化することを見出し、筋肉再生の基盤を築いた(未発表データ)。一方Mai先生は脂肪細胞から筋肉への分化転換について全く異なる視点から検討しており、増加した脂肪を減らし、減少した筋肉を取り戻す画期的アプローチに従事している。

MSCsには炎症抑制および免疫抑制を担う各作用があり、自己免疫疾患の予防、治療の観点から興味深い(Zhang X et al. PLoS One. 2014)。さらに、骨髄から容易に採取可能であり、他の細胞種と異なり免疫原性が低く細胞治療に応用できるメリットがある。従って、筋骨格疾患で損傷した組織を再生するために、MSCsから分化させることは適切かつ有望な戦略である。そのために各細胞への分化機構および刺激因子(トリガー)を見出すことは肝要である。我々はin vitro研究の肝となる病態に関連する遺伝子を抽出するために、複数のデータベースを用いた遺伝子のスクリーニングシステムをdry研究の柱として、wet研究へ展開するための武器として独自の戦略を採用している(図3)。in vitro研究における各細胞分化で効果的かつ機能的な役割を示した場合のみ、以下の解析に進む。当科のアドバンテージを生かし、健常人と患者さんの血清を用いてサイトカイン量等の比較、および抽出因子との関連、そして患部の病理組織標本を用いて免疫染色を行い抽出因子を検出し、病態との関わりを明らかにする。以上より治療標的の有効性について評価する。

    文献(2020年度)
  1. Narisawa M, Kubo S, Okada Y, Yamagata K, Nakayamada S, Sakata K, Yamaoka K, Tanaka Y. Human dendritic cell-derived osteoclasts with high bone resorption capacity and T cell stimulation ability. Bone. 2021;142:115616.
  2. Yamagata K, Nakayamada S, Tanaka Y. Critical Roles of Super-enhancers in the Pathogenesis of Autoimmune Diseases. Inflamm Regen. 2020:40:16.

筋骨格疾患においてCD8陽性Tリンパ球は善か悪か?

2003年に本邦に導入された分子標的抗リウマチ薬は関節リウマチ(RA)治療を一変させたが、4つの異なる作用機序、合計15剤が利用可能となった2021年においても10-15%が治療に抵抗性を示す。2019年に至ってこの集団に対して新たにD2TRA(difficult to treat RA)の呼称が提唱されたことは、RA治療がいまだ発展途上であることの証左であるが、新規作用機序の薬剤開発は滞っている。そこで、我々は新たな方面へ展開するため、CD8+Tリンパ球に着目した。CD8+Tリンパ球は従来、細胞障害性T細胞とも呼ばれ、ウイルス等の感染細胞、がん細胞を破壊する細胞と位置付けられ、関節リウマチ研究においては日陰の道を歩んできた。近年の研究によりCD8+T細胞には多数の亜集団が存在し、様々な異なる機能を有する可能性が示唆された。既知の細胞障害性T細胞のみならず、Granzyme KやIFN-γ、IL-4、IL-17等のサイトカイン産生を産生し、近隣細胞の機能修飾を行いうる細胞集団や、また、抗炎症作用を有する制御性CD8+T細胞も存在することが明らかとなった。RA関節滑膜では多数のCD8+Tリンパ球が集積することが報告されているが、関節局所におけるこれらの役割は全く不明である。細胞障害性を発揮し、RA増悪にかかわる破骨細胞や線維芽細胞様滑膜細胞(FLS)を排除するのか、それともサイトカイン産生によってこれら細胞を誘導するのか?今年度から新たにたちあげた本プロジェクトでは、CD8+Tリンパ球とRAの関節破壊の中心を担う破骨細胞、FLSとのクロストーク解明の観点から、RA新規治療の基盤形成を目的とする。

炎症性骨関節疾患、免疫誘導性線維化における新規ヘルパーT細胞サブセット
〜Th22細胞の機能的役割の解明に関する研究〜

新たな免疫抑制薬や分子標的薬の台頭により自己免疫疾患の治療成績は向上したが、関節リウマチ(RA)や血清反応陰性脊椎関節炎(SpA)の中には未だ治療抵抗性の症例が存在しており、また、特に自己免疫疾患における組織線維化、例えば強皮症(SSc)における皮膚硬化や間質性肺炎は未だ制御困難な病態である。ヘルパーT細胞を起点とした免疫応答はRAやSpAにおいては破骨細胞を介した骨破壊や、乾癬・付着部位炎の形成に関わり、強皮症では、間葉系細胞の活性化や線維化を誘導して難治性病態に中心的に関与する。その中でTh17細胞がRA、SpA、SScの病態形成に関わっているとされているが、それぞれの疾患において、IL-17阻害療法は効果が限定的であったり、抵抗性の症例が存在する。そこで我々は、Th17細胞と類似する性質(共に@CCR4、CCR6を持つ、AIL-6で分化誘導される)を持つTh22細胞に着目し研究を行っている。

RAにおいて、Th17細胞は滑膜組織に浸潤し、IL-17の産生により滑膜線維芽細胞を介して間接的に破骨細胞分化を促進させ、その病態形成に関わるとされている。我々は、関節リウマチの病態に深く関わる炎症性サイトカインである、TNF-α、IL-6、IL-1βによって、CD4陽性T細胞からIL-22を選択的に産生するTh22細胞 (CD3+CD4+CCR4+CCR6+CCR10+、CD3+CD4+IL-22+IFN-γ-IL-17-)に分化することを明らかにした。そして、Th22細胞は、RAの滑膜炎組織に多数浸潤しており、Th17細胞と異なり、IL-22産生を介して直接的に単球から破骨細胞分化を促進させることがわかった1)。以上より、今までTh17細胞によるものとされていた病態の一部が、Th22細胞が関与していた可能性を示唆した。

SScにおいても、Th17細胞が病態形成の一部を担っているとされているが、未だ治療応用には至っていない。SSc患者において、@血清中のIL-22が健常人と比べて上昇しいること、ATh22細胞の分化誘導に必要なIL-6がSSc患者の血清中において健常人と比べて増加しており、抗IL-6受容体抗体はSScの肺病変に一定の効果があること、以上から大学院生の大久保先生は、SScにおけるTh22細胞の機能的役割の解明について現在研究を行っている。強皮症の末梢血中や肺線維化組織においてTh22細胞が多数存在、浸潤していること、IL-22の産生を介して組織線維化に関わるM2マクロファージの分化を促進することを明らかにしており、Th22細胞がSScの病態形成に関わる可能性を示唆している。また、Th22細胞の分化が既存のJAK阻害薬で抑制されることも示しており、未だ治療抵抗性の患者が存在する強皮症において、新たな治療選択肢を構築できる可能性がある(論文準備中)。

SpAの代表的疾患である乾癬性関節炎において、IL-22は病態に関わっているとされており、また、IL-22は骨芽細胞の分化誘導にも関わる。以上から、骨破壊、骨強直・骨増生を来すSpAにおいてもTh22細胞が病態に関与している可能性がある。

今まで、我々はIL-22を選択的に産生するTh22細胞の分化誘導・機能について明らかにしており、未だ治療抵抗性の患者が存在するRA、SSc、SpAにおいて、Th22細胞が新たな治療標的となる可能性を考え、研究を継続していきたいと考えている。

  1. Miyazaki Y, Nakayamada S, Kubo S, Nakano K, Iwata S, Miyagawa I, Ma X, Trimova G, Sakata K, Tanaka Y. Th22 Cells Promote Osteoclast Differentiation via Production of IL-22 in Rheumatoid Arthritis. Front Immunol. 2018 Dec 10; 9: 2901.

慢性炎症による組織のエピゲノム変化とその制御に関する研究

2GWASなどに代表されるゲノム医学の進歩により、疾患の遺伝的理解も進歩してきたが、同時に遺伝要因以外の外的・内的な環境因子が多くの疾患の発症や重症度に強く関与することも明らかとなった。そのため、DNA塩基配列によらずに遺伝子発現を制御し、細胞の発生や分化、老化等に大きな役割を担うエピジェネティクスの研究が急速に進歩している。

我々が日常臨床で取り組む慢性炎症性疾患においては、炎症の持続が、周辺の細胞・組織に『炎症記憶』として変性・変質を定着させ、機能異常を不可逆なものとするプロセスが想定され、慢性炎症による組織のエピゲノム変化を明らかにすることは、さらなる病態の理解につながる。

血管石灰化の中でも、糖尿病患者や透析患者、関節リウマチ患者などでよく認められる中膜の石灰化(メンケベルグ型)は、心血管疾患、脳卒中などの発症リスクであり、生命予後の悪化につながる。当科でもこれまでにビスホスフォネート製剤であるダイドロネート投与による血管石灰化の抑制、最終糖化産物による血管平滑筋細胞の石灰化メカニズムなどを検討してきた。このメンケベルグ型血管石灰化においては、血管平滑筋細胞が骨芽細胞様の形質を獲得するという分化系統の移行が重要である、この詳細なメカニズムは不明であった。この分化の移行においても、慢性炎症とエピゲノム変異が関与するであろうという仮説のもとに、黒住先生が研究を進め、各炎症性サイトカインの中でIL-6が最も強力に血管平滑筋細胞の石灰化を誘導すること、IL-6依存性の石灰化誘導にはSTAT3のリン酸化に続いて、ヒストン脱メチル化酵素JMJD2BによるH3K9me3の脱メチル化が骨芽細胞分化のマスター転写因子であるRUNX2の発現を促進し、血管石灰化につながることを発見し報告した(下図)。(Kurozumi A, et al. Bone 2019. in press)

一方、DNAのメチル化はエピジェネティクスの代表的な機構の一つであり、RAにおいても特に滑膜線維芽細胞(FLS)においてDNAメチル化異常が存在することが多数報告され、我々はゲノム網羅的DNAメチル化解析により、RA患者由来滑膜線維芽細胞(FLS)には疾患に特有なDNAメチル化パターンが存在し、異常メチル化を示した遺伝子の多くがRAの病態に深く関わることを示してきた(Nakano K, et al. Ann Rheum Dis 2013)。

RAにおいて、生物学的製剤による炎症性サイトカインを標的とした治療は、寛解導入を身近なものにしたが、RA治療にはいわゆる「Window of Opportunity」が存在し、治療開始の遅れは治療効果を限定的なものとする。このことは、炎症環境の持続自体が、滑膜炎症部位に存在する細胞をより攻撃的でかつ治療抵抗性な表現型に変質させている可能性を示唆するが、この詳細なメカニズムは不詳であった。我々は、RAにおける滑膜炎症・骨関節破壊の中心的役割を担うTNFやIL-1が、FLSにおいてDNAメチル化酵素(DNMT)の発現を低下させ、受動的脱メチル化を促進することを示し、疾患特有のDNAメチル化パターン形成の分子機構の一端を明らかにした(Nakano K, et al. J Immunol 2013)。

近年、DNA 脱メチル化酵素として機能するTet (Ten-Eleven translocation) タンパク質ファミリーが同定され、Tetタンパク質がメチル化シトシン(5mC)を水酸化して5-ヒドロキメチルシトシン (5hmC)を合成することが知られるようになった。

我々は、DNA脱メチル化に働くDNA dioxigenase family membersのひとつであるTet3によるエピゲノム修飾のRAの炎症の遷延化における役割を研究している。この研究では、RA患者の炎症滑膜でTet3と5-hydroxymethylcytosine (5hmC)の有意な発現を検出し、さらにTet3はRA患者から得られた培養FLSにおいて、TNFのような炎症性サイトカインによって誘導されることを発見した。Tet3は、培養FLSにおいて、パンヌス中の炎症細胞の蓄積に関与するCXCL8、CCL2などのTNF誘導性の遺伝子・タンパク発現、TNF誘導性のcell migrationに必須であった。血清誘発性関節炎マウスモデルでは、Tet3のハプロ不全によりパンヌス形成と破骨細胞を介した関節破壊が抑止されたが、初期段階では関節炎スコアの上昇が見られた。これらの結果は、RAの病態形成におけるTet3の知られていない新たな役割を示した。Tet3は、RA病態形成においてepigenetic gate-keeper for the point-of-no-returnとして、炎症の遷延化の鍵を握っている可能性が示唆され、さらに研究を進めている。

悪性腫瘍の領域ではすでにエピジェネティクス異常を捉えたバイオマーカーの利用、エピジェネティクス異常を是正する薬剤の開発が進んでいる。しかしながら、現時点でRAをはじめとする慢性炎症性疾患においての臨床応用は進んでいない。我々の基礎的検討を通して、より良いバイオマーカーを見出すと共に、安全性の高いエピゲノム創薬につなげたいと考えている。

図:IL-6シグナルによる血管平滑筋細胞の骨芽細胞様細胞へのtrans-differentiation

糖尿病・内分泌代謝領域

「糖代謝」、「内分泌代謝領域における自己免疫性疾患」をテーマとして研究を行っている。

糖尿病臨床研究

糖代謝領域においては、持続血糖モニタリング(CGM)や血管内皮機能検査機器(EndoPAT)を用い、多施設共同研究を含めた様々な臨床研究を行っている。2009年にCGMが承認されてから、延べ1500例以上のデータを蓄積しており、CGMを用いることで食後の血糖変動や日内変動、夜間の血糖動態や低血糖を捉えることが出来るようになった。最近ではCGMによる血糖管理目標としてTime in range (血糖70~180mg/dLが占める割合)>70%が設定されたが、TIR>70%達成者における低血糖や血糖変動に関連する因子は不明である。そこでTIR>70%を満たした症例のうち、SU薬の有無と低血糖・血糖変動の関連について検討した。SU使用群は非使用群と比較して、@血糖値の標準偏差(31.6 vs 27.2 mg/dL)、A夜間の変動係数(%CV) (11.2 vs 9.4 %)、B最大血糖値(223.8 vs 208.7 mg/dL)が有意に高値であった。多変量解析で%CVに影響を与える因子としてSU薬使用が抽出され、また高容量SU使用はTime below range(<54mg/dL)の延長に関与した。以上よりTime in range70%以上と良好な血糖コントロール指標基準を満たしていても、SU薬使用により血糖変動が増大し、特に高容量SU薬使用は重症低血糖が遷延する可能性が示唆された(文献1)。またFGMではAmbulatory Glucose Profile (AGP)レポートの使用が推奨されているが、CGM指標との関係は不詳である。そこでAGPにおけるinter-quartile range (IQR)とCGM指標との関連について外来治療中T2DM 30例、非糖尿病患者23例をレトロスペクティブに検討した。平均IQRはDM群で有意に高値であり、 DM群で平均IQRはTime in rangeと負相関、Time above range、平均血糖、SD、CV、MODDと正相関した。DM群でTIR>70%・90%達成群は、ROC解析によりAIQRカットオフ値はそれぞれ28.3 mg/dL、22.9 mg/dLであった。低血糖とAIQRに関連を認めなかった。以上より、本研究はAGPの評価方法の切り口となる可能性が示唆された(文献2)。

EndoPATを用いた研究として、我々は糖尿病教育入院にて血管内皮機能が改善するかを検討した。2型糖尿病患者65名をレトロスペクティブに検討したところ、血管内皮機能(L_RHI)は入院時0.577±0.215→退院前0.676±0.264と有意に改善することを明らかした。さらに退院時の血管内皮機能正常に寄与する因子は低血糖エピソード(Odds ratio 0.08)であり、低血糖が血管内皮機能障害の存在を示唆するといった結果が得られた(文献3)。またビタミンD値が低いと言われている2型糖尿病患者において、ビタミンD値とEndoPATで得られる血管内皮機能(RHI)が関連するかを検討した。当科で糖尿病コントロール不良で教育入院した2型糖尿病患者113名において、RHIは1.85±0.58、血管内皮機能障害を示唆するRHI<1.67は全体の50 %に認められた。また25(OH)D値は18.4±8.1 ng/mL、ビタミンD欠乏を示唆する25(OH)D<20 ng/mLは全体の66 %に認められた。さらに25(OH))DとRHIが正相関 (r=0.285, p=0.002, 右図)し、ROC曲線にてRHI<1.67を示唆する25(OH)D値は16.5 ng/mLであった(AUC0.668, p=0.002)。25OHD 16.5未満をビタミンD低値群とした場合、ビタミン低値群では有意にRHIが低く、血管内皮機能障害(RHI<1.67)の割合が有意に高かった。さらにRHI<1.67を示唆する因子に“25(OH)D<16.5”が独立した因子として抽出(Odds ratio 4.6)であることが判明した。以上より2型糖尿病患者のビタミンD充足状態とEndo-PATにおける血管内皮機能 (RHI)が関連することが示され、ビタミンD欠乏状態、特に25(OH)D<16.5 ng/mLでは血管内皮機能障害の存在が強く示唆され、ビタミンD値がコントロール不良2型糖尿病患者の血管内皮障害を予測するバイオマーカーとして有用となりうると考えられた(文献4)。

また当科では2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬が血糖動態に与える影響についてCGMを用いた2つの検討を行い既に論文発表している。さらに一部のSGLT2阻害薬は1型糖尿病患者にも適応となった。当科では1型糖尿病患者2例に対するSGLT2阻害薬の有用性をFGMで確認し(文献5)、さらに1型糖尿病患者10名に対しSGLT2阻害薬の有用性を検討した。結果として、SGLT2阻害薬投与7日間のFGMでは、明らかな低血糖を増やすことなく平均血糖値と血糖変動を改善しうることを示した(文献6)。

フローサイトメータを用いたバセドウ病の病態解明-リンパ球フェノタイプの解析-

自己免疫疾患においては、リンパ球の異常な活性化、免疫寛容の破綻によって病態が形成される。バセドウ病では、それがどのように病態に関与しているのか、未だ知られていない。そこで、バセドウ病の病態解明や治療応用を目指し、特にリンパ球をはじめとした免疫細胞における細胞表面マーカーに着目し、治療前後における変化について検討を行っている。未治療のバセドウ病患者を対象として、末梢血リンパ球フェノタイプの解析を行い、臨床所見や自己抗体との関係、難治性病態や眼症との関連について検討を行っている。

未治療バセドウ病患者116名での治療前の検討では、健常人コントロールに比べて、T細胞の分化異常(Effector T細胞、Effector Memory T細胞、Activated T細胞、Activated Th17細胞、Activated Tfh細胞がいずれも上昇)およびB細胞の分化異常(Effector B細胞、Plasmablastが上昇)を認めた。この中でActivated Th17細胞の上昇は甲状腺機能やTRAb、甲状腺腫大と相関し、Effector B細胞の上昇はTRAbと相関した。

抗甲状腺薬による治療24ヶ月後の変化に関しては、免疫フェノタイプの変化としてActivated Th17細胞、Activated Tfh細胞、Effector B細胞、Plasmablastはいずれも低下がみられ、0-24ヶ月のTRAb変化量、上甲状腺動脈流速変化量はEffector B細胞の変化量と正相関した。また治療24ヶ月後に薬剤フリーとならなかった非寛解群では寛解群に比べて、Effector B細胞が有意に多く、Activated Tfh細胞が多い傾向であった。

今回の検討において、バセドウ病ではリンパ球分化の調節異常を認めた。Effector B細胞の上昇と自己抗体の相関や、甲状腺腫大とTh17細胞の相関、免疫フェノタイプ治療後の変化は、一貫してリンパ球異常の病態への関与を示唆している。これらは、免疫調節不全の是正がバセドウ病の根治を目指した新たな治療標的である可能性を示唆している。

今後更に臨床経過をおって、バセドウ病難治性病態の原因を明らかにしていく。



  1. Uemura F, Okada Y, Torimoto K, Tanaka Y. Enlarged glycemic variability in sulfonylurea-treated well-controlled type 2 diabetics identified using continuous glucose monitoring. Sci Rep. 11:4875, 2021.
  2. Tokutsu A, Okada Y, Torimoto K, Tanaka Y. Relationship between interstitial glucose variability in ambulatory glucose profile and standardized continuous glucose monitoring metrics; a pilot study. Diabetol Metab Syndr. 12:70, 2020.
  3. Goshima Y, Okada Y, Torimoto K, Fujino Y, Tanaka Y. Changes in endothelial function during educational hospitalization and the contributor to improvement of endothelial function in type 2 diabetes mellitus. Sci Rep.10:15384, 2020.
  4. Tanaka K, Okada Y, Hajime M, Tanaka Y. Low Vitamin D Levels are Associated with Vascular Endothelial Dysfunction in Patients with Poorly Controlled Type 2 Diabetes: A Retrospective Study. J Atheroscler Thromb. doi: 10.5551/jat.59113, 2021. Online ahead of print.
  5. Habu M, Okada Y, Kurozumi A, Tanaka Y. Short-term Glucose Lowering Effects of Sodium-glucose Cotransporter 2 Inhibitors Confirmed by Flash Glucose Monitoring in Two Outpatients with Type 1 Diabetes. J UOEH. 42:359-364, 2020.
  6. Kurozumi A, Okada Y, Tanaka Y. Glucose-lowering effects of 7-day treatment with SGLT2 inhibitor confirmed by intermittently scanned continuous glucose monitoring in outpatients with type 1 diabetes. A pilot study. Endocr J. 68:361-369, 2021.
文責:第1内科学講座 花見 健太郎 更新日:2021年05月26日