循環器系-教室紹介-

診療

心エコーグループ

心エコー図検査(血管エコーを含む)を中心とした心血管疾患の診断、治療を行っています。これらを弁膜症や心筋症の重症度診断や心不全の診断・治療に役立てていますが、さらに詳細な評価を行うために、三次元経食道心エコー図検査を用いて立体的な評価を行っています。また運動負荷(エルゴメーター負荷)や薬物負荷心エコー図検査を積極的に行い、心筋虚血の診断や心予備能、運動耐容能や弁膜症の評価、心不全の治療効果の判定などに用いています。そして弁膜症の外科的治療の可否について心臓血管外科医へ円滑な橋渡し役を行い、心臓血管手術の際には術中経食道心エコー図検査にて外科医へのサポートを行っています。2019年の実績としては経胸壁心エコー7722例をはじめ、経食道心エコー322例、負荷心エコー31例、その他頚動脈・下肢動静脈エコー・腎動脈エコーも数多く行っております。また心不全治療としては、従来の薬物治療や補助循環併用に加えて運動療法を主体とした心臓リハビリテーションを行っています。
また、2019年2月には当院が「トランスサイレチン型心アミロイドーシスに適応を有するビンダケルRの導入施設」として、日本循環器学会より承認を受けました。北九州市では当院が唯一の認定施設であり、難治性疾患である心アミロイドーシスの病型診断、さらに病型によっては治療介入が可能となりました。心アミロイドーシスの診断において、心エコー図検査は大きな役割を果たしています。

冠動脈疾患・動脈硬化グループ

冠動脈疾患治療グループは血行動態の評価が必要な循環器疾患(冠動脈疾患、弁膜症、肺高血圧症、心不全等)の心臓カテーテル検査を担当すると共に、冠動脈疾患である狭心症や急性心筋梗塞に対する冠動脈インターベンション療(PCI)を行っています。冠動脈インターベンション治療のほとんどがステントの植え込みによる血行再建になっていますが、その成功率は99%前後で推移しています。問題であった再狭窄も薬剤溶出性ステントの導入により10%未満に低下しています。ステント留置時には、血管内超音波(IVUS)や光干渉断層法(OCT)、プレッシャーワイヤーを用いて、合併症の少ない、質の高い治療を行っております。急性冠症候群(ACS)である急性心筋梗塞や不安定狭心症は救急部とも協力して24時間症例を受け入れる態勢を整えています。さらに、二次性高血圧症の重要な原因のひとつである腎動脈狭窄症や閉塞性動脈硬化症といった末梢血管病変に対してもインターベンション治療(EVT)を積極的に行っております。

また、冠動脈疾患の危険因子である高脂血症(高コレステロール血症、高中性脂肪血症)、高血圧症、最近注目されていますメタボリック症候群などの治療にあたっています。生活習慣病の治療は、食事や運動、日常生活活動性などの習慣の是正と薬物療法の組み合わせで治療を行います。また、家族性高コレステロール血症や難治性高コレステロール血症については、PCSK9阻害剤による治療も積極的に取り入れています。

肺高血圧グループ:エコノミークラス症候群などの肺血栓塞栓症と原発性肺高血圧症、膠原病による肺高血圧症、先天性心疾患などの肺動脈性肺高血圧症を対象にしています。いずれも心・血管エコーや肺血流シンチ、心臓カテーテル法などによる診断と先進的な薬物療法を行って実績を上げてきています。また、慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplasty(BPA)についても対応可能となってきています。)

不整脈グループ

心電図異常の診断から種々の不整脈疾患(心房細動や上室性不整脈、洞不全症候群や房室ブロック等の徐脈性不整脈、心室頻拍・心室細動等の頻脈性不整脈)の診断と治療、更には失神発作や心臓突然死のリスク評価や心不全患者に対する非薬物治療まで含めた広範な分野を取り扱っています。得意とする分野は、徐脈性不整脈に対するペーシング治療、上室性および心室性頻脈性不整脈に対するカテーテル心筋焼灼術、致死性不整脈に対する植込み型除細動器(ICD)治療、難治性心不全患者に対する心室再同期治療(CRT-D)です。また、失神の原因精査・診断・治療では、国内では最も進んだ施設の一つです。さらに、ブルガダ症候群や早期再分極症侯群・特発性心室細動・不整脈源性右室心筋症などの重篤な不整脈を来しうる希少疾患の診断(遺伝子分析など)および治療も行っています。

1) ペースメーカ植込み手術:
本院におけるペースメーカ手術は年間100件程度施行しており、九州地区としては有数の手術症例数です。ほぼ全例で生理的ペーシングを行なっていますが、心機能改善効果が高い右室中隔や心房中隔ペーシングを全国に先駆けて行ない、内外から高い評価を得ています。ペースメーカ電池交換手術は、「日帰り外来手術」を行っており、合併症は殆どなく、その発生率は1%以下です。

2) 植込み型除細動器(ICD)手術:
心室頻拍や心室細動などの致死的心室性不整脈による心臓突然死予防目的で植込み手術を行っています。虚血性心筋症の血行再建術後など、経時的にリスク低下が期待できる症例では、着用型除細動器(WCD)で一定期間経過観察の後再評価を行い、ICD植込みの要否を検討することもあります。従来の経静脈型ICDに加えて、ペーシングの必要のない患者さんでは、より心臓への影響が少ない完全皮下植込み型除細動器(S-ICD)の植込みを行っています。手術件数は下記CRT-D手術と合わせ年間45例程度と九州地区大学病院では有数の手術成績です。

植込み型除細動器(ICD)手術

3) 除細動機能付き心室再同期治療(CRT-D)手術:
心室内伝導障害を有する心不全患者さんに対して、心不全治療ならびに心臓突然死予防目的として行っています。薬物治療抵抗性心不全患者において、本治療は心臓突然死の予防と心不全の改善効果を示すことが科学的に証明されています。本院では、最大限治療効果が発揮できるよう、心エコー専門医・心臓リハビリテーション科チームと連携して、治療の最適化を行なっています。

4) 「失神」の診断と治療:
失神発作で来院する患者様は非常に多く、失神発作により外傷をきたしたり、あるいは突然死をきたす場合もあるため、原因を正確に同定し、速やかに治療を行なう事が最も重要です。しかしながら、失神は一過性の症候で原因も多岐にわたるため、一般的な検査で確定診断に難渋し当科にご紹介頂く事も稀ではありません。特に突然死の原因となり得る心原性失神を見逃さない事が極めて重要ですが、当院では体外式ループ心電計や植込み型心電計(ICM)を積極的に用いて多くの患者で原因を確定・的確な治療を行い、顕著な成果を上げています。また、失神の原因の約半数は神経反射性失神ですが、この診断には傾斜台試験(ヘッドアップチルト試験)が非常に有用です。本院は、失神の診断と治療に関しては、全国でも有数の医療施設であり、失神を予防するためのトレーニング治療は本院で開発された新しい治療法です。失神の診断と治療に関する専門医のいる施設は全国的にみても非常に少ないのですが、本院は全国的にみても数少ない失神のスペシャリストのいる医療施設です。

「失神」の診断と治療

5) ペースメーカ・ICD専門外来:
当院で植込まれたペースメーカやICD、CRT-D患者様はもとより、他院で植込まれた患者さまに対しても、機器のチェックや電池寿命の測定、設定変更等を行なっています。また、インターネットを介した遠隔モニタリングを行っており、異常の早期発見・早期介入を行っています。当院のペースメーカ・ICD専門外来は、デバイス治療のトレーニングを受けた循環器専門医が対応しているため、単なる植込み機器の状態のみならず、社会生活や就労、日常生活上での不安や自動車運転から身体障害者認定、更生医療等に関しても専門的アドバイスができるので、積極的に活用して下さい。

6) 心臓電気生理検査/カテーテル心筋焼灼術:
カテーテル心筋焼灼術(アブレーション)とは不整脈の原因となる回路をカテーテルという細い管を使って焼灼する治療です。不整脈回路が一定であれば原因そのものを根本的に消滅させることで完全な治癒が得られる根治療法であり、当院では複雑な不整脈に対しても最新の三次元マッピングシステムや冷凍凝固(クライオ)バルーンなどを駆使して積極的に行っております。殆どすべての頻拍性不整脈(発作性上室性頻拍症(WPW症候群や房室結節回帰性頻拍など)・心房粗動・心房頻拍・薬剤抵抗性有症候性心房細動・心室頻拍)が適応になります。当院における疾患ごとの(手技成功率, 遠隔期再発率)はそれぞれ、発作性上室性頻拍症(97%, 3%)、心房粗動(100%, 6%)、心房頻拍(94%, 15%)、心房細動(98%, 17%)、心室頻拍(77%, 13%)です。年間約140症例に対して施行しています。

[文責:第2内科学講座 穴井 玲央 更新日:2022年11月1日]