健康経営のためのウイルス肝炎対策

このサイトは、厚生労働科学研究費補助金肝炎等克服政策研究事業「職域におけるウイルス性肝炎患者に対する望ましい配慮及び地域を包括した就労支援の在り方に関する研究」 (H26-肝政-一般-002)の成果として開設しました。

3.安全配慮義務と自己保健義務

働く人々の健康管理に関して、わが国において、会社は安全配慮義務を負い、労働者は自己保健義務を負っています。

労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と安全配慮義務を規定しています。この考え方は健康面にも適用されて「健康配慮義務」という言葉で呼ばれることがあります。就業する時間と場所、使用する設備(機械)、業務の内容などは会社による命令によって決められ、労働者がこれらを変更することはほぼ不可能です。そのため、労働者が働くことを通じて生命や健康の危機にさらされないように会社が職場や作業の安全衛生面について十分に配慮する義務があります。

安全配慮義務が果たされていたかどうかについては、事例ごとに判断されますが、次の3要件がそろっている事例では、通常、会社が安全配慮義務の履行を怠ったと判断されます。

@予見可能性の存在:その業務により事故や疾病が発生する可能性を予測できた。

A結果回避努力の不履行:危険が予見可能で、結果の回避も可能だったにもかかわらず、その努力を怠った。

B相当因果関係の存在:結果回避努力の不履行と事故・疾病の発生との間に社会通念上相当な因果関係が認められる。

本来、健康状態が関わる問題については、会社は医療の専門家ではないため予見能力が狭くなります。しかし、係争事案の判例をみると、幅広い予見可能性を求めているものもあります。その理由は、わが国には産業医の制度があり、産業医に意見を求めることによって予見が可能となり結果回避のための具体的な措置を講じることができると考えられるからです。産業医は、労働者ごとに病状を確認し、必要に応じて主治医と連携し、会社に対して就業上の措置に関する意見を述べ、会社は産業医の意見に基づいて就業上の措置を講じることにより、肝炎を持ちながら働く人に対する安全配慮義務を果たすことができるはずです。産業医を選任していない事業場では、産業保健総合支援センター地域窓口(地域産業保健センター)の登録医や本人の主治医に、職場や作業についての情報を提供した上で、就業上の措置を尋ねることが勧められています。

一方、法令には明文規定はされていないものの、労働者が自己保健義務(自身の健康を守るための努力)を果たさなければ、安全で健康に働くことができないことは明らかです。労働安全衛生法によれば、ウイルス性肝炎で治療を受けている人も、他の労働者と同様に定期健康診断を受診する義務があります。そして、その結果を受け取り、必要に応じて保健指導を受けます。また、当然、主治医からはアルコールの摂取制限や服薬等の指導を受けます。それらの内容については、本人が自ら実行することが期待されています。

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このサイトは、厚生労働科学研究費補助金肝炎等克服政策研究事業「職域におけるウイルス性肝炎患者に対する望ましい配慮及び地域を包括した就労支援の在り方に関する研究」 (H26-肝政-一般-002)の成果として開設しました。