健康経営のためのウイルス肝炎対策

このサイトは、厚生労働科学研究費補助金肝炎等克服政策研究事業「職域におけるウイルス性肝炎患者に対する望ましい配慮及び地域を包括した就労支援の在り方に関する研究」 (H26-肝政-一般-002)の成果として開設しました。

8.療養後の職場復帰

療養後には、職場への復帰をめざします。その際は、元々働いていた業務に戻ることが原則となります。もちろん、元の業務よりも治療上の支障になりにくいと医学的に判断できる業務があれば、そのような業務を与えることも構いません。

職場復帰を支援するためには、本来、休業を始めた時から主治医と産業医とが情報交換をするなど連携することが望ましいとされています。そのような仕組みについては、厚生労働省が精神疾患に関して「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(改訂版)」(平成24年7月6日付け基安労発0706第1号)を公表していますので、ウイルス性肝炎についてもこれを参考にすることができます。同手引きは、職場復帰支援プログラムを5つのステップに分け、主治医、産業医、会社の人事担当者などが協力して職場復帰支援プランを作成する手続きなどを詳細に説明しています(表)。

職場復帰の可否を判断したり支援したりする上では、職場上司や人事担当者が産業医や主治医といった医療職と相談する機会が増えますので、プライバシーの保護が極めて重要になります。本人の健康情報の取り扱いについては、職場復帰をめざす目的以外に使用しないことや本人の同意を得ずに他人に開示しないことに注意しましょう。

一般に、職場復帰を判定する手続きは、本人が申請することで手続きが始まり、産業医が主治医の診断書や意見を確認し、会社の人事担当者が産業医の意見を得て、必要に応じて元の職場で上司であった人の意見等も得た上で、進めることになります。主治医が職場復帰を可能と診断しただけでは職場復帰ができるとは限らず、一般には、病状とともに業務についても理解している産業医の判断が重視されています。

万一、会社として職場復帰を許可しなかったり労働契約を打ち切ったりする場合には、係争事案に発展して会社側が損害賠償を命じられた例がいくつもあります。それらの事例を参照すると、裁判においては、本人の治療上支障にならないと医学的に判断される業務を会社として十分に探索したかどうか、に関して詳しい検討が行われています。

表 職場復帰支援プログラムの5つのステップ
<第1ステップ>
病気休業開始及び休業中のケア
〜事業場による支援の重要性、安心感の醸成〜
ア 病気休業開始時の労働者からの診断書(病気休業診断書)の提出
イ 管理監督者及び産業保健スタッフ等によるケア
ウ 病気休業期間中の労働者の安心感の醸成のための対応
エ その他
【ポイント】
・診断書には、必要な療養期間の見込みを明記してもらう
・本人の同意を得て主治医へ情報提供をする
・不安や悩みなどを相談できる窓口の周知、主治医と相談した上で、休業中にも休業労働者に連絡をとる
・休業期間満了後の労働契約の扱いなどは、関係法令に留意の上、就業規則等に定めておく
・休業労働者が安心して治療に専念できるよう、休業制度(期間・手当等)について本人に説明する
・休業中の経済的・将来的な不安を軽減するためにも事業場の仕組みの説明、事業外資源の情報提供をする
<第2ステップ>
主治医による職場復帰可能の判断
〜主治医の判断、産業医等による精査と意見〜
ア 労働者からの職場復帰の意思表示と職場復帰可能の判断が記された診断書の提出
イ 産業医による精査
ウ 主治医への情報提供
【ポイント】
・職場復帰が可能であるとする診断書の提出を受け、産業医等による精査を踏まえ、働ける状態であることを確認する(産業医等の精査に当たっては、職場の実態について社内制度や業務内容などの情報提供を行い、生活リズム及び日常生活も含めた体力、業務と類似した行為の遂行状況、生活習慣等の実際面を確認する)
・主治医の判断は、その職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かの判断とは限らないことに留意する(主治医に対して、業務遂行能力の内容や社内勤務制度等に関する情報提供をする)
<第3ステップ>
職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
〜産業医の面談等、職場で働ける状態・環境の調整、プランの作成〜
★職場復帰基準は、完全復帰でない状態としての受け入れを前提とする★
ア 情報の収集と評価
(ア) 労働者の職場復帰に対する意思の確認
(イ) 産業医等による主治医からの意見収集
(ウ) 労働者の状態等の評価
(エ) 職場環境等の評価
(オ) その他
イ 職場復帰の可否についての判断
ウ 職場復帰支援プランの作成
(ア) 職場復帰日
(イ) 管理監督者による就業上の配慮
(ウ) 人事労務管理上の対応
(エ) 産業医等による医学的見地からみた意見
(オ) フォローアップ
(カ) その他
【ポイント】
・職場復帰にあたり、業務遂行能力の有無は産業医等の医学的な考え方を考慮して判断を行う
・具体的なプラン作成にあたっては産業保健スタッフ等を中心に、管理監督者、休業労働者と十分な話し合いをして、連携しながら進める
・試し出勤制度等(模擬出勤・通勤出勤・試し出勤)の導入する場合は、あらかじめ事業場でルール化して活用する
・労働者数50人未満の小規模事業場は事業場外資源(地域産業保健センター等)を活用する
・労働できる状態を評価表(表)等をもとに、個人に合った復帰プランを作成する
・職場復帰の準備に時間を要することが多いので、十分な準備期間を設けて計画的に実施する
・家族や第三者からの情報収集等を行うにあたっては、プライバシーに十分配慮する
・休業労働者に、適切な復帰プランに基づいた着実な実行が安定した職場復帰につながることを理解させる
・休業労働者本人の希望のみで復帰プランを決定せず、産業医等の意見を踏まえ決定する
表 労働者の状態等の評価(例)
労働者の状態等の評価(例)
<第4ステップ>
最終的な職場復帰の決定
〜産業医の意見書等に基づく、事業者による職場復帰の決定〜
ア 労働者の状態の最終確認
イ 就業上の配慮等に関する意見書の作成
ウ 事業者による最終的な職場復帰の決定
エ その他
【ポイント】
・産業医の意見書等に基づき、関係者間で内容を確認しつつ、職場復帰を決定する
・主治医へ就業上の配慮の内容について情報提供し、連携を図る
・処遇の変更が行われる場合は、あらかじめ就業規則に定める等ルール化しておく
<第5ステップ>
職場復帰後のフォローアップ
〜復帰後のフォローアップ体制を継続、関係者や主治医との連携〜
★再発防止のため慎重な対応とメンタルヘルス対策の重要性を自覚する★
ア 疾患の再発、新しい問題の発生等の有無の確認
イ 勤務状況及び業務遂行能力の評価
ウ 職場復帰支援プランの実施状況の確認
エ 治療状況の確認
オ 職場復帰支援プランの評価と見直し
カ 職場環境等の改善等
キ 職場の管理監督者、同僚等への配慮等
【ポイント】
・復帰プランの進行状況については、労働者本人のみならず管理監督者とも面談し、客観的な評価を行う
・管理監督者、産業保健スタッフ等の関係者が情報共有し、必要に応じて話し合う等の連携を図る
・職場環境等の改善を行うとともに、適宜、復帰支援プランの評価や見直しを行う
・管理監督者や同僚への過度の負担を回避するようにする
・家族からの相談対応も含め、情報提供しながら、関係者間で連携を図りながら支援を継続する
資料出所  
「職場復帰支援プログラムとは・・・」独立行政法人労働者健康福祉機構産業保健・賃金援護部産業保健課
https://www.johas.go.jp/Portals/0/pdf/johoteikyo/return_program.pdf
参考資料  
モデル職場復帰支援プログラム - 福岡産業保健総合支援センター
http://www.fukuokasanpo.jp/s_pro1-7.pdf
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(改訂版)
https://kokoro.mhlw.go.jp/brochure/worker/files/H25_Return.pdf
https://kokoro.mhlw.go.jp/return/return-employer/re001/
http://h-crisis.niph.go.jp/wp-content/uploads/2016/05/20160511102733_bunya_roudoukijun_anzeneisei12_pdf_120830-1.pdf

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