前立腺がん
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病気について
前立腺は男性の生殖器の一つで精液の一部を作る臓器で、膀胱の出口に存在します。前立腺がんは文字通り前立腺に発生するがんであり、男性では胃がん、大腸がん、肺がんなどと共に罹患率(病気になる人の割合)が高いがんで、前立がんの罹患率は50歳以上の方から増加しはじめ、高齢になるほど上昇します。
診断方法
PSA(前立腺特異抗原)の値、超音波検査、触診、MRI検査などを行い前立腺がんが疑われる場合は、前立腺の一部を針で採取し(前立腺生検)病理検査の結果、確定診断をおこないます。前立腺がんと診断された場合、前立腺がんの広がりを調べるためにCT検査や骨シンチなどの検査を行います。
当院ではMRI-超音波融合画像生検を北九州地域で最も早く導入し(2023年10月~)、従来の超音波ガイド下生検より高い癌検出システムを確立しています。現在、この新しい生検方法に適応のある患者さんは、分院である若松病院で行い、がんの治療は大学病院で行うという診療体制をとっています。
外科的手術
外科的治療
前立腺を精嚢とともに取り除く前立腺全摘除術を行います。当院ではそのほとんどが次項のロボット支援下手術(ダビンチ手術)にておこなっています。
鏡視下治療(ロボット支援下を含む)
当院では2017年1月に前立腺がんに対するロボット支援下手術を開始し、順調に経験を積み重ねています。ロボット支援下手術は鮮明かつ拡大された3D画像や、人の手以上に器用な動きが可能なロボットアームを用いることにより、従来の手術よりも精度が高く、安全な手術を可能としています。また創が小さく、開腹手術に比べ術後の痛みが少なく、回復が早いことも特徴です。
内視鏡的治療
該当なし
局所的治療(経皮的治療、カテーテル治療など)
該当なし
薬物療法
ホルモン療法
前立腺がんには、精巣や副腎から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)の刺激で病気が進行する性質があります。ホルモン療法は、アンドロゲンの分泌や働きを妨げる薬によって前立腺がんの勢いを抑える治療です。ホルモン療法は前立腺がんに対してとても有効な治療法ですが、この治療のみで完治することは困難でいずれは効果が弱くなってしまいます(この状態を去勢抵抗性前立腺がんといいます)。
抗がん剤
抗癌剤による治療は通常去勢抵抗性前立腺がんに対して行います。ドセタキセル、カバジタキセルの2種類があり、いずれも点滴の薬剤で、初回は入院して投与が行われます。2回目以降は副作用の程度にもよりますが、通常外来での投与が可能です。また、2023年より、未治療転移性前立腺がんに対して抗癌剤(ドセタキセル)と下記の新規ホルモン治療を併用した治療(トリプレット療法)が可能となり、当院でも積極的に使用しています。
新規ホルモン治療薬
近年、未治療転移性前立腺がんおよび去勢抵抗性前立腺がんに対する新たなホルモン治療薬が複数使用可能となりました。当院では保険適応のあるすべての薬剤を必要に応じて積極的に使用しています。いずれも内服薬ですので、外来通院にて治療が可能です。
分子標的治療薬
遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんに対する遺伝子検査において、BRCA遺伝子変異陽性が認められた場合、オラパリブ(リムパーザ)というPARP阻害薬が2020年12月に保険適応となり、当院では検査体制を整えており、治療も可能です。
放射線療法
根治的放射線治療
限局性の前立腺癌は、根治的治療の手術療法あるいは放射線治療のいずれかを選択することで、他のがん種と比較し良好な予後が期待できます。治療後の生存率は良好で、どちらの治療法も差を認めません。主に副作用の違いや、治療期間中の日常生活や仕事への影響などを考慮し、治療法を選択頂いています。
放射線治療の主なメリット
強度変調放射線治療: IMRTは、通院治療 (総4週間)が可能であり日常生活や仕事への負担が比較的少ないです。手術療法で生じうる神経障害に伴う排尿障害(尿漏れなど)・性機能障害(勃起不全)のリスクがないです。
放射線治療の主なデメリット
手術療法では生じない直腸や膀胱障害(主に血便や血尿)が、治療1-2年後以降に約5%の方に生じるリスクがあります。経過観察ですむ場合が多いですが、内視鏡によるレーザー凝固止血術まで必要となる場合(1-2%程度) があります。
・低リスク群
強度変調放射線治療: IMRT (4週間)の単独治療を行います。
・中・高リスク群
ホルモン療法と併用し、強度変調放射線治療:
IMRT(4週間)を行います。高リスク群では、再発率の低減を目的に、温熱療法(後述)の併用が選択可能です。
手術療法後の再発予防・救済を目的とした放射線治療
手術で摘出した前立腺がんの遺残がある場合、生化学的再発または局所再発を生じた場合に、再発予防・救済を目的とした放射線治療を行います。外部照射(強度変調放射線治療: IMRT)で行います。
オリゴ転移例の前立腺への放射線治療
少数個の遠隔転移(主に骨転移)を伴う場合、ホルモン療法に加え前立腺への放射線治療の追加を選択することが可能です。このようないわゆるオリゴ転移の場合には、前立腺への放射線治療を追加することで生存期間の延長が期待できることが臨床試験の結果で示されています。
オリゴ転移に対する救済的放射線治療
少数個(1~3個)の骨転移、肺やリンパ節転移などが対象となります。薬物療法に加えて救済的放射線治療を実施することで、治療した腫瘍の高い制御効果が期待できます。5cm以下の少数個の骨転移や肺・肝転移(オリゴ転移) に対しては、定位放射線治療(ピンポイント照射)が選択でき、より高い腫瘍の制御が期待できます。
緩和的放射線治療
他の臓器へ多数個の転移を生じている状況では、緩和的な放射線治療が適応となり得ます。 前立腺がんによる排尿障害の改善、血尿の止血や疼痛の鎮痛、また骨転移に伴う疼痛の鎮痛、神経症状の改善といった症状緩和に有効性が高いです。緩和的放射線治療に必要となる放射線量は少ないため、治療に伴う副作用は軽微です。治療期間は3週間以内が多く、状況に応じて1回のみの治療も選択可能です。通院が困難な方は、放射線治療科で入院治療も対応させて頂きます。
温熱療法 (ハイパーサーミア)
当院では、前立腺がん(主に高リスク群や再発例)に対して放射線治療の治療効果を高める温熱療法を取り入れています。がんの存在する領域の皮膚表面を2方向からパットで挟み込み高周波電流を流して加温します。パッ
ト内の液体を還流させ、皮膚表面の熱感や痛みを抑えます。1回の加温時間は40~60分程度で、週に1~2回、放射線治療を行っている期間中に総5回程度行います。
セカンドオピニオンの受け入れ
( 可 )
患者さんへ
当院では現在本邦で保険適応となっている前立腺がんの治療のほとんどが施行可能です。また、これまでに多くの患者さんの治療に携わっており、その治療経験や最新の知見を基に前立腺がんの治療の中から、個々の患者さんそれぞれの病状、希望に沿った最適な治療を提供できるよう努めています。些細なことでもお気軽にご相談ください。
産業医科大学 医学部 泌尿器科学