悪性胸膜中皮腫
1 病気について(概要、疫学的なものも含めて)
胸膜、つまり胸の奥の肺の表面などを覆っている膜、にできる悪性腫瘍(がん)を悪性胸膜中皮腫と言います。アスベスト曝露が原因で、アスベスト曝露から20-40年後に発生するといわれています。年間の患者数は日本全国で2000名以下と、比較的まれな悪性腫瘍です。
2 診断について
最初は胸に水(胸水)が貯まることが多いため、これによる咳や胸の痛み、といった症状が出ることが多いです。これらの症状がある場合、特に造船業・建築業等のアスベスト曝露の可能性のある職業に就いていた方の場合、胸膜中皮腫の可能性があるため胸のレントゲン写真を撮ってもらいましょう。レントゲンで胸に水が貯まっている場合には、針を刺して水を抜いて細胞検査を行います。細胞検査だけでは胸膜中皮腫の診断は難しいことが多いため、多くの場合は確実な診断のために胸の中にカメラ(胸腔鏡)をいれて胸膜を採取して検査を行います。胸膜中皮腫の診断が確定したら、全身のCT検査などで病気の広がりを検討して治療方針を決定します。
3 治療について
悪性胸膜中皮腫の特徴は、腫瘍が発生すると速やかに胸膜表面を胸全体に広がることです。このために、腫瘍が発生した側の胸膜全体を切除する手術は大変負担の大きな手術になりますし、胸全体に放射線治療を行うことも困難となります。
1)手術療法
(1)外科的治療
これまでは腫瘍に侵された胸膜をこれに包まれた肺とともに摘出する手術(胸膜肺全摘除術EPP)が標準的に行われていました。しかしながら中皮腫が発生した側の肺を全部摘出するため、手術の負担が非常に大きく、手術が可能な患者さんは限られていました。これに対し最近、腫瘍に侵された胸膜を肺から剥がして摘出する胸膜切除/肺剥皮手術(P/D)が行われるようになってきました。この手術の利点は肺を残すことができる点ですが、高度の技術が必要とされます。当院では約5年前よりP/Dを標準手術として採用して実施しており、最近では手術法の改良(“non-incisional P/D”)にも取り組み安全に手術を実施しています。
(2)鏡視下治療(ロボット支援下を含む)
悪性胸膜中皮腫に対する鏡視下手術は一般的には行われません。但し、上記の(1)の手術の際に、内視鏡(胸腔鏡)を補助的に使用して創を小さくしたり手術の安全性を高めています。
4 内視鏡的治療
悪性胸膜中皮腫に対する内視鏡的治療は一般的には行われません。
5 局所的治療(経皮的治療、カテーテル治療など)
悪性胸膜中皮腫に対する局所的治療は一般的には行われません。
6 薬物療法
(1)抗がん剤
シスプラチンとペメトレキセドの併用が悪性胸膜中皮腫に対して有効性が確立している唯一の抗がん剤です。シスプラチンは腎臓の毒性などが強いため、腎臓機能が低下している場合にはシスプラチンの代わりにカルボプラチンが使われます。
(2)分子標的薬
悪性胸膜中皮腫に対して保険適応となっている薬剤はありません。
(3)免疫チェックポイント阻害薬
PD-1という免疫を抑える分子を阻害するニボルマブが悪性胸膜中皮腫に対して使えます。但し、上記の抗がん剤治療をまず行って、これが効かない場合などに使うことができます。
(4)ホルモン剤
悪性胸膜中皮腫に対して保険適応となっている薬剤はありません。
(5)その他
7 放射線療法
胸膜全体に放射線を当てると肺への強い障害が起こるため、このような放射線治療は胸膜肺全摘除術(EPP)の後などに限って行われます。部分的に腫瘍が大きくなって痛みなどが強い場合は、その部分だけに絞って症状を和らげるために放射線治療が行われます。
8 セカンドオピニオンの受け入れ
( 可 )
9 患者さんにメッセージ
悪性胸膜中皮腫は比較的まれで、また手術等の治療も技術的に難しいとされています。当院では豊富な経験を生かして、治癒をあきらめない積極的な治療に取り組んでいます。特に、肺を残して腫瘍に侵された胸膜のみを切除する新しい術式(“non-incisional P/D)は高い評価を得ています。是非、ご相談ください。
産業医科大学 医学部 第二外科学 診療部門 呼吸器外科 胸膜中皮腫の診断と治療
http://www.kitakyusyu-gan.jp/homepage/sinryou_kokyu_kyou.html