縦隔腫瘍
1 病気について(概要、疫学的なものも含めて)
縦隔とは、両側の肺に囲まれている空間です。縦隔には心臓や大血管や食道や気管や胸腺が存在しています。縦隔腫瘍とは、これらの縦隔内臓器に発生した腫瘍の総称です。縦隔腫瘍は一般的に比較的まれな腫瘍です。良性の腫瘍や神経原性腫瘍、悪性の腫瘍である胸腺腫、胸腺がん、胚細胞性腫瘍などがあります。縦隔腫瘍で手術を受けた症例をまとめた報告によると、最も多かったものは胸腺腫で、縦隔腫瘍の全体の約40%を占めていました。次いで多かったのはのう胞で15%、神経原生腫瘍が13%となっています。悪性度の高い腫瘍では、胚細胞性腫瘍が全体の約8%、胸腺がんと悪性リンパ腫がともに約5%でした
2 診断について
縦隔腫瘍は、健康診断の胸部単純エックス線写真やCTを撮影したときに偶然にみつかることがあります。胸部単純エックス線写真では心臓に重なるため、発見が難しい場合もあります。腫瘍の大きさが小さい段階では無症状のことが多く、腫瘍が大きくなると臓器を圧迫や浸潤して咳、息苦しさ、上大静脈の閉塞によるむくみや、声のかすれ、交感神経障害症状(まぶたの低下、瞳孔の縮小、発汗の異常)などが出ることがあります。また、腫瘍の種類によって血液検査で特徴的な異常を示すものもあり、腫瘍マーカーとして診断に有用です。治療方針を決定する上で、どの種類の腫瘍ができているのかが重要となるため、外部から針を刺して組織を採取し(生検)、顕微鏡による診断(病理診断)を行います。縦隔腫瘍は胸骨の裏に存在し、診断がつけにくい場所であるので、診断をつけるために手術を行う必要がある場合があります。
3 外科的治療
縦隔腫瘍は良性であっても、大きくなると血管や心臓などの縦隔の臓器を圧迫するこ
とや、悪性腫瘍の可能性があることより、手術で腫瘍を切除し診断をつけることがあります。縦隔腫瘍の手術は従来から胸骨という前胸壁にある骨を縦に20cm程、切開することにより、手術が行われてきました。良い点は視野が良く、操作性が良いことですが、傷が大きい事や胸骨を切らなければいけないことが課題でした。
(2)鏡視下治療(ロボット支援下を含む)
近年では胸腔鏡というカメラを用いて、左右の胸腔を経由して縦隔にアプローチす
ることが可能となりました。また、2018年4月からは、ロボット支援下手術も保健診療となり、当科では積極的にロボット支援下手術を行っています。ロボット支援下手術では剣状突起の下に2−3cmの切開と8mm程度の穴を用いて、精密な手術を行うことができます。
4 内視鏡的治療
縦隔腫瘍に対しては内視鏡的治療は一般的には行われません。
5 局所的治療(経皮的治療、カテーテル治療など)
縦隔腫瘍に対しては局所的治療は一般的には行われません。
6 薬物療法
(1)抗がん剤
悪性の縦隔腫瘍である胸腺腫や胸腺がんに対しての抗がん剤治療は科学的な根拠は明確ではありませんが、従来から、抗がん剤であるシスプラチンやアンスラサイクリン系の抗がん剤が用いられます。
(2)分子標的薬
縦隔腫瘍に対する分子標的治療薬は保健適応がありません。
(3)免疫チェックポイント阻害薬
縦隔腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害薬は保健適応がありません。
(4)ホルモン剤
縦隔腫瘍に対するホルモン剤は保健適応がありません。
(5)その他
重症筋無力症を合併する胸腺腫の患者さんの場合、手術適応となります。手術のさいには、拡大胸腺摘出術を行い、症状を軽減することが可能となる症例があります。
7 放射線療法
悪性の縦隔腫瘍である胸腺腫や胸腺がんなどが進行していたり、手術後に再発した場合に放射線治療を行う場合があります。
8 セカンドオピニオンの受け入れ
( 可 )
9 患者さんにメッセージ
我々は、縦隔腫瘍の位置や種類や進行度を考慮して、低侵襲で、かつ根治することができる治療法を行うために、症例により手術方法や治療法を検討して、一人一人の患者さんに最適な治療法を選択しています。是非、ご相談ください。