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乳がん

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1 病気の概要

 

1)乳がんとは

   乳腺にできた悪性腫瘍のことです

   日本人女性の乳がん罹患数は、約85千人であり(2013)、乳がん死亡者数は14千人(2016)です。

   また部位別の罹患数は日本女性の第1位であり、死亡数は日本人女性の第5位です。年齢別罹患リスク(2013年罹患・死亡データーに基づく)から、日本女性の11人に1人が生涯で乳がんに罹患すると推定されています。

   乳がんのリスク因子としては肥満、アルコール摂取、喫煙、糖尿病の罹患、出産経験がない、授乳経験がない、などが言われています。

   遺伝性乳がんは乳がんの5〜10%であり、その他の乳がんがほとんどです。

   乳がんの多くは乳汁を運ぶ乳管から発生し「乳管がん」と呼ばれ、乳汁を作る小葉から発生する乳がんは「小葉がん」と呼ばれます。乳管がん、小葉がんは、乳がん組織を顕微鏡で検査(病理検査)をすると区別できます。この他に特殊な型の乳がんがありますが、あまり多くはありません。

   乳がんは、しこりとして見つかる前に、乳房の周りのリンパ節や、遠くの臓器(骨、肺、胸膜、肝臓、脳など)に転移して見つかることがあります。

   乳がんの種類や性質によって、広がりやすさ、転移しやすさは、大きく異なります。

2)症状

乳がんが見つかるきっかけとしては、以下があります。

   マンモグラフィなどによる乳がん検診を受けて疑いを指摘される場合

   自分で症状に気付く場合

自分で気付く症状としては、以下のようなものがあります。

(1)乳房のしこり

   乳がんが進行すると腫瘍が大きくなり、触るとしこりがわかるようになってきます。

   しこりがあるからといって、すべてが乳がんというわけではありません。例えば、乳腺症、線維腺腫、葉状腫瘍などでも、しこりが症状としてあらわれます。

   葉状腫瘍はまれな腫瘍ですが、線維腺腫に似た良性のものから、再発や転移を起こしやすい悪性のものまでさまざまです。

(2)乳房の皮膚などの変化

   乳がんが乳房の皮膚の近くに達すると、以下のようになることがあります。

   エクボのようなひきつれ

   乳頭や乳輪部分に湿疹(しっしん)やただれ

   時にはオレンジの皮のように皮膚がむくんだように赤くなる

   乳頭の先から血の混じった分泌液が出ることもあります。

   乳房のしこりがはっきりせず、乳房の皮膚が赤く、痛みや熱をもつ乳がんを「炎症性乳がん」と呼びます。炎症性乳がんは、がん細胞が皮膚に近いリンパ管の中で増殖してリンパ管に炎症を引き起こしているためにこのような特徴を呈すると言われています。

   痛み、むくみや腫れといった症状は乳がん以外の病気、例えば良性腫瘍や乳腺症、乳腺炎などなどでも起こることがあるので、乳がんであるかどうか詳しく調べる必要があります。

(3)乳房周辺のリンパ節の腫れ

   乳がんは乳房の近くにあるリンパ節である、わきの下の腋窩(えきか)リンパ節や、胸の前方中央を縦に構成する胸骨のそばの内胸リンパ節、鎖骨上のリンパ節に転移しやすく、これらのリンパ節を乳がんの「領域リンパ節」と呼びます。

   腋窩リンパ節が大きくなると、わきの下などにしこりができたり、リンパ液の流れがせき止められてしまうために腕がむくんできたり、腕に向かう神経を圧迫して腕がしびれたりすることがあります。

 

2 診断方法

 

1)視診・触診

   乳房を観察して、形状や左右差、皮膚の変化を調べます。

   次に指で乳房やわきの下に触れて、硬さや動き方、大きさや形、個数など、しこりの性質を調べます。

2)マンモグラフィ検査

   病変の位置や広がりを調べるために行う乳腺専用のX線検査です。

   少ない被曝(ひばく)線量で乳房組織を鮮明に映し出すために、板状のプレートで乳房を挟んで圧迫し、うすく引き伸ばして撮影します。そのため、乳房を圧迫される痛みがありますが、視診・触診で発見しにくい小さな病変も見つけることができます。

   画像の性質上、乳腺の発達している人や若い人では、マンモグラフィでは乳腺の密度が高く、マンモグラフィで白く見える部分が多い状態である「高濃度乳房」となり、病変が存在していても見つかりにくく、超音波検査のほうが乳がんを検出できることが知られています。

3)超音波(エコー)検査

   超音波を体の表面にあて、臓器から返ってくる反射の様子を画像にする検査です。

   乳房内の病変の有無、しこりの性状や大きさ、わきの下など周囲のリンパ節への転移の有無を調べます。

   X線のように放射線による被曝の心配がありませんので、妊娠中でも検査が可能です。

4)病理検査・病理診断(細胞診/組織診)

   病変の一部を採取して、がんかどうかを顕微鏡で調べる検査です。

   がん細胞が含まれていれば、その細胞の種類や性質なども調べます。

1)細胞診

   細胞診検査は大きく分けて、乳頭からの分泌液を採取して行う分泌液細胞診と、病変に

   細い針を刺し、細胞を吸引して行う穿刺(せんし)吸引細胞診があります。

   細胞診検査は、体への負担が比較的少ない検査ではあるものの、まれに、がんではないのにがんと診断されてしまう偽陽性や、がんであるのにがんではないと診断されてしまうこと偽陰性がありうる、という欠点があります。

2)生検(組織病理診断)

   組織診検査は病理診断を確定するための検査で、生検と呼ばれています。組織診では痛み止めとして局所麻酔を行い、病変の組織を採取します。

   針生検                   :注射針より太い針を使用

   マンモトーム生検  :針生検よりもさらに太い針を使用

   外科的生検           :皮膚を切開して組織を採取

   細胞診に比べて確実な診断ができ、また調べられる細胞や組織の量が多いので、腫瘍についてより詳しい情報を得ることが可能になります。

5)乳腺のCT検査・MRI検査

   手術や放射線治療などを検討するとき、病変の広がりを調べるために行う検査です。

   CTではX線を、MRIでは電磁気を使って体の内部を描き出します。特に造影MRIで、乳房内での病変の広がり具合を診断するのに有効とされています。

   CTMRIで造影剤を使用する場合、アレルギーが起こることがありますので、以前に造影剤のアレルギーを起こした経験のある人は、担当医に申し出てください。

6)全身検索のための検査(CT検査、骨シンチグラフィなど)

   乳がんが転移しやすい遠隔臓器には、肺、肝臓、骨、リンパ節などがあります。

   がんの乳腺以外への広がりを調べるために、必要に応じてCTMRI、腹部超音波、骨シンチグラフィ、PET-CT検査などの画像検査が行われます。

   乳がんでは、発生の可能性を調べる腫瘍マーカーはありませんが、転移や再発をした場合に腫瘍マーカーが乳がんの状態や病状の進行と並行することがあり、病状の把握に用いられることがあります。

7)病期診断

   病期、またはStage(ステージ)とは、がんの進行の程度を示す言葉です。

   病期にはローマ数字が使われています。

   わが国の乳癌取扱い規約では、0期、I期、II期(IIAIIB)、III期(IIIAIIIBIIIC)、IV期に分類されています。

   UICCと呼ばれる国際分類では、手術後の検査結果でI期をさらにIA期とIB期に分けていますが、他はわが国の分類と同じです。

   病期は、がんが乳房の中でどこまで広がっているか、リンパ節転移があるか、骨や肺など乳房から離れた臓器への転移があるかなどによって決まります(表1)。

   乳がんの治療方針は、この病期ごとにおおよその指針が決まっています。また病期やがんの性質によって、将来がんが再発するリスクをある程度推測することができます。

8)転移・再発乳がん

   乳房のしこりに対する初期治療を行ったあと、乳がんが再び出現することを「再発」といいます。以下のように区別します。

   転移再発              :他の臓器に出現した再発

   乳房内再発           :乳房部分切除術を行ったあとの乳房に起こる再発

   局所・領域再発    :乳房を全部摘出したあと、胸壁の皮膚やリンパ節に起こる再発

9)術後病理組織診断

   手術によって切除された病変について、がんの広がり、形態、性質を詳しく調べる、病理組織診断が行われます。

   腫瘍の大きさ、広がり、年齢、異型度(グレード)、HER2タンパク質、ホルモン受容体、Ki67の情報などを基に、将来の再発リスク、追加治療の必要性が検討されます。

   推定される再発のリスク、糖尿病や心臓病など別の病気の有無、年齢や患者さん自身の希望なども考慮して治療方針を決定していきます。

10)サブタイプ分類

   サブタイプ分類はがん細胞の性質で分類する考え方で、遺伝子解析によって提唱されました。遺伝子検査は費用もかかり実用はまだ難しいため、実際には生検や手術で採取されたがん細胞を免疫染色で調べることで臨床病理学的に遺伝子解析の分類に当てはめています(表2)。

   がん細胞の増殖に関わるタンパク質である、エストロゲン受容体(ER)とプロゲストロン受容体(PgR)ホルモン受容体、HER2Ki67を調べます。

   内分泌(ホルモン)療法、化学療法、分子標的治療といった薬物療法の選択については、がん細胞の性質により効果が異なることが言われてきました。近年このサブタイプ分類に基づいてがん細胞の性質を調べて、腫瘍の性質に合わせた治療を選択します。

   分子標的治療薬は、治療の最初からまたは途中から、内分泌療法または化学療法と併用します。

 

3 外科的手術 

 (1)外科的治療

   乳がんの治療では、手術によってがんを取りきることが基本となります。

   乳房を残す「乳房部分切除術」と、乳房を全部切除する「乳房切除術」があります。

(1)乳房部分切除術

   乳房部分切除術は乳がんを確実に切除しつつ、患者さんが残った乳房の形に対して、その整容性が美容的に満足できる乳房を残すことを目的に行います。

   腫瘍を中心に12cm離れた正常な組織を含めて、乳房を部分的に切除します。

   乳房部分切除術を受けられる条件については明確なものはありませんが、ガイドラインで示された目安としてはがんの大きさが3cmであること、また乳頭よりも同じか頭側にガンが位置すると部分切除でも整容性が保たれやすいとされています。しかし、乳房の大きさ、本人の希望、外科医が選択する術式などにもよるので、手術を担当する医師とよく相談することが重要です。

   しこりが大きい場合は、術前薬物療法によって腫瘍を縮小させてから手術を行うことも可能です。

   手術中では、切除した組織の断端(切り口)のがん細胞の有無を顕微鏡で調べて、確実にがんが切除できていることを確認する必要があります。がんが手術前の予想よりもはるかに広がっている場合は、後日、再手術で乳房切除術を行うこともあります。

   通常、手術後に放射線照射を行い、残された乳房の中での再発を防ぎます。

(2)乳房切除術

   以下のような場合には、最初から乳房を全部切除する乳房切除術を行います。

   乳がんが広範囲に広がっている場合

   複数のしこりが離れた場所に存在する多発性の場合

   乳房部分切除を行なっても、整容性が確保できない場合

(3)乳房再建術

   乳房切除術後に、患者さん自身のおなかや背中などから採取した自身の組織(自家組織)またはシリコンなどの人工物を用いて、新たに乳房をつくることを乳房再建といいます。また乳頭を形成することもできます。

   再建の時期については乳がんの手術と同時に行う場合(一次再建)と、数カ月から数年後に行う場合(二次再建)とがあります。

   再建手術は主に形成外科医が担当します。

   自家組織再建は背中(広背筋皮弁)や腹部(腹直筋皮弁)から皮膚、皮下脂肪を筋肉の栄養血管を用いて移植する方法で血管を切らずに移動させる有茎皮弁と一度血管を切って、胸部の血管と顕微鏡で縫合する遊離皮弁という方法があります。ご自身の組織なので術後の整容性はよいのですが健常な部分に傷をつけることになり手術侵襲は大きくなります。

   現在では、病期(ステージ)0II期の場合は、自家移植の場合にのみだけでなくシリコン・インプラントなどの人工物を使う場合にも、公的医療保険の適用が拡大されています。人工物を用いる場合は乳がん切除時に手術後の皮膚を伸展させる目的で組織拡張器(ティッシュー・エキスパンダー)を同時に挿入します。その後数ヶ月かけて生理食塩水を注入することで皮膚を伸展させたあとにシリコン・インプラントに入れ替える手術を行いますので2回手術が必要となります。自家組織移植に比べて手術侵襲は少ないのですが、人工物では整容性に限界があること、10年程度で入れ替える必要が生じる可能性があることが欠点です。

   また、保険承認されていたシリコン・インプラントを使った方にリンパ腫の一種が発生、放置した方が亡くなったことが報告されたことから、20197月まで承認されていた器材が使用中止となり新たな器材に変更となりました。

   また現在でも手術の内容や病院によっては自費診療の場合があります。まずは担当医に再建の希望を伝え、よく相談することが重要です。

(4)わきの下のリンパ節郭清(腋窩リンパ節郭清)

   がん細胞はリンパ液の流れに乗って、周辺のリンパ節に入り込む、転移を起こすことが知られています。現在の手術前の検査ではリンパ節にがんが転移しているかどうかは正確にはわかりません。

   手術のあとに、腕が上がりにくい、しびれる、むくみといった症状が起こることがあります。

   手術前にリンパ節転移が明らかな場合にのみ、わきの下のリンパ節郭清が行われます。

   手術前にリンパ節転移が明らかでない場合には、センチネル(見張り)リンパ節生検が行われます

  (2)鏡視下治療(ロボット支援下を含む)

   皮膚を数カ所小さく切開し、そこへ先端にレンズやはさみのついた管を入れて手術を行います。

   乳房はからだの表面にある臓器であるため、皮膚を切開してもそれほどからだへの負担は大きくありませんので、鏡視下手術の目的は主に皮膚切開を目立たないように、小さくしつつ位置を移動することにあります。

   切開する位置は腋窩、乳輪周囲、乳房外側など比較的創が目立ちにくい位置になります

   腫瘍がある程度限局し皮膚に近くない病変が比較的よい適応になります。

4 内視鏡的手術

5 局所的治療

6 薬物療法

   乳がんでは、目に見えるまでにしこりが大きくなるまでに、目に見えないがん細胞は体に残っていて(微小転移といいます)、それが時間とともに大きくなり再発という形で現れると考えられています。乳房以外の臓器に転移・再発すると、病気を根治(完全に治す)することは非常に難しくなるため、再発の危険性が低くないと考えられる、浸潤が1cm以上の乳がんでは、根治をめざして手術後に薬物治療が勧められます。

 薬物療法は以下の目的があり、病期(ステージ)、リスクなどに応じて行われます。

   手術や他の治療を行ったあとにその効果を補う

   手術の前にがんを小さくする

   根治を目的とした手術が困難な進行がんや再発に対して、延命および生活の質を向上させる

   どのような薬剤をどのように組み合わせて治療を行うかは、がんの広がりや性質、病理検査の結果などから、がんの特性に合わせて、病期(ステージ)、サブタイプ分類によって検討・選択されます(表4)。

   また、しこりの大きさやリンパ節転移の有無に加え、がん細胞の増殖に関わる要因から再発の危険を予測することができます。再発の危険性が高い場合、より再発抑制効果の強い治療を行い、そのリスクの低減を図ります。ルミナルA型は再発の危険性が低いため、化学療法をほとんど必要としないことが多くなっています。

   副作用については、予防や対策を講じながら治療を進めていきます。

   薬によっては、卵巣機能障害があらわれ、不妊の長期的な副作用がみられる場合もあるので、乳がんの治療後の生活も含めて検討する必要があります。

   薬剤が高額であったり、投与期間が長かったりで、医療費が高額となる場合があります。治療の方針について担当医から話を聞いた上で、医療費について不安のある場合には、ご相談ください。がん相談支援センターなどでも、利用可能な高額療養費制度など確認することができます

(1)    内分泌(ホルモン)療法

   卵巣機能が活発な、いわゆる生理期にある女性では、主に卵巣から女性ホルモンが分泌されています。

   50歳前後で閉経期を迎えたあとの女性では、卵巣からの女性ホルモンの分泌は停止し、そのかわりに副腎皮質から分泌される男性ホルモンを原料として、「アロマターゼ」と呼ばれる酵素の働きによって女性ホルモンがわずかに産生されます。閉経後の女性では閉経前に比べ、女性ホルモンが1/100程度に減少します。

   乳がんはエストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PgR)といった「ホルモン受容体」のあるものとないものに分けることができます。

   手術後に、ホルモン受容体がある乳がんかどうか、がんの組織を詳しく調べます。「ホルモン受容体」のある乳がんでは、女性ホルモンががんの増殖に影響しているとされています。

   内分泌(ホルモン)療法は女性ホルモンの分泌や働きを妨げることによって乳がんの増殖を抑える治療法で、ホルモン受容体のある乳がんであれば効果が期待できます。内分泌療法には抗エストロゲン剤、選択的アロマターゼ阻害剤、LH-RHアゴニスト(黄体ホルモン放出ホルモン抑制剤)などが使われます。

   抗エストロゲン剤は、女性ホルモンのエストロゲン受容体への結合を阻害します。

   選択的アロマターゼ阻害剤は、閉経後の女性に対してアロマターゼの働きを抑え、女性ホルモンの産生を抑えます。

   閉経前の女性の場合は、卵巣からの女性ホルモンの分泌を抑えるLH-RHアゴニスト(黄体ホルモン放出ホルモン抑制剤)を併用することがあります。

   その他、プロゲステロン製剤などを使用する場合もあります。

   治療の目的や使う薬の種類によって治療期間や効果の目安は変わりますが、手術後に行う場合は5年間から10年間の投与が目安となります。

   副作用については、化学療法に比べて軽いといわれていますが、顔面の紅潮やほてり、のぼせ、発汗、動悸(どうき)などの更年期障害のような症状が出る場合もあります。これらの症状の多くは治療を開始して数カ月から数年後には治まりますが、症状によっては使用するホルモン剤の種類を変更したり、症状を和らげる薬を投与したりすることもあります。また薬剤によっては高脂血症、血栓症、骨粗しょう症のリスクが高まることが知られているので、そのようなリスクを少なくするための治療を併用することもあります。

(2)    化学療法

   化学療法は抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)により、細胞増殖を制御しているDNAに作用したり、がん細胞の分裂を阻害したりすることで、がん細胞の増殖を抑えます。

1)術前化学療法

   手術を行うことが困難な場合や、しこりが大きいために乳房部分切除術ができない場合には、3カ月から半年ほどの化学療法を行い、腫瘍を縮小させてから手術を行う方法があります。これを術前化学療法といいます。この方法によって、手術や乳房部分切除術を受けられる人が増えています。

   術前化学療法で腫瘍が十分に縮小しない場合は、乳房切除術を行ったり、必要に応じて放射線治療や内分泌(ホルモン)療法を追加したりすることもあります。

2)術後化学療法

   早期の乳がんでは、多くの場合、転移・再発を防ぐ目的で、手術後に化学療法を行います。手術後に化学療法を行う目的は、どこかに潜んでいる微小転移を死滅させることです。手術後の化学療法によって、再発率、死亡率が低下することが報告されています。

   作用が異なる複数の抗がん剤を使用することによって、がん細胞をより効果的に攻撃できることが明らかになったことから、術後化学療法においては複数の抗がん剤を組み合わせて使用します。

3)主な副作用

   化学療法は正常な体にとっても毒であるため、各副作用があります。

   最近は化学療法の副作用に対する予防法や対策が進歩していることもあり、外来通院しながら治療を受けることが多くなっています。

   特に髪の毛、口や消化管などの粘膜、あるいは血球をつくる骨髄など新陳代謝の盛んな細胞が影響を受けやすく、脱毛、口内炎、下痢が起こったり、白血球や血小板の数が少なくなったりすることがあります。その他、全身のだるさ、吐き気、手足のしびれや感覚の低下、筋肉痛や関節痛、皮膚や爪の変化、肝臓の機能異常などが出ることもあります。

(3)    分子標的薬

   分子標的治療薬は、がんの増殖に関わっている分子を標的にして、その働きを阻害する薬です。

   分子標的治療薬にはさまざまな薬剤があります。乳がんでは、細胞の表面にあり乳がんの増殖に関わっていると考えられているタンパク質、HER2(ハーツー)の働きを阻害する抗HER2薬が、手術の前後や再発した場合などに、腫瘍の性質に応じて使われています。病理検査でHER2が陽性であることがわかった場合に治療が検討されます。

   分子標的薬はがん細胞だけを狙い撃ちに治療をするため、一般に副作用は軽いですが、寒気や発熱など特有の症状が出ることがあり、確認しながら治療していきます。

(4)    免疫チェックポイント阻害薬

   免疫チェックポイント阻害剤は,免疫チェックポイント分子である抑制性受容体またはこの受容体へ選択的に結合する物質であるリガンドに作用し,免疫抑制性のシグナルを遮断することにより免疫系のブレーキを解除する薬剤です。

   乳がんでは201910月現在、改変型抗PD-L1モノクローナル抗体であるアテゾリズマブ(遺伝子組換え)が、PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌に対して新たに保険適応になりました。

   従来の薬物療法と比べて、併用する化学療法の他にも生じてくる免疫関連の有害事象が問題となっており、多職種と連携して対応する必要があります。

7 放射線治療

(1)    乳房部分切除術後の放射線治療

乳房部分切除術を行った場合には、残存する乳房内の再発を予防するために放射線治療が必要です。放射線治療を行うことで乳房内再発の減少や予後の改善が得られます。

切除した癌の病理検査の結果や再発リスクの程度により、放射線を照射する回数や範囲が変化します。 比較的多く選択するスケジュールは、残存する乳房全体への放射線治療を、11回、週5回、総25 (5週間)を行い、その後、癌を切除した部分に限局して8回 追加するものです。通院に支障がなければ外来で治療を行います。主な副作用は、治療開始後4週目頃から生じる照射部の皮膚炎(皮膚の発赤)ですが、日常生活への影響は少ない場合がほとんどで、治療終了1ヶ月後には概ね消失してきます。

(2)    乳房切除術後の放射線治療

乳房切除術を行い再発リスクが高い場合に、放射線治療を追加する必要があります。リンパ節転移がある場合や癌の周囲への進展が強い場合などが相当します。放射線治療の追加により、胸壁やリンパ節に再発を生じる確率が減少し、予後が改善します。

切除した癌の病理検査の結果や再発リスクの程度により、放射線を照射する回数や範囲が変化します。多く選択するスケジュールは、11回、週5回、総25 (5週間)を行うものです。通院に支障がなければ外来で治療を行います。主な副作用は、治療開始後4週目頃から生じる照射部の皮膚炎(皮膚の発赤)ですが、日常生活への影響は少ない場合がほとんどで、治療終了1ヶ月後には概ね消失してきます。

(3)    少数個の再発・転移に対する救済的放射線治療

胸壁や残存乳房、リンパ節 (鎖骨・腋窩)の再発、または少数個(1~3個程度)の遠隔転移を生じた場合に、薬物療法に加え救済的な放射線治療を選択することが可能です。遠隔転移の部位は、骨転移、肺や肝臓の転移、リンパ節転移などが対象となります。治療した腫瘍の高い制御効果が期待できます。

過去に放射線治療が行われた残存乳房や胸壁の再発では、十分な量の放射線治療を投与できませんが、当院ではより腫瘍に対して高精度に放射線を限局させる強度変調放射線治療(IMRT)を用いることや、温熱療法(後述)の併用により、治療成績の改善を試みています。

(4)     脳転移に対する放射線治療

脳転移を生じた場合に放射線治療が有効です。当院では、強度変調回転放射線治療(VMAT)を用いた定位放射線治療(ピンポイント照射)が可能です。患者さんに負担の少ない短い治療時間で、脳転移の高い制御効果が期待できます。

(5)    緩和的放射線治療

他の臓器へ多数個の転移を生じている状況では、緩和的な放射線治療が適応となり得ます。乳癌からの出血の止血、上肢浮腫の改善、鎮痛などが期待できます。骨転移に伴う疼痛の鎮痛、神経症状の改善や骨折の予防にも有効性が高いです。緩和的放射線治療に必要となる放射線量は少ないため、治療に伴う副作用は軽微です。治療期間は3週間以内が多く、状況に応じて1回のみの治療も選択可能です。

(6)    温熱療法 (ハイパーサーミア)

当院では、乳癌の再発・転移病変に対して放射線治療や抗がん剤の治療効果を高める温熱療法を取り入れています。がんの存在する領域の皮膚表面を2方向からパットで挟み込み高周波電流を流して加温します。1回の加温時間は4060分程度で、週に1~2回、放射線治療を行っている期間中に総5回程度行います。特に乳癌の局所再発病変は、体表面近くに存在するため、腫瘍の良好な温度上昇が得られやすく効果が得られやすいです。

放射線治療科外来では上記治療の内容を専門医からより詳しくご説明しています。 

8 セカンドオピニオンの受け入れ  

      (     )

9 患者さんにメッセージ

   本院では、乳がんの診療を担当している科(胸部・呼吸器外科と消化器・内分泌外科)のどちらを受診しても、同じ乳癌診療ガイドラインに沿った診療を、それぞれの科の特徴に合わせて、必要なときには協力して行っています。

   乳がんになる患者さんは年々増えてきていますが、早い時期に適切に治療を行えばけっして治らないがんではありません。また進行している場合でも選択できる治療は多く存在します。

乳がんの組織型、サブタイプ分類や病期に合わせて、まずは標準治療を第一に、できれば根治を目指した診療をご提案し、それが難しいようなら患者さんのライフスタイルや生き方に沿った治療方法を一緒に考えて、診療を進めていきます。

 

 

表1 サブタイプ分類

サブタイプ分類

ホルモン受容体

HER2

Ki67

ER

PgR

ルミナルA

陽性

陽性

陰性

ルミナルB型(HER2陰性)

陽性または陰性

弱陽性または陰性

陰性

ルミナルB型(HER2陽性)

陽性

陽性または陰性

陽性

低~高

HER2

陰性

陰性

陽性

-

トリプルネガティブ

陰性

陰性

陰性

-

Ki67は、検査の状況(染色の条件、スコアリングの方法)によって陽性率が大きく変わります。適切なKi67カットオフ値(ルミナルABを分ける基準)はまだ明らかにされておらず、結果の解釈には注意が必要です。

表2 乳がんの病期分類

0

非浸潤がんといわれる乳管内にとどまっているがん、または乳頭部に発症するパジェット病(皮膚にできるがんの一種)で、極めて早期の乳がん

I

しこりの大きさが2cm以下で、リンパ節や別の臓器には転移していない

IIA

しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周囲の組織に固定されず可動性がある
または、しこりの大きさが25cmでリンパ節や別の臓器への転移がない

IIB

しこりの大きさが25cmで、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周囲の組織に固定されず可動性がある
または、しこりの大きさが5cmを超えるが、リンパ節や別の臓器への転移がない

IIIA

しこりの大きさが5cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周辺の組織に固定されている状態、またはリンパ節が互いに癒着している状態、またはわきの下のリンパ節転移がなく胸骨の内側のリンパ節に転移がある場合
あるいは、しこりの大きさが5cm以上で、わきの下または胸骨の内側のリンパ節への転移がある

IIIB

しこりの大きさやリンパ節への転移の有無に関わらず、皮膚にしこりが顔を出したり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいるような状態
炎症性乳がんもこの病期から含まれる

IIIC

しこりの大きさに関わらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移がある、または鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある

IV

別の臓器に転移している
乳がんの転移しやすい臓器:骨、肺、肝臓、脳など

日本乳癌学会編「臨床・病理 乳癌取扱い規約2012年(第17版)」(金原出版)より作成

 

図1 乳がんの臨床病期と治療

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日本乳癌学会編「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編2013年版」(金原出版)より作成

表3 サブタイプ分類による術前・術後薬物療法選択

サブタイプ分類

選択される薬物療法

ルミナルA

内分泌(ホルモン)療法、(化学療法)

ルミナルB型(HER2陰性)

内分泌(ホルモン)療法、化学療法

ルミナルB型(HER2陽性)

内分泌(ホルモン)療法、分子標的治療、化学療法

HER2

分子標的治療、化学療法

トリプルネガティブ

化学療法