小児の眼・眼窩の腫瘍
1 病気について(概要、疫学的なものも含めて)
網膜芽細胞腫:小児の眼球内に生じる悪性腫瘍です。国内発症は年間70~80名で、片眼性の場合は平均8ヵ月、両眼性の場合は平均21ヶ月で発見されています。白色瞳孔(眼の奥が白く見えること)により母親が病気に気付くことが多いです。他にも斜視(眼が真っすぐに向いていない、ずれている状態)や視力低下、くろめ(角膜)の混濁などがみられる場合があります。遺伝子異常が原因であることが分かっています。
眼窩横紋筋肉腫:横紋筋肉腫とは、横紋筋の大元の細胞(横紋筋に分化する細胞)に発生する悪性腫瘍です。眼窩に発生する眼窩横紋筋肉腫は小児の眼窩腫瘍の4~6%を占めます。好発年齢は8歳ですが、新生児にも発症します。急速に大きくなり、眼球突出、結膜の浮腫(腫れ)や眼球編位(向きがずれること)をきたします。痛みは軽度です。近年遺伝子異常が報告されています。
乳児血管腫:生後1~2週間で出現する「赤あざ」の一種で、新生児に最も多くみられる良性の腫瘍です。6ヶ月まで急速に増大し、その後大きさの変わらない期間を経て数年で縮小します。有症率は0.8%といわれ、女児に多いです。皮膚だけでなく内臓を含め全身のいずれにも発生しますが、頭頚部が最も多く、全体の60%を占めます。眼瞼や眼窩に発生した場合は弱視や乱視などの合併症に注意が必要です。
角結膜デルモイド:くろめ(角膜)としろめ(眼球結膜)の境目に生じる先天性の良性腫瘍です。発生異常によって皮膚組織が角結膜に迷入し、増殖したもので脂肪組織、もう待つ、軟骨組織などを含んだ結合組織で構成されます。やや男児に多いです。大きさは3~5mmが多く、美容面以外にも斜視、遠視や乱視による弱視を6割に伴っていることが重要です。遠視や乱視が強い場合はまず弱視の訓練治療を行います。
2 診断について
網膜芽細胞腫:診断はCT、造影CT,造影MRI、眼内液NSE測定で行い、通常生検は行いません。
眼窩横紋筋肉腫:造影CT、造影MRI検査などを行います。眼窩横紋筋肉腫が疑われた場合は生検もしくは切除を行い、病理検査をします。病理所見から胎児型、胞巣型に分類され、好発年齢や予後が異なります。
乳児血管腫:眼瞼であれば視診で診断がつくことが多いですが、眼窩は超音波検査、CTやMRIが必要となります。悪性腫瘍との鑑別が困難な場合は生検することもあります。
角結膜デルモイド: 細隙灯顕微鏡、超音波検査や前眼部光干渉断層計検査などを行います。
3 治療について
1)手術療法
(1)外科的治療
網膜芽細胞腫:腫瘍が大きい場合や眼内に腫瘍細胞が散布している場合は眼球を摘出する手術となります。
眼窩横紋筋肉腫:病変の大きさや転移の有無によって異なりますが、治療は外科的治療、全身抗がん剤治療、放射線治療を組み合わせて行われます。
角結膜デルモイド:視力が良好な場合は経過観察を行いますが、弱視が改善しない場合や美容面の観点から希望があった場合に外科的切除を行います。
(2)鏡視下治療(ロボット支援下を含む)
該当なし
4 内視鏡的治療
該当なし
5 局所的治療(経皮的治療、カテーテル治療など)
乳児血管腫:色素レーザー治療が行われる場合があります。
6 薬物療法
(1)抗がん剤
網膜芽細胞腫:眼球温存を行う場合、また眼球摘出後に視の神経への腫瘍の浸潤や脈絡膜への浸潤があった場合には、全身化学療法が行われますが、当科では行っておりません。
眼窩横紋筋肉腫:全身の抗がん剤治療は小児科と連携して行われます。
(2)分子標的薬
該当なし
(3)免疫チェックポイント阻害薬
該当なし
(4)ホルモン剤
乳児血管腫:症例によってはステロイド治療を行う場合もあります。小児科医と連携で行われます。
(5)その他
乳児血管腫:降圧剤として用いられるプロプラノロールが効く場合があります。ただし喘息があると使用できませんし、使用中も副作用に充分注意する必要があります。小児科医と連携で行われます。
7 放射線療法
放射線治療の役割は、根治照射(腫瘍を消失させる)、術前・術後照射(根治率を高める)、緩和照射(症状を和らげる)などに分けられます。眼窩横紋筋肉腫に対する放射線治療の役割は、術後照射が主なものになります。手術および病理診断の結果をもとに、放射線治療が必要な症例に放射線治療を併用します。放射線を照射する範囲や放射線の量は、それまでの治療に対する反応や、手術の結果などを基に決められます。
現在当院放射線治療科では、患児の状況によって、強度変調放射線治療(IMRT)や定位放射線治療(SRS,SRT)などの高精度放射線治療を積極的に行い、治療効果を上げ、副作用を軽減するよう努めています。
8 セカンドオピニオンの受け入れ
( 可 )
9 患者さんにメッセージ
特になし。