衛生学

産業医科大学医学部 衛生学(旧 産業衛生学)講座

 

教室の沿革

産業医科大学衛生学講座は、昭和534月の開学と同時にその歴史を始めました。九州大学医学部衛生学教室の児玉 泰先生が初代教授に就任され、以後18年間にわたる就任中に当講座の基盤が形作られました。平成88月から川本俊弘教授が第2代教授として昇任し、講座が発展してきました。平成244月には衛生学講座から産業衛生学講座と名称変更し、平成31年4月、第3代教授に辻 真弓教授が昇任し、機に衛生学講座と名称変更しました。。当講座では教授を中心にスタッフ一同、産業医学・環境医学の教育・研究分野において精力的な活動を展開しており、指導を受けた教室員は産業医学・環境医学の様々な分野の第一線で活躍しています。

 

産業医学教育における衛生学教室の目的 

産業医は快適な職場環境の形成を促進し、職場における労働者の健康障害を予防するとともに心身の健康を保持増進することを目指した活動を遂行する責務があります。しかしながらヒトと環境要因の関連について十分な認識がなくては、医学が目的とする疾病の予防、健康の増進は達成できません。実験衛生学の礎は「近代衛生学の父」「実験衛生学の父」と呼ばれ、ドイツ初の衛生学講座を設立してその教授を務めたマックス・ヨーゼフ・フォン・ペッテンコーファーやロベルト・コッホらによって築かれました。ペッテンコーファーは緒方正規や森鴎外のドイツ留学時代の恩師であり、日本の衛生学に大きな影響を与えた研究者です。19世紀の衛生学者達は大気、水、土壌と人の健康とのかかわりを重視し、疾病の予防や衛生行政の発展に貢献しました。21世紀を迎えた今日も人口の都市集中化や産業の発達・産業構造の変化が次々と多くの問題を生み出しています。近年の環境汚染や職業病などはその一例といえるでしょう。よって産業医は基本的な医学知識・技能のみならず、産業医学の実践者として産業化が進んだ現在そしてさらに進んでいく将来を常に考えながら、自然環境、人工環境、労働環境における諸問題に関しての基礎知識や生体影響に関する専門的知識に精通しておく必要があります。衛生学講座は未来の産業医である医学部生たちに講義、実習を通してそれらの知識を教育することを目的として産業医学教育を行っています。

 

衛生学講座の教育内容例

産業医科大学医学部の教育は、「総合教育」、「医学基礎」、「基礎医学」、「臨床医学」に加えて、「産業医学」の5区分から成り立っています。特に産業医学は目的大学である産業医科大学独自のものであり、1年次から6年次にかけて246時間の授業があります。衛生学講座は、「基礎医学」に区分される「衛生学」に加えて、2年次の「産業医学概論」、3年次の「産業医学各論1」を担当しています。さらに教授は産業医学履修内容検討小委員会委員長として、5年次の「産業医学現場実習」、6年次の「職業性関連疾患」の科目担当責任者を務めており、「産業医学」教育の中心的役割を担っています。講義や実習を通して、職業因子にとどまらず環境因子や社会因子が健康に与える影響について理解し、医師としてそして産業医として総合的に考えることができるように指導しています。

 

研究活動

 衛生学講座は「産業現場」と「実験室」の有機的結合を目指しています。すなわち、産業現場の問題を実験室で解決し、実験室での研究結果を産業現場で応用することです。当講座ではこの趣旨にのっとり大きく3つの研究をしています。1つは職場での化学物質曝露評価に関する研究です。産業界では様々な物質が使用されており、アレルギーを引き起こす感作性化学物質も存在します。当講座では独自に診断用抗原を作製し、数種類の化学物質特異的抗体の有無を同時にかつ迅速に調べる方法を開発し、産業現場において実態調査を実施しています。

 次に、当講座が世界に先駆けて作製したAldh2ノックアウトマウスを用いた研究です。お酒が飲めない人の代わりにこのモデル動物へ労働現場で使われる物質を投与することにより、ヒトには投与できない有害物質への遺伝的感受性の違いを明らかにすることができます。

最後に環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」への参加です。環境省では日本中で10万組の子どもたちとそのご両親に参加していただく大規模な疫学調査「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を平成23年から開始しました。赤ちゃんがお母さんのお腹にいる時から13歳になるまで、定期的に健康状態を確認させていただき、環境要因が子どもたちの成長・発達にどのような影響を与えるのかを明らかにします。教授はエコチル調査のコアセンター長としてエコチル調査を統括しています。当講座も産業医科大学サブユニットセンターと共同でエコチル調査に参加し、未来の小児の健康を守るべく日々調査活動に邁進しています。

 

おわりに

 産業医科大学医学部衛生学教室では、これらの活動を通じて産業医学および日本の医療に少しでも貢献できるようにスタッフ全員で精進を続けております。また大学院生をはじめ、一緒に活動に参加してくれる方々をいつでも歓迎いたします。