職業性中毒学 研究内容

化学物質の中枢神経毒性の評価

【曝露モデル動物の神経行動学的表現型の評価】マウス、あるいはラットを用いて化学物質の急性あるいは慢性曝露モデル動物を作製し、以下に挙げるような行動実験系を用いてその神経行動学的表現型を調べ、化学物質の中枢神経毒性を評価している。

探索行動・不安情動 短期記憶 うつ様行動(意欲の低下)
ホームケージ活動試験 新奇物体探索試験 強制水泳試験
オープンフィールド試験 自発交替行動試験 尾懸垂試験
明暗選択試験 受動的回避試験  
ガラス玉覆い隠し試験    
社会的行動試験    

【神経伝達物質受容体機能への影響評価】化学物質の中には神経伝達物質受容体機能に対して直接的な作用を示し、その結果として神経情報伝達が変化することによる中枢神経学的影響を生じるものがある。本研究室では培養細胞、中でもアフリカツメガエル卵母細胞(Xenopus lasevis oocytes)への遺伝子導入により発現させたイオンチャネル内在型神経伝達物質受容体(リガンド依存性イオンチャネル、LGIC)の電気生理学的解析を行っており、興奮性神経伝達を担うNMDA/non-NMDA型グルタミン酸受容体、神経型ニコチン性アセチルコリン受容体、あるいは抑制性神経伝達を担うGABAA受容体、グリシン受容体といったLGICの機能に対する化学物質の直接作用に対する毒性評価を行っている。さらにヒトiPS細胞由来神経細胞を用いてのin vitro中枢神経毒性評価システムの構築を目指している。

化学物質の心毒性作用の評価(特に催不整脈作用について)

わが国の心臓性心肺機能停止数は年間約7万件に上り、また米国では職場で発生した事例とされるものが年間約1万件との報告がある。心臓突然死の原因として主なものは虚血性心疾患であるが、次に多いとされているのが致死性不整脈である。わが国の産業分野で使用されている化学物質の数は60,000種類を超えるといわれ、さらに近年では毎年1,000種類以上の物質が新規化学物質として製造・輸入されるようになっている。しかしながらこれら化学物質の催不整脈リスクについての評価は遅れており、その曝露による不整脈発生、ひいては心臓突然死の発生といった労働者にとっても重大となるリスクを評価することは重要と考えられる。本研究室では有機溶剤を中心とした化学物質が心臓突然死とどの様な関連があるのか、特にその不整脈発生のリスク評価とそのメカニズムの解明を目的として、曝露モデル動物や培養細胞、さらにはヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて解析し、その評価系の確立を目指している。

ナノ粒子の細胞傷害活性、および蛋白結合能についての検討

 本研究室ではナノ粒子の細胞傷害活性について、主にヒト正常赤血球を用いた溶血能による評価を行っている。特に二酸化チタン(TiO2)ナノ粒子の場合は、哺乳動物系培養細胞株を用いたLDHアッセイやMTTアッセイによる評価と比べ溶血能による細胞傷害活性の評価の方が感受性も高く、これまでにTiO2ナノ粒子には溶血活性があり、その強さは粒子サイズにより異なることを見出している。また、TiO2ナノ粒子はヒト肺がん由来 A549 細胞に対して炎症反応(インターロイキンIL-8の産生)を誘導するが、この反応は従来報告されているNF-κBに依存していないことが判明し、現在その機序を解明中である。さらにナノ粒子が示す溶血能と赤血球細胞膜に存在する細胞骨格蛋白との結合との関連の検討、およびその結合蛋白の同定を目的として、TiO2ナノ粒子やニッケルナノ粒子を中心に解析している。

(更新日:2013年11月22日)