第1病理学 研究内容
研究テーマ
第1病理学教室ではヒト腫瘍、特に骨軟部腫瘍を中心に諸臓器における腫瘍の病理組織形態と生物学的特性の解析を主な研究テーマとしています。
1.ヒト骨軟部腫瘍の臨床病理学的ならびに分子遺伝学的解析
2.消化器系癌(膵癌など)の臨床病理学的研究
3.職業性肺疾患および職業癌の組織病理学的研究
・キーワード:骨軟部腫瘍、遺伝子、染色体、病理学
骨軟部腫瘍とは
主に骨および骨格外の非上皮組織(筋、皮下脂肪など)に発生する中胚葉(一部神経外胚葉)組織が起源と考えられる腫瘍で、その発生頻度は概して低いにもかかわらず極めて多彩な組織型・亜型が存在しています。発症年齢は主に小児に発生するものから中・高齢者により多く生じる腫瘍までと幅広く、また生物学的態度も良性の腫瘍ないし腫瘍様病変をはじめ、良悪性中間的腫瘍、さらには悪性腫瘍(肉腫)と多岐にわたっています。腫瘍の組織型によって治療方針や患者さんの予後が大きく異なるため正確な病理診断が重要になりますが、先のような理由で病理診断が一般に困難な分野の一つとされています。近年染色体・遺伝子解析技術の進歩とそれによる知見の集積により、骨軟部腫瘍の中に特定の染色体相互転座や環状染色体などの異常やそれらによって構成される融合遺伝子(キメラ遺伝子)をもつ腫瘍が少なからず存在することが明らかになってきています。それらの染色体・遺伝子の異常は腫瘍の組織型に比較的特異的に検出され、また腫瘍における発生要因の有力な候補と考えられています。一方、それらの腫瘍特異的な異常に着目し、RT-PCRやFISHなどの技術を用いて腫瘍診断への応用が試みられています。当教室では多彩な骨軟部腫瘍を収集して詳細な形態学的解析を行うと共に、腫瘍特異的染色体・遺伝子異常の検出法の腫瘍診断への応用性について検討を行っています。
軟部腫瘍診断の一例
腹直筋内に生じた6cm大の腫瘍。手術検体では、境界明瞭な白色の結節性病変が腹壁脂肪組織内に認められる(左上)。組織学的には、紡錘形細胞が粘液に富む粗な部分と線維に富む密な部分とが混在して増殖している(右上)。本腫瘍に対し、RT-PCR法による遺伝子検索(左下)および遺伝子産物のシークエンシング(右下)を行い、本腫瘍がFUS-CREB3L2融合遺伝子を有する、低悪性度線維粘液肉腫(Low-grade
fibromyxoid
sarcoma)であることが確認された。
実施中の研究
課題名:ヒト間葉系腫瘍に対する新規診断マーカーの探索(臨床研究倫理申請承認:第19-065号)
実施責任者:教授 久岡 正典
概要:ヒトの間葉系腫瘍は極めて種類が多く、また、同じタイプの腫瘍であっても部位によって形態に多少とも違いが見られ、多様性に富むことから、その形態学的特徴に基づいて行われる病理診断は容易ではない。腫瘍の組織形態における特徴の把握と解析においては標本を観察する病理医の特段の熟練と知識を要するため、病理医の力量によって診断の精度に差を生じやすい。しかしながら、間葉系腫瘍の病理診断に精通した病理医は国内に限られており、また、そのような専門性を持った病理医を養成するには多くの時間と経済的負担を要することもあって充足が困難である。したがって、従来の伝統的な形態学的観察とその分析に加え、初学者でも利用が可能であって診断の際の客観的指標ともなりうる「診断マーカー」が模索されている状況である。本研究では、日常の病理診断に難渋することの少なくない間葉系腫瘍の形態学的特徴づけに利用できる診断マーカーを新たに見いだすことを目的し、腫瘍の分類上一般的な基準である腫瘍細胞の分化に関わる種々の遺伝子産物(タンパク・RNA)を候補に検索を行う。また、それらの検出には本学で実施可能な免疫組織化学及びfluorescence in situ hybridization (FISH)、reverse transcription-polymerase chain reaction (RT-PCR)を主な手法として用いる。本研究により種々の間葉系腫瘍の診断マーカーを新たに見いだすことができれば、その成果は日常の病理診断に応用され、より迅速で正確な腫瘍診断が可能になることが期待される。
課題名:異型脂肪腫様腫瘍から脱分化型脂肪肉腫への脱分化の分子機序解明
(倫理申請承認:第H30-171号)
実施責任者:第一病理学助教 柴 瑛介
概要:ヒトの四肢や後腹膜などの軟部組織に好発する脱分化型脂肪肉腫は異型脂肪腫様腫瘍が「脱分化」きたすことにより発生するとされている。異型脂肪腫様腫瘍はしばしば局所再発するものの遠隔転移しない中間悪性型腫瘍である一方、脱分化脂肪肉腫は遠隔転移しうる悪性腫瘍であるため、脱分化は臨床的にも重要な現象であるが、その分子機構はほとんど分かっていない。本研究は脱分化現象の分子機序を解明することを最終目的とする研究である。異型脂肪腫様腫成分ならびに脱分化型脂肪肉腫成分それぞれからRNAを抽出して次世代シーケンス解析を行う。それぞれにおける発現を比較することにより脱分化機序に重要と考えられる因子を見出す。
期間:2018年12月〜2023年3月
課題名:ヒト間葉系腫瘍における抗キメラタンパク質抗体の開発と診断への応用
(臨床研究倫理申請承認:第21-011号)
実施責任者:第一病理学助教 柴 瑛介
概要:骨軟部腫瘍に特異的に認められる融合遺伝子とその産物であるキメラ蛋白質の検出は病理診断において重要である。その検出手法としては、分子遺伝学的検査が主に用いられるが、専用の設備や高価な試薬、煩雑な手技が要求され、実施できる施設や機会が限られている。本研究ではより簡便で汎用性のある免疫染色を用いたキメラ蛋白質の検出を試みる。融合遺伝子を有する間葉系腫瘍において、キメラタンパク質を特異的に捉える抗体を新たに作製し、実際の診断の場で活用できるかを検証する。
期間:2021年4月〜2024年3月
※被験者へのお知らせ2 (PDFファイル : 397KB)
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更新日:2021年4月21日
文責:第1病理学