産業医科大学病院改革プラン
令和6年6月25日 制定
はじめに
産業医科大学は、「医学及び看護学その他の医療保健技術に関する学問の教育及び研究を行い、労働環境と健康に関する分野におけるこれらの学問の振興と人材の育成に寄与する」という本学の寄附行為及び学則で定められた「目的・使命」のもと、政策目的大学として1978年に設立された。
産業医科大学病院は、医学部の教育・研究に必要な附属施設として大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)第39条に基づき、設置されている。
当院は、1979年に診療を開始した北九州地区唯一の大学病院であり、特定機能病院として幅広く質の高い医療を提供するとともに、地域の基幹病院として地域がん診療連携拠点病院、福岡県総合周産期母子医療センター等多くの指定を受け、北九州地域の高度急性期医療の中核を担い、安全かつ質の高い医療の提供を続けている。
また、令和5年8月には急性期診療棟を開院し、その機能を全面的に発揮して、進歩する医療技術と変化する医療環境に柔軟かつ積極的に対応し、さらなる地域医療への貢献を実現することとしている。
産業医科大学病院は、以下の理念及び基本方針を掲げている。
理 念
- 患者第一の医療を行います。
- 科学的根拠に基づく安全かつ質の高い医療を提供します。
- 人間愛に徹した優れた産業医と医療人を育てます。
- 職種・職位・部門の垣根なく高い倫理観を持って互いの意見を尊重し、 患者と職員の安全・安心に努めます。
基本方針
- 患者の尊厳とプライバシーを守ります。
- 患者と診療情報を共有し、治療方針の選択に当たりその意思を尊重します。
- 院内各診療科・職種間の連携を密にし、質の高いチーム医療を行います。
- 地域の医療機関と連携し、地域のニーズにあった医療を提供するとともに難病治療・高度先進医療を目指します。
- 臨床研修・実習及び生涯教育の充実を図り、産業医をはじめ全ての分野における人間愛に徹した優れた医療人を育てます。
- 職業性・難治性疾患の病因を解明し、新しい診断・治療法を開発するなど独創性の高い研究を行います。
このような理念及び基本方針のもと、専門性の高い高度な医療人を養成するために、臨床教育をはじめとした実践的かつ理論的な教育環境を提供しており、次世代の医療人が高度な専門知識と技術を身につけ、医療の現場で即戦力として活躍できるよう支援している。
産業医科大学病院改革プランは、本学が策定した本学の将来計画である「産業医大未来構想2040(長期ビジョン)(対象期間:令和3年度~令和23年度)」及びこの内容を具体化する「第4次中期目標・中期計画(対象期間:令和4年度~令和9年度)」に基づき、そして、文部科学省から示された「大学病院改革ガイドライン」、同じく文部科学省に申請した「高度医療人材養成事業(大学病院の環境整備)」、「高度医療人材養成拠点形成事業」の内容を踏まえ、産業医科大学病院が地域の基幹病院としての責務を、今後も安定して果たしていくことを目的として策定するものである。
産業医大未来構想 2040 ~長期ビジョン~ (将来構想)
1 産業医科大学における未来構想(将来計画)について
産業医科大学は、「産業医学の振興と優れた産業医・産業保健専門職の養成、質の向上」を目的とする我が国唯一の大学である。
また、産業医科大学病院は、北九州医療圏で唯一の特定機能病院であり、最大の病床数を誇っている。
このような本学の特色や強みを活かし、その「目的・使命」を達成し続け、永続的に発展していくため、2021年に20年の長期ビジョンを策定し、「産業医大未来構想2040」と呼称する。
今後も、産業医学・産業保健分野の第一人者としての知見を社会に還元し、本学が今まさに果たさなければならない使命を力強く担っていくため、今後20年間にわたるビジョンを掲げている。
◆ 期間 2021年(令和3年)4月1日
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2041年(令和23年)3月31日
◆ 全体ビジョン
- 社会経済の構造変化に合わせ、課題を的確に把握し、社会から求められる大学、存在感のある大学として、本学の役割を認識し、永続的に発展する。
- 本学の強みである産業医学・産業保健に関する知識・経験の蓄積を基盤とした教育、研究、診療の提供により、広く社会に貢献する。
- 産業医学・産業保健と複数分野の協働により、産業医学・産業保健分野において、世界の中心的な学術拠点であり続ける。
- すべての教職員が、本学に所属することの誇りを持ち、次世代の産業医及び産業保健専門職の継続的養成を実践する。
- すべての働く人に産業医学・産業保健を届けるための、教育、研究、診療、社会貢献及び大学運営を行う。
2 産業医科大学病院における未来構想
産業医学・産業保健を推進する教育機関であり、高度で先進的な医療を行う特定機能病院である産業医科大学病院と産業医科大学若松病院が共同して、地域社会における基幹病院としてあり続ける。
そして、今後の社会経済構造・疾病構造・就業構造の変化に対応した診療体制を構築する。
(1)職業関連疾患専門医療機関としての先進的医療の提供
① 職業関連疾患に関する最先端の診断・治療を行うとともに予防策を策定し、就業・就学との両立も含めた全人的医療を提供する。
② 社会構造の変化に対応し、また、高齢者・障害者も就労できる取組を支援することにより、働きたい人々が持てる力を最大限発揮できる社会を追求する。
③ 我が国における職業関連疾患に特化したセンター機能の充実を図る。
(2)特定機能病院としてふさわしい高度で最先端かつ安全な全人的医療の提供
① 北九州市で唯一の特定機能病院、そして「医療の最後の砦」として、先進的医療及び地域のニーズに柔軟に対応した全人的医療を提供する。
② ビッグデータやAIを活用し、エビデンスに基づいた安心・安全で、より適切な診断・治療を提供できるシステムの構築を目指す。
③ 最先端の医療を提供し続けるため、診療分析と収益構造の継続的見直しを徹底することにより、安定した病院収益を確保する。
(3) 地域の人々が安心できる地域基幹病院としての医療体制構築
① 感染症を含む未曾有の災害に備え、必要な先進的医療を過不足なく提供する体制を、福岡県、北九州市及び周辺の医療機関と協力して構築する。
② 全年齢層において、ライフデザインサポートも念頭に置いた、切れ目のない医療を目指し、連携医療機関・かかりつけ医・介護施設等との強固な連携を構築する。
(4)人間愛に満ちた医療人の育成
① 大学病院及び若松病院の存在意義を認識し、高い倫理観を持った人間性豊かな医療人を育成する。
② 全人的医療を提供するための医学知識及び医療技術を普及し、発展させる人材を育成する。
改革プラン(期間:令和6年度~令和11年度)
(1)運営改革
① 自院の役割・機能の再確認
1)医学部の教育研究に必要な附属施設としての役割・機能
医学部では大学の「目的・使命」を達成するため、教育研究上の目的として「働く人々の健康と環境に医学の眼でアプローチする産業医は、産業の発展と活性化を支える意味からも、21世紀において極めて重要な役割を担っている。医学部では、医学を産業社会の中でより深く、より広い視野から考えることのできる人間性豊かな産業医を養成すること」を掲げており、医学教育に取り組んでいる。
これらの目的を達成するために、3つのポリシー(ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシー)を策定し、高い倫理観及びコミュニケーション能力を備えた人間性豊かな産業医・産業保健専門職の養成を行っている。
医学部ではこれらのポリシーに基づいたカリキュラム体系のもと進行している(下図)。
臨床医学教育については、4年次からの臨床実習等を大学病院等で行うほか、1年次から早期臨床体験実習Ⅰにおいて、大学病院の各診療科で1週間の体験実習を行っている。入学後早期に多職種の連携による医療の現場に参加し、各職種の役割を理解することでチーム医療の重要性を理解することを目的としている。高学年ではすべての臨床講座を網羅した臨床実習を大学病院において実施するとともに、大学病院及び関連・協力病院において診療参加型臨床実習を行い、臨床的知識を深め実践的技能と臨床推論能力の修得を目指している。
臨床実習は、主に産業医科大学病院(674床)、産業医科大学若松病院(150床)のほか、地域の協力病院で行っている。本学医学部は産業医の養成を使命としているが、その前提として共用試験、医師国家試験に合格することが前提であり、大学病院は、より質の高い実践力を備えた医師を教育する役割がある。そのため、臨床実習をさらに充実させる必要があることから、臨床実習を支援するスタッフを新たに配置して、医行為経験率の上昇を図っていく。
また、文部科学省の「高度医療人材養成事業(大学病院の環境整備)」により導入した手術支援ロボット「ダヴィンチ」を活用し、診療参加型臨床実習(第1外科学、第2外科学、泌尿器科学、産科婦人科学)の環境の充実を図る。
医薬品及び医療機器の臨床試験(治験)及び臨床研究の推進を図ることを目的として大学病院に設置している臨床研究推進センターを中心に、さらに治験及び臨床研究を推進し、今後も医療の発展に貢献する責務を果たす。
2) 専門性の高い高度な医療人を養成する研修機関としての役割・機能
初期臨床研修医の定員数増加を目指すため、積極的な採用活動を実施するとともに、初期臨床研修の受入環境及び魅力的なカリキュラムの整備を行い、高いマッチング率及び定員充足を目指す。
専門研修プログラム基幹施設として高度な専門研修プログラムを実施するとともに、先進医療に対応できる医師の育成に必要な環境整備を図り、福岡県内外の連携施設を確保する。
医学部においては、卒後教育として産業医としての資質向上、より高度な専門性を持った産業医を養成する目的として産業医学卒後修練課程(専門産業医コースⅠ:産業医学分野における専門的知識及び技術を有する産業医等を養成、専門産業医コースⅡ:臨床医学分野における専門的知識及び技術を有する産業医等を養成)を設定している。
修練中などの若手医師に対して、文部科学省の高度医療人材養成事業により導入した手術支援ロボット「ダヴィンチ」を用いた手術件数増、対象症例の拡大による臨床教育及びロボット支援手術のシミュレーション操作トレーニングを行うことにより、医療の高度化に対応し、医療の質及び安全を確保するための医師が取り組む姿勢を学び、プロフェッショナリズム教育にも貢献することが期待できる。
看護職及び医療技術職については、人材育成を目指して、高度かつ専門的な医療知識・技術が取得できる研修体制を整備している。
看護職については、特定行為看護師、認定看護師及び専門看護師の増加を推進するため、資格取得費用の病院負担等の施策を今後も継続する。
特定行為看護師は、既に術中麻酔管理領域等での活動を開始しているが、領域、人数ともに増加を図っていく。
医療技術職については、医師からのタスクシフト及びスキルアップに対応した技能研修等の受講を病院負担で実施する等の施策を継続して行う。
3)医学研究の中核としての役割・機能
本学の特色ある診療領域として、難治性自己免疫疾患領域では、病態メカニズムに立脚した新規分子標的治療薬の開発、プレシジョンメディシンへの応用などの実績があり、世界でこの分野の研究を牽引している。次に、呼吸器外科領域では、肺癌・悪性胸膜中皮腫の治療予後や手術補助療法の効果を予測するバイオマーカーの研究を行っており、世界に先駆けて、肺癌や悪性胸膜中皮腫における循環腫瘍細胞(CTC)の臨床的意義を検討している。さらに、呼吸器感染症領域については、我が国の成人肺炎診療ガイドライン2017および2024に掲載されている原因菌の疫学の基盤となる基礎・臨床研究を行っており、本邦でのこの分野の研究を牽引している。
また、治験については、大学病院という専門性を活かし、希少疾患や専門的治療を要する疾患に関するグローバル治験を中心に常時70~80件実施している。
引き続き、本学の特色ある診療領域を中心として臨床研究を推進するとともに、グローバル治験の積極的な受託を行うために、臨床研究推進センターに配置する研究支援スタッフを拡充し、研究支援体制の強化を図る。加えて、RA(リサーチ・アシスタント)制度を導入し、研究者の負担軽減を図るとともに、所属や分野の垣根を超えた横断的な研究参画、議論の場を提供し大学院生の研究遂行能力を涵養する。
RA配置については、令和6年度試行開始とし、令和7年度から制度導入のうえ従事する大学院生を拡充していく。
なお、これらのスタッフ配置については、「令和6年度
大学教育再生戦略推進費 高度医療人材養成拠点形成事業(高度な臨床・研究能力を有する医師養成促進支援)」に申請しており、採択結果により必要に応じて見直しを行うこととする。
4)医療計画及び地域医療構想等と整合した医療機関としての役割・機能
産業医科大学病院の属する北九州医療圏においては、今後、人口の一定の減少がみられるが、受療率の高い高齢者が増加すること、他医療圏からの患者流入が生じている状況を踏まえると、当分の間は本医療圏の医療需要が大幅に減少することはないと見込まれている。本医療圏は全域において急性期医療機関が多いが、当院は主に医療圏西部の急性期診療を担うとともに、難病、希少疾患、高難度の手術症例等の他の急性期医療機関では対応困難な症例については医療圏全域をカバーしている。当院はとりわけ、北九州医療圏では不足している高度急性期医療を主軸とし医療を提供しており、地域の医療機関、介護施設等との機能分化・連携を密にした地域完結型医療を基本とした運営が地域における重要な役割であることから、今後も高度急性期病床を中心とした運営を推し進める。(現在稼働病床674床のうち、高度急性期病床595床)
当院の位置する医療圏西部地域は、医療圏内では人口が集中している地域であり、隣接する直方・鞍手、宗像医療圏からの流入もあることから、令和5年8月には急性期診療棟を開院しているが、手術室の増室(12室→17室)やリニアックの更新等による高度急性期診療機能を強化しており、今後もがん診療の拠点としての機能に加え、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病等、高齢化により増加する疾病における高度急性期医療の提供の強化を図る。
また、地域がん診療連携拠点病院、福岡県総合周産期母子医療センターのほか、地域型認知症疾患医療センターや福岡県エイズ診療中核拠点病院等の行政等からの要請による医療体制の整備にも対応するとともに、地域の医療機関や介護施設等への情報提供や啓発等も継続して行う。
なお、地域医療構想の実現のためには、地元医師会との関係強化が重要であるため、病院長は地元医師会の役員としても活動している。
医療従事者の働き方改革としては、医師事務作業補助者の配置、特定行為看護師の人数、領域の増等による医師業務のタスクシフトと併せて、準夜勤帯への看護補助者の配置等の施策も継続して実施する。
医師偏在対策として、北九州医療圏の医師確保の方針としては、医師多数区域であることから、本医療圏内で医療施設に従事する医師の定着を通じた医師確保に取り組むことになっており、大学病院として、地域医療機関への医師の安定的な派遣等により地域医療を支えていく。
5)その他自院の果たすべき役割・機能
産業医学の研究を通じて、労働者の健康管理、職業病、産業中毒等の予防や診療、メンタルヘルス、リハビリテーション医学、地域完結型医療等を推進し、産業医学と地域医療との有機的な結合を図ることを目指している。
産業医科大学は、産業医を輩出する国内唯一の大学である。産業医は、企業に勤める労働者の健康と安全を守るスペシャリストであり、従業員50名以上の事業所に産業医を配置することが法律で義務付けられている。
所属する医師の大半が産業医経験者という当院ならではの特徴を活かし、臨床機能として「就学・就労支援センター」及び「両立支援科」を大学病院に、教育・研究機能として「医学部両立支援科学講座」を大学に、「両立支援室」を急性期診療棟に設置し活動しており、今後も、臨床としての患者の就労支援や就労先の産業医との連携と、臨床から得られた知見等を基にした教育・研究を実施する。
また、当院は特定機能病院として平常時より高度の医療の提供を行っているが、加えて災害拠点病院として、被災後、早期に診療機能を回復できるよう、BCP計画(業務継続計画)の策定を行っている。
大規模広域災害発生時には、このBCP計画に基づき、八幡地区、若松地区をはじめとする北九州医療圏西部地域において、福岡県災害対策本部、北九州市災害対策本部、福岡県医師会、北九州市医師会、遠賀・中間医師会、他の災害拠点病院と連携し、被災地内の傷病者等の受け入れ拠点となる。重症患者等に適切な医療を提供するほか、地域医療機関の支援を行うための体制を整備し、医療救護活動を担っていく。
② 病院長のマネジメント機能の強化
1)マネジメント体制の構築
病院運営の方針を決定する病院運営会議(週1回)の審議・報告事項については、診療科長会議及び医長連絡協議会(いずれも月1回)において、病院長から情報伝達を行っている。なお、これらの会議には、毎月の病院の収支、経営状況に関する資料を提示している。
病院長と各診療科との面談を行い、各診療科の状況把握、稼働や収支向上に向けた具体策の相談等に基づく効果的な病院運営を図っており、面談の際は、DPCデータの分析によるより詳細な科別の運営状況の把握ができるようにしている。病院収支を改善するため各診療科において目標値を設定し、状況を定期的に確認しPDCAを回すとともに経営を意識した運営を促している。
また、医療安全面では、毎週の医療の質・安全管理部定例会議に病院長も出席し、病院長が病院の経営・運営の重要事項を把握する体制となっている。
2)診療科等における人員配置の適正化等を通じた業務の平準化
診療実績や今後の医療需給、周辺医療機関の医療機能等に対応した医療職全般の人員配置や、人員が不足しがちな診療科への医師配置等についての検討が必要であり、このための分析を開始している。分析後、今後の病院運営方針について、法人や大学と協議し、具体的な人員配置等を見直すことも検討する。
3)病床の在り方をはじめとした事業規模の適正化
診療実績や周辺医療機関の医療機能の変動による医療需給の増減等に対応した病床の有効活用のため、病床配分数見直しの基準を作成し、定期的に病床数の見直しを実施している。
また、令和6年4月から、人口推移による医療需給、医療圏内の他の医療機関との機能分化を勘案した設備投資や人員配置等の検討のための分析を開始している。中長期的な人口推移や医療需給等を踏まえた継続的な経営方針の検討も行う。なお、今後も必要に応じて、福岡県、北九州市、関係医師会等との事前の協議・調整を行っていく。
4)マネジメント機能の強化に資する運営に係るICTやDX等の活用
病院経営情報分析システムを活用し、病院全体あるいは診療科別に主要指標の推移の確認や診療分野別の地域における自院の立ち位置の可視化等の資料の提供等を適宜、病院長及び各診療科等に行っている。
③ 大学等本部、医学部等関係部署との連携体制の強化
意思決定、権限執行等について、中期目標等の大学運営の方針や関係法令に基づき、大学等本部の最高意思決定機関として理事会を、また理事会の下に、常態的な意思決定機関として学内役員会を置いている。病院長は、理事会の構成員である理事となっており、学内役員会の構成員でもあり、大学全体の課題を共有・議論し、大学病院の意見を反映し連携体制の強化を図っている。
また、医学部臨床講座の教授は大学病院の診療科長を兼ねており、大学では大学運営会議、教授会、病院では病院運営会議、診療科長会議において、学内の施策、財務情報、課題等の共有を行っている。
④ 人材の確保と処遇改善
医療従事者等の安定的な確保を図り、大学病院が担う教育・研究・診療の質を担保するとともに、大学病院の役割・機能を維持するため、人事院勧告や診療報酬改定等の動向を踏まえて、医療従事者等の勤務環境、処遇の改善を検討する。
急性期診療棟の開院に併せて、手術件数増に対応した人員増を行ったが、今後も診療分野の拡大や患者増に対応した人員の増を検討する。
(2)教育・研究改革
① 臨床実習に係る臨床実習協力機関との役割分担と連携の強化
現行カリキュラムは、令和元年度入学生から適用され、臨床実習については、共用試験OSCE及びCBT合格後の4年次1月から5年次12月までの40週を見学型実習、5年次12月の本学の特色の一つである産業医学現場実習(1週間)後の5年次1月から6年次7月までの23週を事業協力機関と連携し、診療参加型臨床実習を行っている。
診療参加型臨床実習においては、産業医科大学病院、産業医科大学若松病院をはじめ、学外臨床実習協力機関(5施設)で実施している。
今後、学外臨床実習協力機関を増やすことや学内実習の一部を委託することを検討していく。
② 臨床研修や専門研修等に係る研修プログラムの充実
産業医科大学病院臨床研修プログラムは 「医師として社会人としての人格を涵養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学および医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、日常診療において頻度の高い症状や疾病に適切に対応できる基本的診療能力を身につける。」という理念のもと運営している。
プログラムの特徴として、産業医科大学病院を基幹型臨床研修病院として、協力型病院と共同して臨床研修を実施し、プライマリケアを中心に幅広く医師として必要な基本的知識、技能、態度などの診療能力を修得するとともに、希望に応じて産業医として活躍できるための基礎的な研修も行う。
初期臨床研修医の増加を図るため、積極的な採用活動を実施するとともに、初期臨床研修の受入環境及び魅力的なカリキュラムの整備を行っている。
また、専門研修プログラム基幹施設として、高度な専門研修プログラムを実施するとともに、先進医療に対応できる医師の育成に必要な環境整備を図り、福岡県内外の連携施設を確保する。
③ 企業等や他分野との共同研究等の推進
産業界、他大学及び行政等の外部機関との連携・協力を促進し、発明をブラッシュアップするための共同研究・受託研究の受入れや社会実装を支援する公的研究費の公募申請を積極的に行うとともに、知的財産の技術移転を推進することにより社会に貢献する。また、本学の特色ある研究を推進し、社会や産業界のニーズに応じた研究に積極的に取り組む。
他分野との共同研究については、研究奨励制度として学内公募による産業生態科学・病院共同研究助成(令和8年度まで)及び産業医学・産業保健重点研究助成を設けている。特に、産業生態科学・病院共同研究助成については、研究費助成の側面だけではなく、産業医学と臨床医学のコラボレーション研究として大学全体の研究活動が活性化し、新たな視点での研究成果の創出が期待されるため、令和9年度以降の助成制度の継続、拡充を検討する。
④ 教育・研究を推進するための体制整備
1)人的・物的支援
本学の特色ある診療領域を中心として臨床研究をさらに推進し、グローバル治験の積極的な受託を行うために、臨床研究推進センターに配置する研究支援スタッフ(治験コーディネーター(CRC)、データマネージャー、研究業務補助スタッフ等)の拡充を検討するとともに、RA制度を導入し研究支援体制の強化を図る。
研究支援スタッフの拡充及びRA配置により、医師の負担を軽減し、教育研究に従事する時間の増加を目指す。また、RAとして従事する大学院生には、所属や分野の垣根を超えた横断的な研究参画、議論の場を提供し、研究遂行能力を有する研究者を育成する。
また、教育支援者及び臨床実習における医行為支援スタッフの配置を検討し、現場の医師の負担軽減を図るとともに、医学生の臨床実習前及びシミュレーション教育の充実と臨床実習で経験する医行為数、種類を増加させ、質の高い実践力のある医師を養成する。
なお、これらのスタッフ配置については、「令和6年度
大学教育再生戦略推進費 高度医療人材養成拠点形成事業(高度な臨床・研究能力を有する医師養成促進支援)」に申請しており、採択結果により必要に応じて見直しを行うこととする。
2)制度の整備と活用
研究推進のために次の取組を行っている。
〔研究助成制度〕
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産業生態科学・病院共同研究
産業医学の研究を行う産業生態科学研究所等と大学病院との教育職員による共同研究を推進して、その成果を学術誌で発表することにより、産業生態科学研究所等と大学病院の発展に貢献し、さらに大学全体の研究活動の活性化を図ることを目的とする助成制度 -
産業医学・産業保健重点研究
本学の若手研究者に対する産業医学・産業保健研究の奨励、産業医または産業保健技術職として産業保健活動に従事する卒業生との連携による産業医学・産業保健研究の奨励を目的とし、本学教員に研究費を配分する制度
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〔バイアウト制度〕
「学校法人産業医科大学競争的研究費支出による研究以外の業務代行制度(バイアウト制度)」を令和3年度に定めている。
〔RA制度導入〕
RA配置は令和6年度試行開始とし、令和7年度から制度導入のうえ従事する大学院生を拡充していく。
〔制度創設の検討〕
研究のさらなる促進のため、以下の助成制度を今後の予算状況に応じて創設することを検討する。
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科研費不採択(A評価)への研究助成
科研費採択に至らなかった研究者に対して研究費を助成することで、研究への意欲、モチベーションを高め、翌年度以降の科研費獲得を支援する。
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科研費不採択(A評価)への研究助成
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若手研究者への研究費助成
若手研究者に対する産業医学・産業保健・基礎医学・臨床医学研究の奨励及び海外での学会発表等に係る出張旅費を一部支援する。
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若手研究者への研究費助成
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⑤ その他教育・研究環境の充実に資する支援策
教育・研究用機器備品の更新については、耐用年数に到来し使用頻度が高く劣化が著しいもの、技術進歩により陳腐化が著しく、他に代替えできる機器備品がないため教育・研究に支障があるなど、各講座等に機器更新の必要性に関するアンケートを実施し、アンケート結果を基に、学内で構成された「教育・研究用機器整備調整委員会」において審議している。
(3)診療改革
① 都道府県等との連携の強化
地域医療計画の策定段階では、医師会、行政との協議会等にはこれまでも参加しており、今後も必要に応じて参加する。
また、地域医療の提供のためには、地域の医療機関や医師会との密接な連携体制の構築も重要である。
なお、病院長は北九州市医師会の役員としても活動しているため、地元医師会との意思疎通を図ることで、より地域に密着した医療提供体制の構築への貢献を図る。
行政、医師会との協議会等に引き続き参加し、密接な連携体制を構築する。
② 地域医療機関等との連携の強化
地域全体で必要な医療サービスが提供されることを目指すため、より強固な地域連携体制の構築を目的に、急性期治療後、速やかに地域の中規模病院で回復期及び慢性期の治療を担当する連携システムとして、「コア・ネットワーク連携医療機関」を設定しており、13の中規模医療機関が参画している。
地域医療連携会の開催や診療科医師・連携室スタッフによる病院訪問を定期的に行い、「顔の見える連携」関係の構築や当院の最新情報の提供を図っており、これらの活動を北九州医療圏に隣接する医療圏に拡大している。
③ 自院における医師の労働時間短縮の推進
1)多職種連携によるタスク・シフト/シェア
令和6年4月から施行された医師の働き方改革に対応するため、本学で策定する医師労働時間短縮計画及び国のガイドラインに基づいた評価項目(88項目)を整理し、医療機関勤務環境評価センターによる評価を受審後、福岡県から特例水準の指定を受けた。
また、勤務計画書の作成、勤務実績報告、兼業時間の把握などとともに、タスクシフト/シェアの推進をはじめとする労働時間短縮に向けた以下の取組を今後も継続して行う。
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- 看護職、医療技術職による医師業務のタスクシフト(特定行為看護師の増、薬剤師の代行入力等)
- 医師事務作業補助者の配置充実
- 看護補助者、医療技術職による看護職業務のタスクシフト
- 医療技術職の病棟配置
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2)ICTや医療DXの活用による業務の効率化等
AI技術を用いた画像診断補助ソフトウェアによる読影業務の効率化、放射線画像の在宅での遠隔読影の他、汎用画像診断装置用プログラムJoinの導入により、院外での医療情報(CT画像等)の共有が可能となり、医師間での迅速な情報共有や上級医による居場所でのコンサルテーションが可能となる等の効果を得ている。
今後は、発展しつつあるAIによる診断支援システム、遠隔診療、病床管理情報等の院内情報の統合・活用システム、音声自動入力等、ICTの活用による業務効率化について、経営状況も考慮し活用を検討する。
3)その他医師の働き方改革に資する取組
特定労務管理対象機関として、B水準、連携B水準、C-1水準に指定された。(令和6年4月1日~令和9年3月31日)。指定の対象となる診療科について、引き続き労働時間削減に資する検討、労務管理を行っていく。
④ 医師少数地域を含む地域医療機関に対する医師派遣(常勤医師、副業・兼業)
北九州医療圏の医師確保の方針としては、医師多数区域であることから、本医療圏内で医療施設に従事する医師の定着を通じた医師確保に取り組み、大学病院として、地域医療機関への医師の安定的な派遣等により地域医療を支えていく。
(4)財務・経営改革
① 収入増に係る取組の推進
1)保険診療収入増に係る取組み等の更なる推進
第4次中期目標・中期計画において、病院収益の継続的見直しを徹底し、安定した病院収益を確保するため、以下の取組を推進する。
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- 病院収支を改善するため各診療科及び各部門において目標値を設定し、状況を毎月確認しPDCAを回すとともに、診療科別の収入、薬剤費等を適時提示し、経営を意識した診療科運営を促す。
- 病院長のマネジメントにより、必要な指導を行うとともに、各診療科の状況を把握し、効果的な病院運営を図る。
- 急性期診療棟開院を契機とした手術室増による手術件数増、個室配備による効率的な病床利用から、稼働率のさらなる向上等、増収実現に向け確実な取組を行う。
- 施設基準や保険請求を適切に管理・運用し、不備による返還金発生の防止や査定の削減に努める。
- 病床配分数の定期的な見直し、在院日数短縮、若松病院との症例・機能分化促進等による病床の有効活用、診療単価の向上を図る。
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2)保険診療外収入の獲得
急性期診療棟の開院に伴い特別療養環境室を94室から175室に整備したが、同室の運用状況について需要等の分析を進める。また、医療ツーリズムによる外国人受診の場合の診療単価設定、自由診療、文書料等の単価設定について、近隣医療機関の動向を参考に見直しを検討する。
3)寄附金・外部資金収入の拡充
医薬品及び医療機器の臨床試験(治験)並びに臨床研究(特に医薬品及び医療機器を対象とするもの)の推進を図っている。
治験受託件数増加のために、学内の各診療科代表者あてにさらなる依頼を行う等の対策により、治験受託件数の増加を図っている。また、臨床研究については、大学と共同で臨床研究審査システムの導入を行い、研究者の利便性の向上と臨床研究全般の推進を図っている。
また、将来にわたり、患者さんに最良かつ最先端の医療を提供するとともに、地域医療に貢献し、産業医科大学病院のさらなる発展を遂げるため、令和6年4月に継続寄附システムとしての「産業医科大学病院支援募金」制度を設けた。院内掲示や大学ホームページに掲載して広く周知し、引き続き広報活動の充実を図る。
② 施設・設備及び機器等の整備計画の適正化と費用の抑制
1)自院の役割・機能等に応じた施設・設備・機器等の整備計画の適正化
施設、設備については、急性期診療棟を令和5年度に開院し、手術室、周産期、急性期病床の整備を行った。今後はキャンパスマスタープラン2023に基づき、大学病院本館の全面的刷新となる大学病院Ⅱ期棟の建設を見据え、病院本館基幹設備の更新、改修の必要性を精査し、高度急性期診療を維持するための施設設備について、計画的な整備を図る。
医療機器については、診療機能維持のために必須な医療機器の計画的更新を今後も行うが、その必要性や管理手法(集中管理による台数抑制)については、適宜検討し、効率的運用と費用の抑制も図る。
今般、高度医療人材養成事業により手術支援ロボット「ダヴィンチ」の2台目を導入することとなり、さらに医療圏内のがん診療の向上のためリニアックの更新も行うこととしており、新規医療技術や先進医療レベルへの対応、地域医療の向上のための新規機器(医師の教育・技術習得も含めて)の導入・増設も検討し実施する。
2)3)費用対効果を踏まえた業務効率化・省エネルギー化に資する設備等の導入/導入後の維持管理・保守・修繕等も見据えた調達と管理費用の抑制
病院本館の施設設備の更新について、大学病院Ⅱ期棟建設時期を見据えて更新の有無を検討し、業務効率化・省エネルギー化の観点と更新後の維持管理費用まで含めた費用対効果を検討し、更新・維持管理費用の抑制を図る。また、更新の検討については、学内役員会等の審議を経て決定する。
医療機器の保守・修繕等について、保守費用が高額な放射線機器に関しては、複数の機器契約を集約することで費用を抑えることができる包括保守を利用している。また、既存の機器修理においては前回の履歴や値引き率などから価格交渉を行うほか、再リースを除くリース機器に関しては動産保険を活用している。
③ 医薬品費の削減
1)医薬品費の削減
ア 採用品目の厳格な選定
医薬品については、薬事委員会で審議し、選定・採用の有無を決定しており、同委員会の承認が無い限り使用はできない。また、採用にあたっては一増一減を原則としている。
後発品の採用は、先発品から後発品へ切り替えできるもの全てを対象として積極的に取り組んでおり、現在数量ベースで約90%の使用率である。後発品の選定は、切り替えた際の経済的効果、先発品に対する適応症の同一性、製剤的付加価値、他製品との類似性、安定供給などの項目を根拠に数種類を候補として薬事委員会で提示し、同委員会において決定している。
イ 医薬品の適正な管理と使用
医薬品はSPD管理としているため、院内在庫は最小限にすることが可能となっている。医薬品の破損・汚損・使用期限切れ・調製後の指示変更等により廃棄に至ったものは、薬剤部で状況把握しており、1件につき5万円以上の廃棄については、経緯と理由、改善案の内容を含む「高額薬剤破損報告書」が提出され、薬事委員会において報告している。
医薬品の管理は、SPDスタッフと協力して、発注、期限の確認、在庫の定数見直し、棚卸し等を実施している。医薬品は、病院敷地内にあるSPD倉庫から薬剤部内に納品されるが、SPD倉庫にない一部の医薬も翌日の午前には納品可能となっている。また、薬剤部内の冷蔵庫は、目視での温度確認だけでなく、温度ロガーでも記録している。また、病棟の定数配置薬は、必要に応じて品目、数量の検討を行い、最小限となるようにしている。
ウ 効果的かつ継続的な価格交渉
医薬品の経費については、医薬品毎の契約単価についてベンチマークによる費用分析、単品単価交渉による価格交渉を推進し、コスト削減に努めている。
2)診療材料費の削減
ア 採用品目の厳格な選定
診療材料については、診療材料・鋼製等機材委員会で審議し、選定・採用の有無を決定している。なお、緊急手術での新規診療材料が緊急に必要となる場合には、迅速に審査する等により対応している。
診療材料の納入価格は、ベンチマークに基づく適正価格での採用となるようにしている。
イ 診療材料の適正な管理と使用
診療材料はSPD管理としており、院内配置品でも開封していない場合は、SPD在庫となるため、院内在庫額は最小限にすることが可能となっている。病棟等の部署の定数配置品や手術セット等については、品目、数量について定期的に見直しを行っている。また、使用期限が切迫したものや外装ダメージがある品は、使用頻度の高い部署への配置転換や返品交換交渉を実施している。
また、医師や担当する医療技術職等の協力により、より安価なメーカー・品目への切替も適宜行っている。
ウ 効果的かつ継続的な価格交渉
診療材料の経費については、ベンチマークによる費用分析を行い、診療材料費毎の契約単価について価格交渉を行うことでコスト削減に努めている。また一部製品においては、近隣他病院との共同購入による価格抑制を行っている。
3)その他支出(医療用消耗器具備品費、給食材料費、業務委託費等)の削減
医療用消耗品は、通常の診療材料同様の価格基準で採用し、特に使用量の多い物は適宜使用状況、運用方法の確認、見直しを行い、コスト削減を実施している。
各種の年間業務委託や、単価契約によるスポットの委託費は、「必要な範囲の仕様であるか」「委託業者に対し過剰な業務水準を求めていないか」など適宜仕様を見直し、費用対効果についても検証を行った上で、契約更新時に価格交渉を実施している。
さらに委託業者とは協力関係を構築し、協働して業務の効率化、コスト削減を図っている。また、コンサルタント業者に業務委託費の業務量や価格妥当性の検証を依頼し、交渉の参考としている。新規導入案件や継続案件については、数年毎に一般競争入札、見積競争を実施し、契約相手を決定することで支出の削減に努めている。
④ 改革プランの対象期間中の各年度の財政計画
学校法人全体と大学病院の財政計画を、第4次中期目標・中期計画(令和4年度~令和9年度)の期間について策定している。病院の財政計画では、診療収入に係る目標(病床稼働率、平均在院日数、新入院患者数等)、人件費等の動向、施設設備、医療機器の更新計画、減価償却額の見込み等を反映させている。
今後は、経営環境の変化、決算実績及び病院収支改善の進捗を踏まえ、必要に応じて見直しを行う。また、令和10年度以降の財政計画も別途策定する。