産業医大未来構想 2040 ~長期ビジョン~
長期ビジョン策定の目的、背景
産業医科大学は、「医学及び看護学その他の医療保健技術に関する学問の教育及び研究を行い、労働環境と健康に関する分野におけるこれらの学問の振興と人材の育成に寄与する」という本学の寄附行為及び学則で定められた「目的・使命」のもと、政策目的大学として1978年に設立された。
「産業医学の振興と優れた産業医・産業保健専門職の養成、質の向上」は、「目的・使命」を端的に表すものであるが、これとは別に、卒業生の心に残るものとして、初代学長が第1回医学部入学式祝辞で語られた「建学の使命」※が挙げられる。
開学以来、これらの精神を受け継ぎ、本学が担うべき役割について、全学をあげて取り組み、2004年度からは、「事業に関する中期的な計画」として6か年ごとに「中期目標・中期計画」を定め、現在は第3次の中期目標を達成すべく取組を進めている。
超少子高齢社会を迎え、今後も産業構造の変化、働き方の多様化をはじめとする変化が続き、高等教育機関を取り巻く教育・研究環境及び社会経済状況は、厳しさを増していくと予想される。
開学から43年を経過した2020年には、これまで体験したことのない世界的な新型コロナ感染流行など、次々と即応して乗り越えなければならない未曾有の危機に直面している。
このような中で、産業医科大学が、教育、研究、診療、社会貢献及び大学運営を永続的に継続・発展させ、更なる飛躍を遂げるため、現状と課題を十分に認識し、本学で学び、働くすべての人々の将来と本学のより良い未来を創造するために、「長期的なビジョン」を策定する機運が高まった。
※参考
〇-第1回医学部入学式(1978年度)における初代土屋健三郎学長の祝辞をまとめたもの―
「産業医科大学建学の使命」
1
産業医科大学は人間愛に徹し生涯にわたって哲学する医師を養成し、
2
産業環境を中心とする環境科学とライフサイエンスとの融合発展に努力を払い、
3
経済学をも含む新しい生態学を発展せしめ、
4
産業化社会における産業医学の確立のみでなく、地域医療との有機的な結合をはかり、
もって
二十一世紀の医学分野における先駆者として、人類のより良い生存をかちとるための新しい福祉社会を
樹立することを建学の使命とする。
産業医大未来構想2040
産業医科大学は、「産業医学の振興と優れた産業医・産業保健専門職の養成、質の向上」を目的とする我が国唯一の大学である。
また、産業医科大学病院は、北九州医療圏で唯一の特定機能病院であり、最大の病床数を誇っている。
このような本学の特色や強みを活かし、その「目的・使命」を達成し続け、永続的に発展していくため、2021年に20年の長期ビジョンを策定し、「産業医大未来構想2040」と呼称する。
「産業医大未来構想2040」は、開学60年を超える20年後(2040年)の本学の到達点として、本学のあるべき姿・目指すべき姿を学内外に向けて示すものであり、働くすべての人々にとって、より良い未来を創造するための指標となるものである。
今後も、産業医学・産業保健分野の第一人者としての知見を社会に還元し、本学が今まさに果たさなければならない使命を力強く担っていくため、今後20年間にわたるビジョンを次のとおり掲げる。
◆ 期間 2021年(令和3年)4月1日 ~ 2041年(令和23年)3月31日 産業医大未来構想 概要
◆ 全体ビジョン
1 社会経済の構造変化に合わせ、課題を的確に把握し、社会から求められる大学、存在感のある大学として、本学の役割を認識し、永続的に発展する。
2 本学の強みである産業医学・産業保健に関する知識・経験の蓄積を基盤とした教育、研究、診療の提供により、広く社会に貢献する。
3 産業医学・産業保健と複数分野の協働により、産業医学・産業保健分野において、世界の中心的な学術拠点であり続ける。
4 すべての教職員が、本学に所属することの誇りを持ち、次世代の産業医及び産業保健専門職の継続的養成を実践する。
5 すべての働く人に産業医学・産業保健を届けるための、教育、研究、診療、社会貢献及び大学運営を行う。
本学の中心的活動である①教育、②研究、③診療、④社会貢献、⑤大学運営の5分野について分野別ビジョンとして、次のとおり目標及び施策項目を定める。
◆ 分野別ビジョン
1 教育
産業医学・産業保健を通して社会の成長発展に寄与できる人材、また、人間愛に徹し、生涯にわたって哲学する豊かな人間性と高い倫理観、行動力を備え、多様性を尊重する人間力のある人材を育成する。
そして、世界の産業医学・産業保健をリードするプロフェッショナル人材を輩出する。
(1)
産業医学・産業保健を通じて社会に貢献するプロフェッショナル人材の育成
①
豊かな人間性と高い倫理観、行動力を備えた人間力のある人材を育成する。
②
新たな社会の課題を解決し、持続的な発展成長を実現していく人材を育成する。
③
質の高い産業医・産業保健専門職を輩出するため、優秀な学生を確保する。
④
科学的能力に加え、創造力と実行力を持ち、多様性のある専門職を養成する。
⑤
臨床医学の基盤を持つ産業医・産業保健専門職、産業医学の視点を持つ医師、看護師など、多角的な専門性を持ち、産業医学・産業保健の発展に中心的な役割を果たす人材を輩出する。
(2)
医学、看護学、産業衛生学を基に人材教育のベースとなる専門分野の卒前、卒後教育の強化
①
学生が自ら主体的に学べるようICTを活用した支援を行う。
②
卒業生全員が国家資格を取得しうる質の高い教育を行う。
③
産業医学、産業保健の中心となる人材育成のための卒後教育を推進する。
④
複雑な社会変容にも適応し得る人材となるための専門教育を強力に推進する。
⑤
グローバルな視点により、留学生の教育活動に積極的に取り組み、世界からのニーズへ的確に応える。
(3)
日本を代表し世界をリードする産業医学、産業保健教育の拠点の確立
①
産業医学・産業保健マインドを醸成し、産業医学分野を開拓・牽引できる人材を輩出する。
②
近隣のアジア地域をはじめ、国際的に活躍するグローバルな人材の養成拠点として確立する。
③
産業環境科学とライフサイエンスを融合させ、更なる発展ができる教育を確立する。
④
本学卒業生や関係諸機関と連携し、相互発展性のある体制を構築し、産業医学、産業看護、労働安全衛生などの幅広い教育を充実させる。
⑤
他学卒業生にも開かれた教育体制を構築する。
(4)
新たな教育システムの整備
①
ICTを活用した産業医学分野の卒前教育環境を整備する。
②
産業医・産業保健専門職の再教育システムを構築する。
③
国際的視野を育む大学院の教育体制を構築する。
④
世界的に通用する産業医、産業保健職、産業看護職、オキュペイショナルハイジニスト、安全専門家の教育を構築する。
⑤
学内データを収集・分析し、学生支援や教育の質向上を図る。
2 研究
医学及び看護学その他の医療保健分野において、高い科学性及び倫理観に立脚した、世界をリードする新たな知を創造し、医学・医療に貢献できる研究はもとより、産業医学とそれらの融合的研究を推進する。
更に、本学が産業医学研究の中心拠点となることを目指す。
(1)
産業医学と他の研究分野との融合発展の推進
①
産業医学と臨床医学を含むその他のライフサイエンスとの融合的な研究を推進する。
②
産業医学と経済学などの社会科学分野との融合的な研究を推進する。
③
産業医学・環境科学・生態学を融合した新しい産業生態科学の研究を推進する。
④
産業医学と他の研究分野との融合的研究を大学全体として効果的に遂行する仕組みを構築する。
(2)
世界をリードする新たな知の創造と産業医学分野の中心拠点形成
①
最先端かつ独創的で国際的にも評価の高い優れた研究を通じ、新たな知の創造とその実践を推進する。
②
「医療・保健分野」において、国内外での大学評価上位を目指す。
③
国際的に活躍する次世代研究者の育成・輩出を推進する。
④
産業医学における疫学研究の高品質なビッグデータの集積及び分析を通じ、働く人々の健康に貢献する仕組みを構築する。
⑤
国内外の産業医学を牽引する研究の中心拠点を形成する。
(3)
産業・社会構造の変化に対応した研究の推進
①
産業・社会構造の変化あるいは自然災害や感染症の流行などに伴い新たに発生した産業医学上の問題に対する研究を推進する。
②
超高齢社会に対応した産業医学研究を推進する。
③
社会のニーズ・要請を受け止め、また将来の変化を先取りし、期待以上の成果を生み出す研究・技術開発を推進し、その社会実装と普及を目指す。
3 診療
産業医学・産業保健を推進する教育機関であり、高度で先進的な医療を行う特定機能病院である大学病院と若松病院が共同して、地域社会における基幹病院としてあり続ける。
そして、今後の社会経済構造・疾病構造・就業構造の変化に対応した診療体制を構築する。
(1)
職業関連疾患専門医療機関としての先進的医療の提供
①
職業関連疾患に関する最先端の診断・治療を行うとともに予防策を策定し、就業・就学との両立も含めた全人的医療を提供する。
②
社会構造の変化に対応し、また、高齢者・障害者も就労できる取組を支援することにより、働きたい人々が持てる力を最大限発揮できる社会を追求する。
③
我が国における職業関連疾患に特化したセンター機能の充実を図る。
(2)
特定機能病院としてふさわしい高度で最先端かつ安全な全人的医療の提供
①
北九州市で唯一の特定機能病院、そして「医療の最後の砦」として、先進的医療及び地域のニーズに柔軟に対応した全人的医療を提供する。
②
ビッグデータやAIを活用し、エビデンスに基づいた安心・安全で、より適切な診断・治療を提供できるシステムの構築を目指す。
③
最先端の医療を提供し続けるため、診療分析と収益構造の継続的見直しを徹底することにより、安定した病院収益を確保する。
(3)
地域の人々が安心できる地域基幹病院としての医療体制構築
①
感染症を含む未曾有の災害に備え、必要な先進的医療を過不足なく提供する体制を、福岡県、北九州市及び周辺の医療機関と協力して構築する。
②
全年齢層において、ライフデザインサポートも念頭に置いた、切れ目のない医療を目指し、連携医療機関・かかりつけ医・介護施設等との強固な連携を構築する。
(4)
人間愛に満ちた医療人の育成
①
大学病院及び若松病院の存在意義を認識し、高い倫理観を持った人間性豊かな医療人を育成する。
②
全人的医療を提供するための医学知識及び医療技術を普及し、発展させる人材を育成する。
4 社会貢献
世界中の働く人々がより良い生存を享受できる福祉社会の実現を目指し、優れた産業医・産業保健専門職を養成する。
また、産業医学の知見を国内外に発信し、産業保健の活動を支援する。更に、地域社会に信頼される医療機関として、地域の人々の健康増進を図る。
(1)
我が国における産業保健の推進
①
優れた産業医・産業保健専門職を輩出する。
②
良質な産業医学関連情報の発信及び普及を進める。
③
現場の産業医・産業保健専門職との相互発展性のある連携体制を構築し、支援する。
④
仕事と治療の両立支援を通して、すべての人が生きがい、働きがいを持って各々活躍できる社会の実現を目指す。
⑤
日本医師会等による産業医学の教育研修を支援する。
⑥
SDGsの視点から、産業保健における課題を整理し、取組を進める。
(2)
学術団体及び国際的な産業保健活動への協力
①
産業医学関連学会活動を推進する。
②
WHO協力センター(WHOCC)としての活動を推進する。
③
産業保健に関する国際交流・協力を推進する。
④
海外進出企業の産業保健を支援する。
(3)
地域及び全国における保健医療活動の支援
①
北九州医療圏の医療機関との連携を強力に推進する。
②
産学官の連携を強化し、ニーズに合った産業保健活動を提供することにより、地域社会の発展に貢献する。
③
生涯学習の機会提供など高等教育機関としての役割を果たす。
④
地域の保健団体による活動に協力する。
⑤
大規模災害や感染症の発生時に、地域の保健医療専門職を支援し、働く人の健康確保を支援する。
5 大学運営
本学の永続的な発展に向けて、本学の進むべき方向性を大学構成員全員が共有する。
また、少子高齢化、技術革新、産業構造の変化、働き方の多様化及びグローバル化等の社会経済構造の変化に対応し、課題解決を図る大学運営を進める。
(1)
大学の発展を支える教職員の育成と活力ある組織づくり
①
教職員の育成と活躍を促進し、個々が高いパフォーマンスを発揮する。
②
公平・公正な能力重視の人材登用を行うとともに、多様な人材を確保する。
③
教育・研究・診療のいずれについても優れた能力を持ち、本学の使命達成を担う教員を確保する。
④
教職員の評価を適正に行い、教職員の質向上に努める。
⑤
ICTを駆使した活動・運営を展開する。
⑥
「働く人を大切にする、働きがいのある、働きやすい」職場をつくる。
⑦
本学卒業生をも含む産業医・産業保健専門職と相互発展しうる連携体制を構築する。
(2)
大学発展のための強固な財政基盤の確立
①
継続的な大学運営を支える揺るぎない経営基盤を確立する。
②
経営戦略に基づいた経営資源の投入と自主財源の確保を行う。
③
地域の冠たる診療と信頼に基づく安定した病院収益を維持する。
(3)
産業医学・産業保健の教育研究拠点及び特定機能病院としてふさわしい施設環境の実現
①
大学運営を支えるための施設整備を着実に進める。
②
将来を見据えた大学施設・設備・機器の更新を行う。
③
学生、患者、職員などに選ばれる大学及び病院づくりを目指し、環境を整備する。
(4)
本学の魅力や強みを発信する積極的広報
①
本学の存在意義を余すことなく、分かりやすく発信し、社会に対する説明責任を果たす。
②
産業医学・産業保健の分野において、他の追随を許さない第一人者としての積極的広報を行う。