人間工学 研究内容

研究テーマ

1.動物モデルを用いた交替制勤務に関する研究

交替制勤務は労働現場における睡眠障害を引き起こす代表的な原因の1つです。睡眠障害だけではなく、代謝性疾患あるいはガンなどさまざまな慢性の健康被害も引き起こす可能性も指摘されてきています。現在我が国ではさまざまな職種、たとえば製造業、保安職あるいは医療等の保健サービスなどで、多種多様な交替勤務が存在しています。そして、それぞれの職場においてそれぞれ一定のルールを決め、「最善」と思われるスケジュールで勤務を行っているものと思われますが、基礎的研究の知見がほとんどないため、それらが真に急性あるいは慢性に健康被害が少ないスケジュールであるかどうかは不明な状況です。そこで当研究室では、最適な交替制勤務モデルの提案を目指したトランスレーショナルリサーチ基盤の構築を目指し、交替制勤務における急性・慢性の健康上の問題について調べるため、適切な実験動物モデルの構築を目的とした研究を、平成25年から26年にかけて産業医科大学高度研究の助成をうけて行ってきました。給餌や運動の制限などを用いて実験動物が能動的に脱同調を起こす実験モデルの構築がほぼ終了しました。現在も研究を継続し、本モデルを用いて交替勤務モデルの体温や活動リズムの記録を行っています。また、高度研究での共同研究も継続し、本学の第一生理学や職業性中毒学と共同で脳内および末梢の時計遺伝子の動態や行動学的研究も行っています。これら共同研究と並行し、本年度は睡眠の記録・解析を行うシステムの構築を終えたので、交替勤務モデルにおける睡眠の解析を進め、今後は交替勤務パターンを変えた場合の生体への影響などを詳細に検討していく予定にしています。

2.活動量計・サイコモータービジランステストなどを利用した睡眠衛生研究

労働者の仕事・作業中のパフォーマンスは、本人の覚醒度に大きく左右されます。したがって、不眠症、睡眠時無呼吸などの睡眠障害、あるいは睡眠衛生の不良によって日中の眠気がもたらされ、ひいては覚醒度の低下がおこることは、生産性の低下につながるばかりでなく、さまざまなレベルの事故の原因にもなります。しかしながら、そのような覚醒度の低下は自覚されない場合も多く、客観的に判断する方法も少ないことから、労働現場での評価が困難な状況であると考えられます。

当研究室では、覚醒度の評価を客観的に行うために、眠気と相関することが示されている「サイコモータービジランステスト」に注目し、産業現場におけるその適切な利用方法について検討を開始しています。また、睡眠の問題によって日中の覚醒度に問題があるとなった場合には、睡眠衛生状態を評価する必要がありますが、その評価を客観的に行う方法として、活動量計と睡眠日誌を併用する方法を導入しています。現在は研究室レベルの実験を行っておりますが、今後はこれらの手法を実際の労働現場での問題に役立てることができるよう、展開していきたいと考えています。

3. 作業動作アシストツール職場導入支援に関する研究

近年、職場における筋骨格系障害の予防、高齢労働者支援などを目的としてスマートスーツライトを代表とする作業動作をアシストするツール(作業動作アシストツール)に関する多くの研究開発が行われてますが、産業保健の立場からみると様々な問題が残されており、実際の職場への導入に当たっては職務内容とツールの親和性などの評価に基づいた、適切な導入プロセスの提案が必要であると思われます。本研究テーマでは、様々な職場への適正な導入プロセスを示したガイドラインを構築することにより、作業動作アシストツールの職場導入を促進すると同時に、ツール開発者へ技術的フィードバックを行い、ツール開発を支援することを目的としています。平成26年の7月から北九州市の助成を受け、北九州市内の製造業、建設業、介護施設、および全国の作業動作アシストツール開発企業が参加する研究会を立ち上げているところです。平成27年度の研究会活動として、研究会に参加している企業において、本研究会で提案している作業アシストツール職場導入マネージメントシステムに基づき、職場毎に導入プロセスを設計し、作業動作アシストツール導入評価実証試験を開始しているところです。

4.職場における転倒予防に関する研究

平成26年の厚生労働省の労働災害発生状況によると、労働災害の中で転倒を原因とするものは、26,982件で要因別では第1位です。転倒災害は通路の移動中に最も多く、年齢が高くなるにつれて件数は増加し、50歳〜59歳が全体の約4割以上を占めると報告されています。厚生労働省では今年の1月から「STOP!転倒災害プロジェクト2015」を開始していますが、当研究室では、本年度より、転倒災害と関連があると考えられている歩行中の動的バランス機能に影響する様々因子に関する研究を開始しました。今後、様々な見地から転倒予防に関する研究を行って行く予定です。